第115話 婚約者の甘い態度と厳しい報告
つらつら考えているとドアの外で何かもめている声が聞こえた。
「僕は彼女の婚約者だ!」
「しかし……」
「いいから開けろ!」
私は別に罪人として監禁されているわけじゃないから、ジークが押せば、それを跳ね返すだけの正当性はない。外を守っていた衛兵はしかたなく鍵を開けた。
「あ、あの、王太子殿下。もう夜も遅うございますし……」
部屋に侍女が一人控えていたがおずおずとジークに話しかける。
「大丈夫だって、気になるなら離れて目をつぶっててよ」
部屋に入ったジークは軽い調子で侍女に話しかけ、そして私に近づいてきた。
侍女はどうすればいいのかわからず部屋の隅っこに下がる。
「サラ、こっちへ」
ジークが私の肩を抱いて部屋のある所に連れていく。
天蓋ベットの上に……。
って、えぇっ!
私たち二人はベットの端に並んで座った。
ジークが私の手を取ってキスをする。
侍女は目のやり場に困っている模様。
「あ、あの、ジーク……」
「しっ! こうしていれば侍女は近づいてこないし秘密の話をするには都合がいい」
ああ、そういうこと。
「続きをしてもいいというのならそれも悪くないが」
「ジーク!」
「はは、残念ながら今はそれどころじゃないか。手短に状況を言うね。父上たちはエドゼルをエサに公爵夫妻とフェリシアを呼びつけて、同じように拘禁しようとしている。ブリステル一家が全員揃ったら有無を言わさず殺されるかもしれない」
「そんな!」
「王宮内に張りつめている空気は異常だ。何かまがまがしきものに操られている感がある。そのまがまがしきものの発生源が母上で、どうしていきなりそうなったのかがわからない」
ジークには魔物であれ人間であれ邪な気配を感知し、それに影響されない特殊能力がある。これはもともとの素質(光属性得意)もあるが、帝王学で奸臣や佞臣に惑わされぬ訓練をするうちに身に着けた能力だそうだ。
「フェリシアたちに伝えなければなりませんね。王宮に言ってはダメだと」
「ああ、プリュムを飛ばそうともおもったけど、結界が張られていてそこを越えられない」
プリュムとは伝令用の魔法で生み出された小鳥のこと。
「では、誰かが公爵邸に行ってそのことを伝えなければ……」
「公爵家が全員揃わない限り王宮にいるエドゼルは殺されない。ブリステルは軍事のかなめ。エドゼルを問答無用で処刑すれば内戦状態になる。それだけは避けねばならない」
「私が風の力で飛べば……」
「頼めるかい?」
私がうなづくとジークは私の肩を抱いたまま、今度はベランダの窓を開けてバルコニーに出た。
「侍女は眠らせて時間を稼いでおく。君はかまわず行ってくれ」
「ええ、ついでにリーニャたちも一緒に脱出させるわ」
「彼女たちは二階の角部屋だ」
「わかったわ」
私は三階のバルコニーから飛び降り、風の力でそばにある樹木の枝に着地。
そして樹々を伝ってジークが言っていた二階の角部屋を見つけると、バルコニーに飛び移り、そこからノックした。
「迎えに来たよ、リーニャ。私と一緒に王宮を出よう」




