妹
「ただいま」
返事はない。
玄関から続く廊下を隔てるように存在する扉の隙間から光芒が見えた。
一度自分の部屋に荷物を置き7月とは思えないほどの暑さで上がった呼吸を整えつつ、ドアノブに手をかけた。
刹那、乾燥した空気に包まれる。特段涼しいわけではなかったが除湿をしているだけでも十分なほどに涼しく感じた。
そんな、快適とは言い難い部屋の中、木の長机に突っ伏して寝ている妹がいた。私の帰りを待っていたのだろうか。手にはミリペンが握られ、机にはやや筋肉質の男性が描かれたスケッチブックが置いてある。いつから寝ているのだろうか、喉を壊しそうでならない。
「…ぅん、んぅん…ぁあ?」
「ほら、夜ご飯作るから机片付けろ」
ふにゃふにゃとまだ理解できていない様子であったが、妹は机に広がった画材をかき集め、抱え込むようにしてせっせと二階に上がっていった。
私は昨晩作り置きしていたパスタソースを温め、水を深鍋に入れ火にかける。
「いただきます!」
昨晩のうちに仕込みをしていてよかった。結局帰ってきたのは夜七時、食べ盛りの妹には辛かったであろう。勢いよく頬張る妹を見ていると、何処か申し訳なく思った。
「珍しいね、こんなに遅いなんて」
「いや、まぁ色々あった」
ふーん、と素っ気なく返したかと思うと、勢いよくパスタを平らげ。
「さては、女だな」
間違ってはないが、少し遅れただけで女だと決めつけるのはどうかと思うぞ妹よ。決して間違ってはないけども。
「…………」
「……まじで?」
マジだよ。
「まぁ、高校生だし?そういうことm」
「嘘だ!幻覚だ!」
おい、しれっと幻覚言うな。てかそんなに驚くことか?
勢いよく立ち上がったと思ったら、わなわなしている。
机の周りを2、3週したかとおもうと息を切らしながら言った。
「家族…っはぁ…はぁ…会議だ!」
「なんだそんなことか」
一通りの説明を受けた妹は不服そうな顔をしてソファーに身を投げ、足の指を開いたり閉じたりしていた。
家族会議といえど、共働きのため両親は出席していなかった。
今思い返せばあの時。
『大井!!』
『いっ、一葵君?!』
『あのさ、あの……明日話さない?』
細かいことまで覚えて無いが、追いついて話した内容だけは覚えていた。あまりにも突飛なことで自分でも何でこんなことしたのか分からなかった。
そうして悩んでいると妹がニタニタさせた顔を向けた。
「いいねぇ~、これが青春ってやつですかえ?」
絶対に使い方が違う方便、否、方便ですらわからない話し口調で煽ってきたのに対し、そうかもな、と素っ気なく返した。それに妹は少し頬を膨らませたものの、大きくため息をついたかと思うと「じゃ、もう寝るわ。がんばってねー」と手をひらひらさせ、二階へと上がっていった。
「……………」
「俺も少し書いたら寝よう」
そう言って寝たのは翌朝の3時であった。
読んでいただきありがとうございます。
過度な期待はしないで、ゆっくりと読んでいただけると幸いです。
今はまだしっかりとエンディングが決まっておらず、自分の好きを詰め込んでいるだけなので、全然話が変わります。流石に主人公は変わりませんが。自分の今持っている記憶で頑張っていきたいと思います。
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