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第95話:誤認逮捕 <翔サイド>

見直しました。


―0811―


山口沙希(さき)と思われる女性が脇を通り過ぎて行った後も、藤田(かける)はその場にとどまったままだった。彼女が走り去った方向をほんやりと眺めながら、彼は考え込んでいたのだ。


何故、沙希がこんな所にいたんだろう?


その答えを思い付く前に、またもや翔の耳に別の足音が飛び込んできた。今度はドタドタと騒々しい感じで、しかも複数だ。


慌てて振り向いた翔の目が、二人の制服を着た警官の姿を捉えた。ほんの一瞬、安堵の表情を顔に浮かべた翔だったが、すぐに怯えた状態に戻ってしまった。

体格の良い大男とやや小柄で痩せ型の男、どちらの警官も目付きが鋭く、まるでヤクザのような風貌だったからだ。しかも、片手には黒光りする拳銃を握っている。

そして極めつけは、明らかに翔のことを敵視して睨み付けてきたことだ。


「おい、そこのお前。こっちに髪の長い女が走って来なかったか?」


大男の方が訊いてきた。拳銃をちらつかせて早く答えろと迫っている。

ところが、翔は怖くて声が出ない。ああ、やっぱり警官は嫌いだ。そう思った翔だった。

すると、痩せた方の警官がボソッと言った。


「なあ、こいつも仲間なんじゃね?」

「だったら、何で逃げねえんだ?」

おれら見て、ビビっちまったのさ。ほらな、足が震えて動けねえんじゃねえの」


実際、翔の足はガタガタと震えている。


「へへへ、そっか。じゃあ、俺がちょっと痛ぶってやろうかな」

「よせよ。大ケガされたり、気絶されたりしたら、運ぶのが面倒だ。手錠を掛けるだけにしとけ」

「分かった」


大男が寄って来たかと思うと、いきなり翔の足を蹴った。軽く蹴られただけなのに、翔は床に倒れ込んでしまう。自分では何が起きたか分からなかったが、すぐに蹴られた右足とコンクリートの床にぶつけた腰に痛みが襲ってきた。

翔は、いきなり何で、こんなことをされるのかが分からない。理不尽な暴力に抗議したくても、声が出ないのだ。


「ほら、立てよ」


翔を蹴った大男が、翔の腕を無造作に掴んで引っ張り上げる。翔が立ち上がった途端、大男は意外にも素早い動作で、翔の両手首に手錠らしき物を掛けた。

カチッという音がして、手首に冷たい感触があった。

翔は、自分の身に何が起こったのか、すぐには理解ができなかった。分かっているのは、自分の腕が動かせなくなったことだけ。翔は、この警官の格好をした粗野な大男に突然、自由を奪われてしまったのだ。

翔は、自分の手首に掛けられた手錠を、ただ茫然と見詰めることしかできなかった。

そんな状態の翔に対して、痩せた方の警官がにやけた顔を向けてきた。


「じゃあさ、お前の罪状は取り敢えず、公務執行妨害の現行犯ということで良いかな?」


その警官が、またもや変なことを言い出した。翔は、彼らの何を妨害したと言うんだろう?

それなのに、大男に後頭部をぎゅっと掴まれた翔は、無理やり首を縦に動かされる。


「よしよし、これで本人の合意も得られたってことだし、この調子だと事件への関与とか仲間の情報とかも、簡単にゲロっちまいそうだな」

「で、次はどうするんだ?」

「えーとだな、警視様へのご報告だろうな」


そして、痩せた方の警官が、おもむろに無線機を取り出して話し始めた。


「……E6出口担当の宇佐美であります……はい、犯人の一人を捕獲しました。……はい、確かです。間違いありません。……えっ、ブツですかあ。えーと、持ってないようなんで、たぶん仕掛けた後か、ただの見張り役だったんじゃないかと……えっ、あ、はい。了解であります。では、速やかにそちらへ連行しますです。……あ、はい。失礼しまーす」


報告が終わると、彼は無線機のスイッチを切ってしまった。それを見た大男が言った。


「なあ、それって、スイッチ入れたままにしとくんじゃなかったか?」

だよ、ガーガーうるっせーしよ」

「イヤホン使えば、いいんじゃね?」

「お前、イヤホンしてんのかよ」

「これか?」


大男が胸ポケットから、ワイヤレスイヤホンを取り出して痩せた方に見せる。彼の太い指に挟まれたそれは、本当に小さい。


「お前だって使ってねーじゃんかよ」

「で、こいつ、何処どこに連れて行くんだ?」

「勝手に話、変えんなっての。本部の地下駐車場だとよ」

「遠いな。どっちから行く? 地上か地下か?」

「そんなもん、地下を通って行くに決まってんだろ。外に出て暑い中歩くのは御免だぜ」

「車、使えねえかな?」

「この距離でか?」

「来た時は使っただろ?」

「あん時は、カラーコーンを運ぶ為だっただろうが。それに、目の前の駐車場に車があったしよ」

「そっか。じゃあ、歩くのか?」

「ああ、そうするしかねえだろ」


ようやく、歩いて移動することが決まったようだ。と言っても翔の方は、未だに放心状態のままだった。彼には今の状況が、ほとんど飲み込めていなかったからだ。

そんな翔の肩を、いきなり大男が小突いた。


「ほら、歩け」


翔は、恐怖心に突き動かされて、足を動かし始めた。


「おい、もっと早く歩け、ボケ」


今度は痩せた方に尻を蹴られた。前のめりになった翔は、大男に襟首を掴まれて引き戻される。そうかと思うと、次は手錠を引っ張られた。


「しっかし、ラッキーだったな。あの足の速い女は逃がしちまったけど、代わりに大人しそうなのがいてよ」

「あの女のことは、警視さんに言わなくても良いんか?」

「別に良いんじゃね。言うと却って面倒だそ」

「それは、そうだろうけどよ」

「じゃあ、見なかったってことで頼むわ」

「分かった」


痩せた方の男は、相当にいいかげんな性格のようだった。翔は、沙希が助かるなら、それで良いかと思うことにした。もっとも、あの女が本当に沙希だったとしての話だが……。

しばらくすると、再び大男の方が口を開いた。


「なあ、あの警視さん、『こいつが犯人だって証拠はねえのか』って言わねえかな?」

「証拠? そんなもん、いらねえだろ。だって、こいつ、爆発があった現場に居たんだぞ」

「現場ったって、だいぶ離れてねえか?」

「まあ、万が一、こいつが無関係だったとしても、うちの優秀な警視様なら、何とかしちまうんじゃねえの。白でも黒と言い張って犯人にしちまうようなお方だもんな」

「あの警視さん、何でも数字だもんな」

「全くだ。検挙率だとか検挙数だとか……。でもよ、その前に俺のオヤジがしゃしゃり出て来そうだな」

「例の市会議員のオヤジさんか?」

「ああ、そうだ。どっちにしたって、こいつの刑務所行きは確定ってことよ。ははは」

「だとよ、良かったな、お前」


翔にとっては全然、良くない。なのに翔は、大男に頭をはたかれる。彼は軽くやったつもりだろうが、ほとんど意識が刈り取られそうになってしまう。


「ほらほら、とっとと歩けっての、このボケが」


足が止まってしまった翔の背中を、今度は痩せた方が強く押す。翔は前のめりになってたたらを踏んだが、何とか転ばずに踏み留まった。すると、またも大男に小突かれて前に足を動かす。そんなことの連続で、翔は機械的に足を動かすことになったのだった。



★★★



―0816-


そうこうするうちに、さっきの分岐の所までやって来てしまった。二人の警官は気にも留めずに通り過ぎようとしたのだが、翔だけは右手にトイレがあるのに気が付いて、「あ、ここにもトイレがある」と小さく呟いた。

もっとも、翔も警官二人と同様に、分岐した側の通路の方は見ていない。

翔は、ぼんやりとトイレの入口に目をやりながら、ふと思ってしまった。


さっき、もし別のトイレに入っていれば、こんな目に遭わなかったんじゃないか?

いや、せめてトイレを出た時、素直に改札の方に向かっていれば、警官に怒鳴られるだけで済んだのかも……。


「こら、足が止まってるぞ。早く歩け、ボケ」


またも大男に小突かれた。すると、直後に痩せた方が尻にキックを噛ませてくる。そうかと思うと、大男が大きな手で頭を掴んで揺さぶった。


「ほれ、前を見ろ前を」


翔が二人の警官からの攻撃を逃れる為に少し小走りになると、今度は早過ぎると引き戻される。全くもって理不尽だ。

そうして翔は、さっきの考えを否定した。


いやいや、たとえ改札の方に行った所で、やっぱり逮捕されてしまった気がする。警官なんて、みんな、同じだ。

ということは、そもそも腹痛を起こしたことがいけなかったんだろうか?


そう言えば、昨夜、沙希が通話を終える直前になって何やらにごちゃごちゃ言ってたのは、このことだったんじゃないか?

となれば、せっかくの沙希の忠告を無視した俺自身のせいだ。あの忠告に従って、今朝は車を使えば良かったんだ。昨夜、寝る前に車を予約しておけば、こんなことにはならなかった……。


でも、沙希は、何で知ってたんだ? それに、何であんな所に……。


パン、……パン。


乾いた音が二回、通路に響いた。

何だろうと首を捻った翔の横で、痩せた方の警官が怯え出した。


「お、おい、ありゃ銃声じゃねえか。消音器付きの」

「ああ、すぐそばだ。やべえな」


当然、銃声がした方に、警官のどっちかが駆け付けるだろうと思ったら、違っていた。大男の方の警官が、「おい、早くずらかろうぜ」と言うと、もう一人も、「そだな」と頷いたのだ。


「危ない橋は、渡りたくねえからな」

「お前、その言い方、ジジくさくねえか?」

「ほっとけ。早死したくないだけだ」

「そうだな。リスク回避は、仕事の基本だわな。じゃあ、急ぐぞ。ほら」


今度は、痩せた方に尻を蹴られる。翔は前によろめいたが、必死に踏ん張って、またもや何とか転倒を免れてほっとした。手錠を掛けられた状態で、コンクリートの床になんか転んでしまったら、悲惨なことになる所だった。特に顔とか、ぶつけてしまったら、全く洒落にならないだろう。


翔は額に冷や汗を浮かべながらも、懸命に足を交互に動かすのだった。



★★★



―0817―


という訳で、翔は二人の警官に小突かれながら、まるで時代劇で犯罪者が連れて行かれるような状態で歩かされていた。つまり、この警官達の辞書には、「人権」という言葉が無いような扱いだったのだ。

それでも翔は文句を言うことなく、足をただ機械的に動かし続けるだけだった。さっきから翔の頭は空回りしてばかりで、考えをまとめることすらままならない。次々と起こる異常事態に、心が全く付いて行けてなかったのである。


そんな状態の翔でも、さっき自分が籠っていたトイレが見えてくると、『このまま歩いているだけで良いんだろうか』と漠然とした不安を感じ出した。

そして、ようやく翔は、自分が何でこんな目に遭っているのかに意識が向いたのだった。


さっき、痩せた方の警官が「公務執行妨害の現行犯」とか言っていたが、彼らの目的は別の所だろう。となると、さっきの爆発音や警官達の会話から推測できることは、三つだ。

ひとつ目、警察は、今回のテロが起きるのを予測していて、事前に警官達を配備していた。

二つ目、その予測に基づいて、警察は地下通路を閉鎖したが、俺は謝って、そこに入り込んでしまった。

三つ目、閉鎖した筈の通路に俺がいた為に、この二人の警官は、俺を爆発藩の一人と思い込んで逮捕した。


そして、更に重要なことがある。それは、今まさに爆破テロが進行中だということだ。さっき、爆発音がしたものの、それで終わるとは限らない。

もちろん、それは推測でしかないことだが、可能性はあるんじゃないか?

となると、危ないのは、警察が閉鎖したエリアではないのか?


翔は、警官達に小突かれながらも、目を凝らして前方を見た。ところが、さっき、通路を封鎖していた警官達が、今は何処どこにもいない。

だったら、閉鎖は解除されたのかというと、相変わらず改札口から人は出て来ないのだ。ということは……。


そこで、翔が疑問に思ったことに、両側の警官達も気付いたようだった。


「おい、何かおかしくねえか?」

「何がだ」

「改札口の方に誰もいねえぞ。あそこには、一番多くの警官が配置されてた筈だろ。何処どこに行っちまったんだ?」

「逃げたんじゃね?」

「てことは、危ないってことか?」

「さあ?」

「お前なあ……おっ、誰か来るな」

「あれ、女だな。しかもガキだ」


翔もまた、その小柄な女の姿に気付いた。どんどん近付いて来る。服装は、デニムのホットパンツにピンクのタンクトップで、足元は白の厚底スニーカー。髪は茶色いショートボブで、ほとんど化粧っ気がない。

どう見ても十代半ばの少女、せいぜい女子高生と言った所だろうか。


こんな子が、何でこんなとこにいるんだ?


翔が頭にクエッションマークを浮かべていると、二人の警官がさっと彼女の前に出た。


「何なの、オジサン達?」

「何なのじゃねえぞ。おめえ、こんなとこで何やってんだ?」

「何って、ボクの勝手じゃん」

「おい、おめえ、おれらをバカにしてんのかよ……いや、こいつ、どっかで見たな」

「見たも何も、さっき、挨拶してあげたじゃん」

「なにい、挨拶だあ。ふざけんな、このガキがあ……あ、思い出した」

「何のことだよ?」

「ほら、軍の綺麗なネエチャンと一緒にいたガキ共だよ。ひょろいのとチビっこいのがいただろ」

「ああ、あん時のチビっこい方か」

「おい、オヤジ。チビゆうな」


彼女が低い声で毒づいて、見るからに嫌そうな顔をした。そして、翔の方に目を向けてくる。


「まっ、今回は、いいよ。時間が無いんだ……で、そいつは?」

「犯人だよ」

「えっ? 容疑者ってこと?」

「どっちでも良いだろ」

「はあ?」


彼女は、大きな溜め息をひとつ吐くと、翔に憐れみの視線を投げてくる。


「あんたらさあ、誤認逮捕って言葉、知ってる?」

「な、何だとお」「おめえ、おれらを……」


大男が彼女を威嚇して、痩せた方の男が拳銃を抜こうとしたのだが、結局、彼は拳銃を抜かなかったし、大男も固まってしまった。というのは、その時には既に彼女の手には拳銃があって、銃口が痩せた方にピタリと向けられていたからだ。


「別に撃ってもいいんだよ。隊長には、殺さなきゃ良いって言われてるからね。けど、あんたじゃ、弾がもったいないからさ」

「……っ」

「それより、あんたら、こんなとこにいて良いの? 次に、あそこのトイレが爆発したら、あんたら、死んじゃうかもよ」


そう言って彼女が指で示したのは、先程、翔が飛び込んだトイレだった。


「はあ? トイレだとお?」

「無線、聞いてなかったの? さっきの爆発、北出口のトイレでさ、そんで、地下街と地下通路からの退避命令が出てんだけど……」

「それ、本当か?」

「こんな時に、嘘なんか言う訳ないじゃん。次に爆発するとしたら、たぶん、あそこだね」


またも彼女は、さっきのトイレを指差した。

さすがの警官二人も、お互い顔を見合わせている。痩せた方が、「やっぺえかも」と呟いた。


「じゃあ、ボク、急ぐからさ、後でね」


彼女が後方に去って行くと、痩せた方の警官が「おい、走るぞ」と言って翔の尻を蹴った。

当然、引き返すと思った翔だったが、何を血迷ったのか二人が示したのは、さっきのトイレと改札口のある方角だった。

彼らはそのまま翔の手錠を引っ張って、今までと同じ方角へと走り出したのだった。



★★★



―0821-


警官二人と翔はトイレの前を一気に通り過ぎて、すぐに改札口に到着した。やはり、そこには誰もいなくて、ホームの方から出てくる人も皆無だった。普段、多くの人達で混雑しているだけに、閑散とした今の状態が翔には不気味に思えた。


「ちぇっ、みんな、本当に逃げちまってやがんの」

おれらも急いだ方が良いな」

「でも、どっちに行くよ。どの出口の方にもトイレがあるんだぜ」

「そんでも、あそこが一番ヤバいってことだろ。だったら、あっちだな」

「何でだよ」

「一番早く外に出られるからに、決まっとるだろうが」

「あ、そうか」


警官達が話し合っている間、翔は改めて周囲を見回してみた。すると、改札を挟んで反対側のトイレの辺りには、何人か人がいるのが見える。

翔は、それを警官達に伝えようとしたが、その前にまたも怒鳴られた。


「こら、ボケ。あっちに走るぞ」


痩せた方の警官が向かおうとしたのは、翔がいつも使っている地下商店街を抜けるルートだった。翔は、警官が残っている北側地下通路の方が良い気がしたけど、彼らに翔の意見を聞く気があるとは思えない。

翔が諦めて、足を一歩前に踏み出そうとした時だった。突然、鼓膜をつんざくような爆発音がして、背中から身体からだを強烈な力で押し上げられるのを感じた。

そして次の瞬間、彼は激しい爆風に吹き飛ばされて、気が付くと床に強く叩き付けられていたのだった。



★★★



-0822-


右の肩と肘が猛烈に痛い。大きな音の名残りで、耳がおかしいし、頭の奥がしびれたままだ。

既に商店街の区画に入っていたから、床がコンクリートじゃなくて良かった。表面がすべすべのタイルだったお陰で皮膚が擦りけることは無かったが、骨にヒビくらいは入っていそうだ。

翔はしばらくの間、タイルの冷たい感触を頬に感じながら、うつ伏せに横たわっていた。ズキズキと患部が痛んで、自然とうめき声が漏れる。


それなのに大男は、翔の脇腹を軽く蹴って言った。


「おい、いつまでも、そんなとこに寝転がってるんじゃねえ。逃げるぞ」


翔は、大男に襟首を掴まれて、さっきと同じように強い力で持ち上げられた。腕と肩に抉り取られるような痛みが襲う。文句を言う余裕すら無い。微かなうめき声が洩れただけだった。

それでも、不思議と足は動く。そう思った時には、もう走り出していた。

必死に足を前へ前へと繰り出して、出口を目指して進んで行く。いつ次の爆発が起こるか分からない恐怖。それが翔をからくり人形のように前方へと押しやっていた。


翔がいつも使っているE3出口が見えてきた。

あの階段の両脇には、それぞれ男女のトイレがある。もしあそこを通った時に爆発が起これば、今度こそ一巻の終わりだ。そう思うと背中がゾクゾクして、気を失いそうになる。

それでも足は止まらない。恐怖に突き動かされた足は、ただひたすら翔の身体を前へ前へと運んで行くだけだった。


最後の階段は、一気に駆け上がった。


外に出た途端、ムッとした熱気に包まれた。もうだいぶ慣れたとはいえ、不快なことには変わりはない。

それなのに、この熱気が今はありがたかった。

さっきまでの冷えた身体と心が急速に温められる感じがする。それは今の翔にとって、「生きている」という実感なのだ。


ああ、良かった。


そう思った途端、翔は全身の力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。






ここまで読んで頂き、どうもありがとうございました。

次話からは、薫視点になります。


もし宜しければ、感想、ブックマーク、いいね、評価をして頂けましたら大変嬉しいです。宜しくお願いします。

ツイッター:https://mobile.twitter.com/taramiro0

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