気になってしまった
一葵 優凛 (いつき ゆうり)15歳
中学一年から小説を書き始めた。いつも学校では一人図書室でパソコンに向き合う毎日。
大井 來羽 (おおい らいは)16歳
陸上部で活動する傍ら、絵を描いている。女子特有の群れることが嫌いでいつも一人でいる。
そろそろ液タブも買い替え時か…
放課後、夕日が外の池に反射して図書室の天井が揺らぐ中。
液晶画面を睨む 私 一葵優凛 15歳 高1。
学校に馴染めないでいる私はこうして、昼下り図書館に
来るようになった。
司書さんとも仲良くなり、よく鯉がいる池を見ながら本を読んだりもした。
司書さんとは特に世間話もないけど、本を紹介し合う人ができて嬉しかった。荘厳な雰囲気漂う校舎に響き渡る喧囂、図書室はその避難所となっていた。
そして、時々こうして代わりに司書をするようになった。
そして今、スマホと対峙している。
「どうしたもんかな……」
私はSNSという世界に馴染めないらしい。
そもそもスマホ自体、私は持ちたくなかったのだ。
やはり便利なのは確かだが、「怖くね?」
契約してから約2ヶ月使ってみたが、平然として嘘が群をなして泳いでいる。
メディアリテラシーを教えてくれた情報の先生マジ感謝。
と、頭の中で感嘆していると眼の前に女性が立っていた。
私は慌ててバーコードリーダーを構えると、本を一冊ずつ、
計4冊渡してきた。
百科事典「すばらしい世界」
絵本「きりぎりすの親子」
小説「でぐち」
エッセイ「すごいとうまい」
どれも異なったジャンルのもので一貫性がないことに若干の
違和感を覚えたが、特に気にしなかった。
「返却日は……」カレンダーを確認しようと顔をあげると、
そこには見慣れた顔があった。
陸上部の確か……大井さん?だったはず。
同じクラスで他者に依存しない性格言うなれば、一匹狼タイプの彼女は異質な存在感を放っていて、人を覚えるのか苦手な優凛でさえ強く印象に残っていた。
「6月24日までです」そう言って栞を渡すと、
どこか寂しげな表情で図書室を出ていってしまった。
何だったんだ………
流れる沈黙、まるで時の狭間に囚われたように私は私を忘れた。
心臓の鼓動、加えて雨までもが私を嘲笑する。
……
…………
あぁもう!
私はリュックサックを捨て置き、静寂を打ち破る。
勢いよく扉を開ける。図書室内にいた数人程度の生徒が驚き、こちらを注視するが、そこにはもう姿はみえなかった。
梅雨独特の匂いに包まれ、暗い廊下は不穏な雰囲気を醸し出していた。
帰宅する生徒たちを横目に通り過ぎ、私は正面玄関へと走った。
どうしてあんなに悲しい顔を見せるんだ。
制服は雨に濡れ本来の機能を果たさず、健やかに鍛えられた男児の肌を曝け出す。
どんなに見苦しかったことか、想像もしたくない。
雨の冷たさと疲労感が理性を呼ぶ。
何故走る
彼女の顔が気になったから。
何故今会おうとする
…今しかないと思ったから。
何故そこまでする
それは…………。
本当は分かっていた。私がどうして彼女に執着するのかなんて
簡単なことだったが、
気になるから。そう胸の中に落とし込んだ。
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