第111話 よみがえった記憶【ユリア(ミリア)視点】
東駐屯地の方からエルフの特使が派遣される日の午後、医療部がいつも通り業務を進めていたところ、騎士の一人が急にあわただしく駆け込んできた。
「エミール王子が重傷を!」
その後、王子を抱えたセイダさんがやってきた。
「出血がひどい、まず血止めを!」
みぞおちのあたりを魔獣に刺されたらしい。
傷は内臓まで達している可能性もある。
魔獣には毒を持っているものも多く毒の性質も様々だ。
でも、初めて見る種類だったのでそもそも毒を持っているかどうか、持っているとしたら一体どんな類の毒なのか、まったくわからない。
「ユリア、血止めの土属性と洗浄の水属性を」
わからないまま手さぐりで治療を続ける。
「そうだ、エルフの森に治療師のアルツ氏がいるそうです。呼び寄せることはできませんか?」
「すぐ連絡を!」
幸運にも今ちょうどエルフの王に会いにいっていた治療師がいるそうだ。エルフの森の近くの東の駐屯地はこちらと転移装置でつながっている。
しかし間に合うのか?
エミール殿下の顔色がだんだん悪くなり呼吸が小さくなっていっている。
「同時に光魔法で毒消しをした方がよいのではないでしょうか?」
私は提案してみた。
光には魔獣の毒を消す効果がある。
「いや、君の魔力容量じゃ三つの属性を同時にはできないだろう。毒が含まれているかどうかも分からないし、含まれていないのなら光に使った魔力が無駄になる。今は土で血止めに専念してくれ」
セイダさんが殿下のけがの様子を見て言った。
私にもっと魔力容量があれば……。
凄腕の治療師なら、初見の魔物にやられた怪我でも自動的に適切な属性の魔法を放って治すことができるらしい。
悔しいな。
目の前でどんどん様態が悪くなっていく人がいるのに、力不足でできることが限られているなんて。
「アルツ氏はまだか!」
見守っている方々に焦りの色がでてきた。
もっと、もっと、魔力を注ぎ込んで、ああ、じれったい……。
なんでしょう、この感覚?
自分はもっとできるのに、何か壁に阻まれて力を出し切れていないような?
もっと、もっと……。
限界を超えて自分の力を絞り出すようにしたその瞬間。
あくまで体感だが、自分の中の壁がパリンと割れてもっと大きな力が流れそれを放出できるようになった。
血止めのために傷をふさぐ速度が上がる。
それと同時に頭の中に膨大な情報が流れ込んできた。
「アルツ氏がいらっしゃった!」
間に合った。
「おお、よくぞ応急処置を施してくださった。後は任せて」
私はアルツ氏に席を譲る。
そのとたん足元がふらつき、先輩治療師に倒れるところを支えらた。
「疲れたでしょう。少し休むといいわ」
私はうなづき下がらせてもらうことにした。
治療に専念していた時には無視していたけど頭に流れ込んできた膨大な情報は、私がここに来る前の記憶。
家族全員を魔物に殺されたユリア・ポーラスなんて嘘。
私の本当の名はミリア・プレデュス。
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次回からは新章です。




