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第101話 エルフと聖樹と人間への愛【精霊王視点】

 私たちエルフはドゥンケルヒンターの森の精気から生まれる、ゆえに我らが一族は皆が兄弟であり家族なのだ。


  森の外に住まう『人間』と言う存在は、我らと外見は似ているが体の構造から社会体制まで大きく違っている。それでも特定の人物に強く引き付けられることはあるようで、そうやって時々仲間の誰かが人間社会の中に入っていくことは、今までもよくある事であった。


 我らが妹ミューレアも森で出会ったある男と惹かれ合い、そして伴侶となることを選択した。今までと違ったのは、その男が『王族』と言う極めて特殊な立場にあったことだ。


 ここでエルフと人間のかかわりが大きく変わることとなる。


 エルフは人間と違い社会的立場を子孫が受け継ぐということがない。

 森の奥にある聖樹ユグドレーシアの精を一番多く受けて生まれたものが時代の王となる仕組みである。


 当時私は次代の王として今上王のそばで修業中の身だったが、ミューレアは私の次に多く聖樹の精気を受けた存在で強大な魔力を持っていた。


 そのミューレアの血が混ざったことで、人の国の王侯貴族の魔法能力は飛躍的に上がった。私たちも妹の血が混じった人の子と友好関係を結ぶのはやぶさかではなかった。森を知る私たちは人間に魔物情報を教えるようになり、その協力関係は今も続いている。


 その数百年の間にミューレアは世を去り、子孫は代を重ねていった。


 私たちにとってはほんの昨日の事のようなのに、人間たちにとってはそうではないのだろう。王国は随分様変わりした。その間に王族がつまらない理由で他の貴族を滅ぼす凄惨な事件が何度も起こった。人間同士のいさかいに口をはさむのは控えたが、どちらも共にミューレアの子孫、胸が痛まないわけがない。


 そしてまたある高位貴族の家が王族によって葬り去られようとしていた。


 年老いた夫婦と妙齢の女性。

 こんなかよわき三名が何をしたというのだ?


 着の身着のまま、壁の端まで連行された三名が何やら怪しげな薬を注射され突き落とされた。


 転落していく彼女を私は飛翔しながら受け止め、そしてエルフの里へと連れ帰った。老夫婦も他のエルフが受け止めてくれ、共に連れ帰ることができた。


 三名はヴェルダートルと言う公爵家の者たちだった。

 若い女性の名はイレーネと言った。

 人間社会の中に入り込んだエルフの味方によって、三名に罪なきことはすぐに分かったので、彼らはエルフの森でかくまうことにした。


 イレーネの心は信頼していた者に裏切られた衝撃や父母を巻き込んでしまった自責の念に打ちひしがれていた。


 その傷ついた心を癒すために私に何かできないだろうか?


 震えるその体を包み込んでやりたいと思った。

 泣き顔を笑顔に変えるためには何でもしてやりたいと思った。


 かつて妹ミューレアが言った「かけがえのない存在」という意味がおぼろげに理解できたような気がした。

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