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第96話:地下駐車場 <薫サイド>

見直しました。

◆8月3日(月)


―0630―


その日の朝、水草薫みずくさかおるは最悪の気分だった。目覚めてすぐに、元カレの藤田(かける)と昨日、会った時のことが脳裏に蘇ってきたからだ。

翔とはもう会わないと決めていた筈なのに、偶然とはいえ、会ったこと自体が間違いだった。しかも、二人っきりで、あんなに長く話し込んでしまったのだ。と言っても、そのほとんどは薫が自分の勝手な思いを、彼に一方的にぶちまけただけである。


最低だ。


強い自己嫌悪に襲われた薫は、バイトに行くのも止めて一日中、布団ふとんの中に引き籠っていたかった。

それなのに、こういう時に限って、誰かに起こされるのだ。誰かと言っても母の佳代は隣で熟睡しているので、妹のかえでしかいないのだが……。


「お姉ちゃん、起きて、起きてよお」


なんか、楓の様子が違う。どこか焦っている感じだ。

薫は大きく伸びをして、枕元にあったスマホの待ち受け画面に目をやる。六時半だった。


「もう、お姉ちゃんったら、何やってんの。早く起きなってばあ」


尚も焦った様子の楓は、薫の腕を引っ張って起き上がらせようとする。

そこで、ようやく薫は気付いた。夏休みだというのに、楓がこんな早い時間に起きているのはおかしい。

上半身だけ布団から起こした状態で、薫は楓に尋ねた。


「何かあったの?」

「さっき、星野曹長って人が玄関まで呼びに来たんだよ?」


実は、玄関のチャイムは鳴らないようになっている。借金の取り立て人が何度も鳴らして、うるさかったからだ。だから、誰かが来た時は、ノックしてもらうか、声で呼んでもらうことになる。

ということは、玄関のドアを叩く音で楓が起きて、それから何かがあって、楓は私を起こしに来てくれたということか?

でも、何があった?

いや、さっき星野曹長とか言ってなかったっけ?


「えーと、何で星野曹長なの?」

「知らないよ、そんなの。あ、そういや、昨夜、軍の人からお姉ちゃんのスマホに通話の着信があったじゃない。ほら、私がお姉ちゃんのスマホ、持って行ってあげたでしょう?」


楓に言われて、薫は昨夜のことを思い出す。確かに深夜、楓に起こされたような気が……。


「その星野って人、私より年下に見えるのに、軍人だって言うの。身分証とか見せられて、びっくりしちゃった……」


楓は、まだ何か言っていたけど、もはや薫は聞いてはいなかった。昨夜のスマホでの通話の相手は、北島亜紀(あき)だった。そして薫の微かな記憶によると、その彼女は薫を、どこか「面白い経験ができる」所に連れて行ってくれるらしい。昨夜は寝ぼけた状態で話していて、しかも途中で寝てしまったようなので、あまりはっきりとは覚えていない。でも、こないだの射撃訓練みたいに、朝早くだったような気がする。

そして、星野菜々曹長が呼びに来たということは……。


「そう言えば星野さん、『ぜろろくさんまる出発って、伝えてあった筈だけど』って言ってたよ。それって、ひょっとすると六時半ってことなんじゃない?」


ヤバい。大変だ。


薫は、慌てて立ち上がると、急いで洗面台に向かった。シャワーを浴びている時間は、どう考えても無さそうだ。となると、着替えだ。

ところが、下着を替えた所で薫は、着る物が無いのに気が付いた。いつもは夜に洗濯機を回すのに、昨夜はすっかり忘れてしまったのだ。つまり、デニムのパンツもオーバーオールも、どちらも洗濯機に放り込んだままの状態だった。


いやいや、それだと夜中に洗濯したって乾かないだろう。

一瞬、そんなツッコミを自分に入れたくなったけど、今はそれどころじゃない。


ああ、もう最悪。


薫は押し入れを開けて、奥から段ボール箱を取り出すと、大急ぎで中を漁り出した。そして見付けたのは、中学の時に祖母が買ってくれた桃色のワンピース。

薫は、一瞬だけ考えて、取り敢えず着てみることにした。


何これ、ピッタリじゃない。


ウエストが多少ゆるめで、胸の辺りが少しきつく感じるけど、このくらいなら全然、大丈夫。スカート丈が短めなのが少し難点かな。あ、でも、デザイン的には、この方がバランスが良い気がする。

だけど、この服、昔は余所行きの特別だったとはいえ、十年以上たった今になって、そのまま外に着てっちゃうってのは、どうなんだろう?

鏡に映る自分の姿は、どう見たっておかしくはない。それどころか、異様な程、似合ってすらいる。う-ん、似合ってはいるんだけど……。

その時、思ったことを薫は、首を振って否定した。どう見たって今は非常事態。悩んでいる時間なんて無い。


まあ、いいや。


たぶん、まだ薫は寝ぼけていて、頭のネジがきちんと噛み合っていなかったんだろう。女性としての意識だとか、社会人としての常識だとか、自尊心だとか、羞恥心だとか、恥じらいだとか……。


とにかく、今は急がなきゃ。


寝室から出て行く時に薫は、ちらっと母の佳代の方を見た。相変わらず良く寝ている。佳代は余程のことが無い限り、起きないたちなのだ。

トイレを済ませてから、急いで洗面所に飛び込む。洗顔と歯磨きの後、何とか髪の毛を見られる状態にすると、『お化粧は?』という心の声を無視して、そのまま玄関に向かおうとした。


「お、お姉ちゃん?」


何故か、楓に唖然とされてしまった。


「髪の毛、おかしい?」

「違う」

「もう、何なの。お姉ちゃん、もう行くから」

「えっ、本当にそのまま行っちゃうの?」

「だって、待たせてるじゃない。ほら、そこどいて」


ところが、楓は立ち止まったままだ。イラっとした所で、ようやく再起動してくれた。


「お姉ちゃん、その服、どうしたの?」

「中学の時にお祖母ばあちゃんが買ってくれた奴。仕方ないでしょう。他に着れるのが無かったんだから」

「だったら、私の貸そっか?」

だよ。そんな若い子の服、着れるわけないでしょうが」

「その服だって、おんなじじゃん。てか、それじゃ、私より若く見えちゃわない。どう見たって、中学生……」


薫は後半まで聞いていなかった。というより、その意味を全く理解して無かった。


「もう、今は非常事態なの。楓に新しい妹ができたとでも思えばいいでしょう」

「もう、随分と生意気な妹だなあ」

「あのね、妹というものは、生意気なもんなの」

「それ、十七年も妹やってる、この私に言う?」

「もう、うるっさーい」


最後は楓を押し退けて外に出る。そして、スチール製の階段をハイテンポのリズムで駆け下りて行った。



★★★



―0643―


古ぼけたアパートや民家が密集して建つ貧民街。そこに真っ赤な高級車が、特大の存在感を持って停まっている。アメ車のジープ・ラングラー。しかもオープンカーだ。

早朝とはいえ、平日であれば人出は多い。日雇いの肉体労働に向かう男達を始め、この時間から働きに出る人は結構いる。それと工場の夜勤帰りや水商売の女達がそれに加わるので、それなりに賑やかなのである。

そこに突然、現れたのが、この赤いオープンカーである。それだけで人目を惹くというのに、運転席にいるのは妙齢の美女で、助手席に座っているのはどう見たって今風の女子高生。注目を浴びない筈がない。特に男達にとっては、朝から目の保養である。

中には視姦するようにじろじろ見た挙句、声を掛けては追い払われる連中もいた。どんなにガラの悪いチンピラだろうと、黒光りのする物体を向けられれば、黙って退散するしかない。

そうやって、その場を離れた男達がぼそぼそと話す。


「なあ、あいつら、何処どこの組のもんだ?」

「さあ、この辺じゃ、見掛けねえ女だな」


実は、この辺りで彼女の名前を知らない時点で、どの組だろうと下っ端であることはバレバレなのだが、そんなことはどうだって良い。

そうこうするうちに、末の妹と思われる三人目の娘が、アパートの外階段を勢い良く駆け下りて来た。


「すいませーん。遅くなりましたあ」


良く響く鈴ののような声の彼女は、ピンクのワンピースでおめかしした中学生くらいの少女。もちろん、化粧などしていない。長いストレートの黒髪が所々刎ねたりしてるのは御愛嬌だ。足元は、履き古したスニーカーだった。

その子は、そのままオープンカーの後部座席によじ登って、シートの真ん中にちょこんと座った。その三人目の彼女がシートベルトをした直後、その赤いラングラーは急発進して、天王通りの方角へと走り去ってしまったのだった。



★★★



―0644―


「水草、遅刻だぞ」

「すいません。あの、連絡を貰った時はぐっすり寝てて、通話の途中でまた眠っちゃって……」

「言い訳無用。どんなに寝てたって、何かあったら起きれるようにしとけ。それに私が、『ぜろろくさんまる』って、わざわざ連呼してやったじゃないか……」

「ムリですよ、隊長。水草さん、まだ何にも訓練は受けてないんですから、寝ぼけた状態でそんな言い方したって、記憶に残らないですって」


そんなやり取りをしながらも、亜紀は頻繁に車線を変えて急ブレーキと急発進を繰り返しながら下道を突き進み、やがて東名阪自動車道に入る。そこで一段と加速したラングラーは、あっという間に名古屋高速に入り、そのまま名古屋の中心部を目指す。

時間が無くて束ねてすらいない薫の黒髪が、その間、向かい風に煽られて、後ろに激しくなびいていた。


「しっかし、お前のその格好、どう見たって子供ガキだな。菜々もガキっぽく見えるけど、水草は菜々以上だ」

「言わないで下さいよ。他に着れる服が無かったんだもの。これ、昔の服なんです」

「お前は、いつも男の子みたいな恰好ばかりだからな。あれよりは、そっちの方がずっと良いぞ」

「それ、どういう意味ですか?」

「別に深い意味はないさ。まあ、そうだな。今度、菜々と一緒に服を買いに行って来たらどうだ?」

「でも……」

「どうした。金ならあるだろう?」

「こないだ頂いたお金、借金返済の方に全部回しちゃったんです」

「だったら、カードを使え。あのカードだったら、上限なしだぞ」

「…はい」

「でも、その服、見ようによっては似合ってるぞ。なっ、菜々もそう思うだろう?」

「あ、はい。相手を油断させるには、最高ですね」

「そういうことだ。もっとも、警察の奴らの反応が心配だが……舐めて掛かってきたら、拳銃でも、ぶっ放してやれ」

「えっ、良いんですか?」

「もちろんだ。ただし、殺すな。菜々もだぞ」

「了解です。ボクは元から、そのつもりなんで」

「まあ、ほどほどにな」


いったい、どこまで本気なんだろう。この二人のやり取りを聞いてると、時々、それが分からなくなることがあるから困る。


薫がそう思っているうちに、車はどんどんと名古屋の中心へと向かって行く。


「そう言えば、これから何処どこへ行くんです?」

「あれ、言ってなかったか。金曜に話した筈だが?」

「あっ」


薫は、ようやく思い出した。


『情報部の話だと、来週、にしきの地下街でちょっとした規模のテロが計画されてるらしい』


こないだ射撃訓練に行った時、亜紀はこんなことを薫に漏らしていたのだ。つまり今は、その現場に向かっているということだ。


「ということは私、この格好でにしき地下街の高級ブティックの前を歩くってこと?」


思わずそんな疑問を呟くと、助手席の星野が急に振り返って「大丈夫ですよ」と声を掛けてきた。独り言だったのに、ちょうど高速の入口に差し掛かって減速した時で、しっかり聞かれてしまったようだ。


「その服、ちょっと古いけど、今でも充分、可愛いと思うよ」

「えっ、可愛い、ですか?」

「そうだよ。可愛いは正義だからね」

「……?」

「菜々、お前って、自分が可愛いとか言われると嫌がるくせに、人に可愛いって言うのは平気なんだな」

「当然ですよ、隊長。可愛いものを見ると、優しい気持ちになれるじゃないですか」

「お前が、優しい、か?」

「むぅ。ひっどい」

「冗談だ。怒るな」

「冗談には思えません。もう、隊長ったら……」


薫が頭に疑問符を浮かべて、星野菜々が怒って亜紀に噛みついている間にも、亜紀がフルスピードで飛ばすオープンカーはどんどんと目的地に近付いて行ってしまう。

それから間もなくして、三人の女性を乗せたラングラーは下道に降りて、とある地下の駐車場に入って行ったのだった。



★★★



―0705―


亜紀が運転する赤いラングラーが目的地の地下駐車場に着いた時、時刻は既に午前七時を過ぎていた。

亜紀は隅の空いているスペースに頭から車を突っ込むと、テントがある一角へと早足で向かう。その彼女の背中を、星野菜々曹長と薫が小走りで追い掛けた。


そこはかなり広い駐車場らしく、目的の場所までは少し距離があった。中は一応、空調が効いているようだが、それでも暑い。ところが、テントに近付くにつれて涼しくなっていく。案外、この駐車場の中で一番涼しい所にテントを張ったのかもしれない。

その白いテントは横に二つ並んでいて、その前に大勢の制服姿の警官達が既に集まっていた。


薫は最初、自分達の到着を待っていてくれたのかと焦ったが、どうやらそうでもないらしい。薫たちが近付いて行くと彼らの視線を一斉に浴びはしたものの、すぐに何かが始まる気配は無かったからだ。

それでも薫たち三人が、この集団の中で浮いてしまっていることは否めない。亜紀だけはグレーのスーツ姿だが、薫は例の桃色ワンピで、星野菜々曹長に至っては、赤いデニムのホットパンツにピンクのタンクトップ。足元は、白い厚底スニーカーだった。


薫が強烈なアウェー感に苛まれているというのに、亜紀は何のためらいもなくこの集団の前に出て、そこにいた五十代の小太りの男性に「遅くなりました」と声を掛けた。

すると、その年配の男性は亜紀に向かって、さっと敬礼をする。亜紀も同様に敬礼を返した。

薫と星野が何もしなかったからか、彼は薫たちを鋭い目付きでじろっと睨んできた。


「えーと、そちらのお嬢さん達は……」

「水草准尉と星野曹長ですが、何か?」

「随分とお若いようだが」

「水草は正式には入隊前ですが、星野はたたき上げでかなりのキャリアを持ってます。もちろん、二人とも相当に優秀ですよ」


亜紀は男の口調に不快感を覚えたようで、幾分、挑発的な口調になる。


「ほう。優秀ねえ。とても、そうは見えんが」

「何なら、ここで試してみますか。恐らく、一瞬でおたくの部下は一人もいなくなりますけど」


亜紀が男を睨み付ける。二人の視線がぶつかり合った後、先に目を逸らしたのは男の方だった。


「いや、止めておこう。北島一尉がそう言われるのであれば、そうなんだろう」

「菜々、あそこの『止まれ』の標識……」


亜紀の言葉が終わらないうちに、タタタ……という乾いた銃声が六回響いた。「止まれ」の標識には、綺麗な六角形の形に穴が開いている。

一拍遅れて、警官達から拍手が沸き起こった。


「水草、お前もやるか?」

「い、いや、もう良い。分かった」

「こっちの水草准尉の方が、射撃は得意なんだが……」

「だから、もう良い……です」


亜紀がにやっと笑う。星野菜々曹長が、まるで外人みたいに肩をすくめて見せた。



★★★



―0709―


星野菜々曹長による射撃の実演が終わった所で、男女の警官がやって来た。二人とも美男美女で、すらっと背が高い。イケメンの方は百八十越えで、美女の方もイケメンとそれほど変わらない所からすると、百七十五くらいはありそうだ。

歳は、イケメンがたぶん三十代前半。美女は薫より少し年上で、二十代後半に差し掛かった感じだろうか。

二人は薫たちの所まで来ると、男の方が年配の男性に声を掛けた。


「水谷署長、巡回班ですが、確認にはもう少し時間が掛かるようです」

「分かった」

「あ、そちらは、軍の……」

「北島一尉だ」

にしき署の小笠原おがさわらです。今日は宜しくお願いします」

「小笠原さん、こんなに若くても警視なんですよ」


口を挟んできたのは、星野曹長である。薫は小声で尋ねた。


「あの、警視って?」

「偉い人のこと。副署長でもあるんだって」

「そうなんですか」


ということは、中央から派遣のキャリア組なんだろう。

その小笠原が軽く咳払いをした。


「それと、こちらは私の部下の二村にむら巡査部長です。えーと、そちらの方は?」


さすがイケメンだけあって、薫たちへの対応もスマートだ。その小笠原が薫の方に顔を向けてきたので、ちらっと亜紀の方を見てから、自ら名乗ることにした。


「あの、水草と申します。宜しくお願いします」

「へえ、随分とお若いですね」

「若いのは、見た目だけです」

「ということは、そちらの星野曹長と同類ってわけですか……。あ、これ、名刺です」


小笠原に差し出された名刺を受け取った後、薫は「すいません。私、名刺を持ってなくて」と言って謝った。

すると、星野曹長が、「あ、自分も」と言って、名刺を受け取った。


「こうして実際に会ってお話しするのは、初めてですね、小笠原警視」

「ああ。いつも、携帯端末スマホ越しに話してたからな……」

「わあ、政宗って名前なんだ。カッコ良いじゃないですかあ」

「ま、まあな。しかし、実際に、こうして会って見ると、君は実に何と言うか……」

「あの、小笠原警視。巡回班から連絡が入りました。あと五分程で全員戻るそうです」


小笠原の後ろに控えていた二村にむら巡査部長が声を上げた。女性にしてはかなり長身でスレンダーな彼女は、何となく薫の親友の沙希に似ていなくもない。ただし、雰囲気は沙希より柔らかい。その分、大人ということだろうか?

その二村が薫に話し掛けてきた。


「あ、私、さっきご紹介させて頂きました二村愛花にむらあいかです」


二村は、そう言いながら名刺を差し出してくる。

「水草薫です。私、名刺は……」

「あ、大丈夫ですよ。でも、本当にお若いですね。それに、すっごく綺麗」

「えっ?」


二村の言葉で、水谷署長と小笠原警視が薫の身体からだにねちっこい視線を向けてくる。今の薫は子供が着るような桃色ワンピ姿。恥ずかしくて、ほんのり顔が赤らんでしまった気がする。もちろん、薫の表情の違いなど、簡単に読み取れる筈は無いのだが、二村は女性特有の嗅覚で何かを察したのか、追い打ちを掛けてきた。


「ふふっ、なかなか初々しいですね」

「あ、はい。ありがとうございます。若いのは、見た目だけですけど……」


薫は戸惑いつつも、取り敢えずお礼を言ってから、実際の年齢をどう伝えるか悩んでいたのだが……。


「ははは。水草、見た目だって才能のうちだぞ」

「なるほど。北島一尉がそう言うなら、そうなんだろうな」


亜紀の言葉に水谷署長が相槌を打って、小笠原と二村も頷いている。

だけど、自分の見た目が、どういう意味で才能なのかが、薫には気になった。それを薫が尋ねようとした所で、亜紀を中心に何やら別の話が始まってしまった。

仕方が無いので、薫は彼らと少し距離を取ることにした。


「でも、水草さん、相変わらず落ち着いてるよね」


話し掛けてきたのは、星野曹長だった。


「えっ、そんなことないですよ。私、人見知りですし」

「いやいや、普通はこんなとこ、いきなり連れて来られたら、もっとビビりまくってるって」

「そうなんですか?」

「そうです……てか、そうやって淡々と言われると、こっちが変みたいじゃない」

「それより、ミーティング、なかなか始まらないですね」

「ふふっ、やっぱり、水草さんっておっかしい」


何故か、年下の星野曹長にまでおかしいと言われてしまい、薫はますます困惑してしまうのだった。






ここまで読んで頂き、どうもありがとうございました。

次話も薫視点での続になります。あと三話、薫視点での事件のお話が続きます。


もし宜しければ、感想、ブックマーク、いいね、評価をして頂けましたら大変嬉しいです。宜しくお願いします。

ツイッター:https://mobile.twitter.com/taramiro0

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