第76話:射撃訓練(1) <薫サイド>
見直しました。
◆7月30日(木)
水草薫がリクルーター、北島亜紀から拳銃を受け取って、二度目の朝を迎えた。
その間、薫はポケットの中に忍ばせた厳つい物体と共に日常を過ごし、そして眠った。彼女は拳銃を持ったままコンビニに行って働き、夜は枕の傍に置かれだウエストポーチの中にそっとそれを忍ばせていたのだった。
今の時代、軍人は常に武器を所持していることが許されている。もちろん、誰もという訳ではないのだが、薫のようにオフの時であっても申請さえしていれば拳銃を保持できるし、そのことで犯罪に問われることは無い。
薫の場合、正式な入隊はまだの筈だが、既に軍の身分証を保持しており、書類上は「軍人」という扱いなのである。
もっとも、このことは家族ですら知らない秘密だった。
さて、この日の早朝、薫は亜紀から直接スマホに入った通話で、叩き起こされるハメになってしまった。
「水草、起きてるか? 急で悪いんだが、今から守谷に行こう」
「えっ? 守谷ですか?」
「守谷駐屯地で射撃訓練をやるんだ。こないだ話しただろう?」
「今からですか?」
「ああ、今すぐだ。やっと時間が空いたんだよ」
確かに一昨日の夜、そんな話を聞いた記憶があるにはあるが、いくら何でも急すぎる。幸いにもバイトはオフの日だから良いけど、昨夜は深夜まで働いて、寝たのは日付が変わってからだ。
眠い目を擦りながら、スマホの画面に目をやると……。
ええーっ、まだ六時前じゃない。勘弁してよ。
ところが、亜紀は強引だった。
「じゃあ、十分後に……」
「ちょ、ちょっと待ってください。今、何処に……」
「お前のアパートの前だ」
「ええーっ!」
薫は、慌てて飛び起きた。そしてパジャマ代わりにしているくたびれたTシャツと楓から借りたジャージ姿のまま玄関のドアから飛び出して、外階段の上から下を覗き込んだ。
げっ、何あれ?
そこにあったのは、屋根の無い大きな赤い車。車種は分からないけど、高そうな車であることは分かる。こんな貧民街には、非常に似つかわしくない真新しい車体が朝陽を浴びて光っていた。
その車には二人の女性が乗っていて、そのうちの若い方が薫に気付いて立ち上がると、大きく手を振ってきた。
薫は思わず「うわっ」と小さく叫んでから、すぐに引き返した。
ヤバい、ヤバい。どうしよう。
本当に勘弁して欲しい所だったけど、亜紀にはいろいろとお世話になっている。せっかく迎えにまで来てくれて、断るわけにはいかないのだ。
薫は、珍しく焦りながらも、大急ぎで身支度に取り掛かった。
そして、寝癖の付いた髪が何とか見られる状態になった頃、再びスマホが鳴った。
それを合図に外に飛び出して、外階段をテンポ良くひとつ置きに駆け下りると、そのまま赤い車に駆け寄って行ったのだった。
★★★
間近で見た車は、その場違いな大きさと存在感とで威圧的なオーラを放っていた。
色は鮮やかな赤。ボディーには、「JEEp」のロゴが見て取れる。
「お待たせしました」
「ああ。ここに乗ってくれ」
亜紀が助手席のドアを開けてくれたので、急いでよじ登って思いドアを閉める。視線が高い。そう思った矢先、すぐにアクセルが踏み込まれて薫の身体は背もたれに押し付けられ、車が急発進した。
何とか身体を起こした薫が「凄い車ですね」と言うと、後ろの席から声が掛かった。
「ジープ・ラングラー、アメ車よ。当然、マニュアル運転車。こんな運転しづらい車、よく乗る気になったと思うよ。付き合わされるボクらの身にもなって欲しいよね」
若い女性の声なのに、「ボク」という一人称が気になった薫は、咄嗟に振り返って後ろを見た。すると、そこには薫にとって、少々懐かしい顔があった。
最初に薫が名駅西口のリクルートセンターを訪れた時、大変お世話になった女性だ。
「えーと、星野さんですよね」
「うん、星野菜々だよ。水草さん、久しぶり」
「あの、先日は大変お世話になりました」
「いやいや、こちらこそだよ。ボク達の仲間になってくれて、どうもありがとう」
小柄で淡い茶髪のショートボブ。服装はあの時と同じ白のタンクトップでボトムはピンクのホットパンツ。やっぱり、どう見ても十代半ばの女子高生ぐらいにしか見えない。それでも彼女は、れっきとした軍人で、階級は曹長だ。
そんな彼女が薫の方を見ながら、今度は「うーん、水草さんって相変わらずだね」と言ってきた。
薫の格好は、黄色いTシャツとデニム地のオーバーオール。Tシャツは襟の所が広がってほつれ掛かってるし、ボトムは膝の所に大きな穴が開いてしまっている。デザインとしてならいいけど、着古されて自然に開いた穴だ。
「相変わらず」の意味が気になった薫が「普段着のままで、すいません」と言うと、「ううん、全然へーき。ボクも似たようなもんだから」と否定されてしまった。
星野菜々の方はラフな格好に見えて、よく見ると最新のブランド物だ。
薫がそのことを指摘しようとした時だった。車が幹線道路に入ったからか、急に身体が背もたれに押し付けられたかと思うと、見る見るうちに前のトラックに近付いて行く。危ないと思ったら、今度は身体が横に振られ、またすぐに加速が加わって、気が付くと大きなトラックを追い抜いていた。
「あのー、もうちょっと大人しく運転できません?」
「大人しくねえ……。こんな感じか?」
「えっ、きゃー」
薫にしては珍しく、可愛い叫び声が出てしまった。
自動運転の乗用車二台を一瞬で抜き去った所で、赤信号に掛かって急停止。この人、運転、大丈夫なんだろうか?
「あと少しで高速に乗るから、我慢しろ」
「隊長、高速に乗ったら乗ったで飛ばすじゃないですか」
「まあな」
「まあな、じゃないですよ。うわっ」
リアシートから星野の声が掛かった直後、信号が青に変わって急発進した。
それから、すぐに名二環、名古屋第二環状自動車道に入ったのだが、やっぱり亜紀の運転は何も変わらなかった。前にいる車を次々と追い抜いて行ってしまう。
高速を走る車のほぼ全てが自動運転モードなので、一定の速度で行儀よく走っている。亜紀が運転するマニュアル運転車だけが交通の流れを阻害して、後続の車を混乱に導く元凶なのだ。
「でも、こんな朝早い時間なのに、車の数が多いですね」
特にトラックが多い。同じデザインの車が何台も隊列を組んで連なっている。薫のバイト先のEマートのトラックもあったので、薫は少し嬉しかった。
「そうだな。今の時間帯は、工場の操業前に部品を届けたり、お店に商品を配送するトラックが多いんだ。もう少し後になると、今度は通勤ラッシュになる訳だな」
「なるほど」
そうこうするうちに、さっきまで北に向かっていた道路が東寄りに変わり、更にしばらく行くと再び下道に降りてしまった。すると、また所々に信号があって、亜紀は急ブレーキに急発進、急な車線変更を頻繁に行うようになる。
さっき星野が言った通り、このラングラーという車は見た目が良いだけで、乗り心地はあまり良くなかった。
「亜紀さん、スピード出し過ぎですよ」
「別に問題無いさ。こっちは軍籍の車だ」
「それだって、違反は違反です」
こんな目立つ車だもの、一発で警察に目を付けられるに決まっている。薫は一応、怒ってみせるのだが、当然ながら亜紀は聞く耳を持たない。
「水草さん、隊長に何いっても無駄だよ。ボクが言っても、全然聞いてくれないんだから」
「お前ら、神経質すぎるんだよ」
「隊長がおおざっぱなだけです」
そんな会話を交わしているうちに、薫のアパートから僅か三十分足らずで目的地の守谷駐屯地に着いてしまったのだった。
★★★
守谷駐屯地に入ると、薫たちは入口に集まった隊員達に最敬礼で迎えられた。もちろん、その崇拝の対象は北島亜紀一尉だ。
ここの隊員達にとっての亜紀さんって、まるで女神のような存在なのかも。
まさに、そう思わせられるような歓迎の仕方だった……。
と、最初はそう思った薫だったが、どうもそれだけじゃない気もする。
薫は隣にいる星野菜々曹長に、そっと聞いてみた。
「なんか、凄いですね」
「うん、隊長だからね」
「でも何か、星野さんも見られてません?」
「へへっ、こないだ来た時、ちょっとだけ、やらかしちゃったからかな」
「えっ、何をですか?」
「うーん……あ、それより水草さんだって、注目されてるみたいだよ」
「ええーっ、まさか?」
言われてみれば、そんな気がしないでも無いけど……、薫には、その理由が全く思い当たらなかった。
「分かんないかなあ。ボクが隊長に連れられて最初にここに来た時なんだけど、実は全く相手にされてなくてさ。逆に何だアレって感じで馬鹿にされまくってたんだ」
「そうだったんですね」
「うん。それでも、ボクの射撃訓練を見て、ちょっとは納得してくれたかなあって感じ。それが、こないだ一時帰国して、ここに来てみると、全く対応が違うんだよねえ」
「……そうなんですか?」
「うん。そんだけ隊長と一緒に、ボクのことも知られるようになったんだと思う。まあ、それで気を良くしちゃってさあ。特に、前回ここに来た時は、ちょっとやり過ぎちゃったわけ」
どうやら薫は、巻き添えを喰らった形のようだ。
「つまり、亜紀さんに見い出された星野さんが優秀だったから、私にも期待の目が向けられてるってわけですね」
「まあ、そうなるかな」
「でも、『二匹目のどじょう』がいるかどうかは分かりませんよ」
「それは、大丈夫だと思うけど……」
「北島一尉、お待ちしておりました」
出迎えの列が途切れる辺りで、さっと薫たち女性三人の前に出て来た男性隊員がいた。
「おう、柴田か。こっちが水草だ」
「あの、水草薫です。お世話になります」
「あなたが噂の水草准尉ですね。自分は柴田依弦二尉です。北島先輩の子分の一人ですので、いつでも頼って下さいね。いやあ、本当にお若いですね。それに、お綺麗だ」
柴田二尉は、爽やか系の好青年だった。すらっと背が高くて、軍人らしく逞しい体格。確かに見た目は頼りになりそうな人である。ただ口が少々軽いみたいで、お世辞が上手な感じが薫には気になった。
「あの、『噂の』ってどういうことですか?」
「えーと、それは……まあ、追い追い話すとして、まずは射撃訓練場の方に向かいましょう。北島一尉は、どうされます?」
「私は、先に挨拶してくる。この二人を頼む」
「承知しました。では水草准尉、星野曹長、参りましょう」
どうやら亜紀は、後で合流するようだ。星野曹長によると、ここの上層部には亜紀の知り合いが大勢いるらしい。
「水草准尉は、ここに来るのって初めてですよね?」
「はい」
薫の軍人としての適正検査は、全て名古屋市内の研究施設で行われていた。だから、ここに来るのは今日が最初なのだ。
「初めての感想は、如何ですか?」
「そうですね。こんな早朝なのに、外に出られている人が多い気がします」
「ははは、そうでしょうね。皆、朝飯に行く所なんですよ。食堂は、六時半から開いてますから」
「ここのご飯、すっごく美味しいんだよ」
「あ、それ、聞いたことがあります」
軍での食事が美味しいといった話は、近所の子に聞いて知っていた。
「宜しければ、射撃訓練が終わった後でご案内しますよ」
「ボクは、最初からそのつもりだけど」
「あ、でも、私、お金が……」
「大丈夫だよ。全部、タダだから」
「えっ、本当ですか?」
「水草准尉は、今の所、ここの駐屯地所属ですので、タダです」
思い掛けない返事に、薫は心の中で歓声を上げてしまった。
とはいえ、当然、顔には出していない。そして、何げなく周囲を観察していた。
「あの、思ったよりも女性の隊員が多いんですね」
「四割弱ですかね。もちろん、外地と比べると多いかもしれませんけど、ほら、内地だと純粋な事務員とかもいますからね。どうしても、女性が多くなってしまいます」
「なるほど……あ、それと、女性の方は皆さん、髪の毛が短いように思うんですけど……」
この質問には、星野曹長が答えてくれた。
「それはそうかも。ほら、髪の毛が長いと手入れが面倒じゃん。それに訓練の時に邪魔になったりするからだよ。ましてや前線だと、手入れしてる時間が無かったりするしね」
「てことは、私も切った方が良いんですか?」
「今すぐじゃなくても良いけど、国内にいるうちには、切った方が良いかも」
「分かりました」
「あの、別に規則としてある訳じゃないですからね」
柴田は躊躇いがちにそう言ったけど、切った方が良いことは間違いないみたいだ。
薫は、次に星野の方へ話しを振ってみた。
「星野さん、ここは久しぶりなんですか?」
「いや。帰国してすぐの時と今月の頭に来てるよ」
「あ、そう言えば、さっき何かやらかしたって言ってましたね。ふーん、それが前回の時ってわけですね」
「……っ」
否定しないってことは、相当に騒がれたってことだろう。星野曹長の射撃を早く見てみたい。
薫がそう思った所で、三人は大きな倉庫のような建物の前に到着した。柴田にドアを開けてもらって、そっと中に足を踏み入れる。そこで、その柴田から、「ちょっと、ここで待っていてもらえますか?」と声が掛かった。
建物の中は、ちょっとした休憩スペースのようで、様々な自動販売機の手前に小さめのテーブルと椅子がニセット置かれている。薫は、その内の適当な椅子に腰を下ろした。テーブルを挟んだ反対側の椅子には、星野が座る。
すると薫は、何となく自分達に向けられる視線を感じて、首を傾げた。いや、視線だけでなく、小声で何やら囁かれているようでもある。
「なんか、星野さんのせいで、私まで見られてるみたいなんですけど」
「ふふっ、良いじゃないの。期待の新人ってことで」
「よして下さいよ。全然嬉しくありません。私、目立つの好きじゃ無いんですから」
「へえ、そうなの?」
「はい」
そんな会話をしているうちに、柴田が戻って来た。どうやら彼は、書類を取りに行っていたようだ。
薫と星野は、その柴田に促されて立ち上がると、手続きカウンターらしき所に連れて行かれた。そこで二人は身分証の定時を求められ、彼は持って来た書類を差し出す。
係の人は小太りの中年女性で、私服姿の薫たちを見ると顔を顰めた。
「柴田さん、この二人って、まだ子供じゃないのかい。大丈夫なんだろうね?」
「大丈夫です」
「ホントかねえ……」
そう言いながらも、そのオバサンは専用のPC端末に向かって手を動かしている。
「あのね、オバサン。ボクはもう三度目なんだけど」
「ああ、こないだの子だね。てことは、そっちの子も北島一尉が連れてきたんかい?」
「そうだよ」
「あの、水草薫って言います。私、実は、もう結構な歳なんですけど……」
「そりゃー、ここに来てるってことは、十七にはなってんだろうけど、見えないねえ。本当は、中学生なんじゃないかい?」
「ちゅ、中学生って?」
「ボクが女子高生だから、当然、そうなるよね」
「ええーっ、どう見たって、私の方が星野さんより年上じゃないですか」
「あたしから見たら、どっちも似たようなもんだよ。とにかく、ケガしないようにするんだよ」
薫たちが手続きを終えると、少し離れた所で様子を見ていた柴田二尉が寄って来て言った。
「いやあ、自分も驚きましたよ。水草准尉の本当の年齢、知りたいですね。だって、自分も正直いって中学生に見えますもん」
「あのね、柴田二尉、女性に歳の話をするのもどうかと思うよ」
「いいじゃないですか、星野曹長。若く見えるってことなんですから」
「なんかムカつく。それって、そんだけガキに見えるってことじゃん」
不貞腐れた顔の星野曹長を前に、柴田は苦笑いしていた。
★★★
射撃訓練の手続きを終えた薫たちは、いよいよ訓練場の中に足を踏み入れた。
そこは、本当に倉庫のような空間だった。天井が高く、だだっ広いだけあって、何となく薄暗く感じられる。手前はホールになっており、その奥は幾つかのブースに区切られている。
まだ時間が早いからか、大半のブースが空いており、薫は星野菜々曹長と隣どうしの場所を確保することができた。
自分用のブースに入った途端、花火のような臭いがした。いや、火薬の臭いと言うべきなんだろう。
ただし、それは薫にとって嫌な臭いではなく、むしろワクワクする類のものだった。少々不謹慎な例えではあるのだが、まるで遊園地に来た時の感じに近い。どうやら薫は、この種のものが好きみたいだ。
薫は初めてなので、まずは柴田二尉から細々とした説明を受けた。そして、腰に巻いたウエストポーチから、火曜の夜、北島亜紀に渡された銀色の拳銃を取り出す。今日は他の拳銃も試し撃ちさせてくれるとのことだが、最初に扱うのは自分の拳銃からということらしい。
基本的な拳銃の扱いについては、適性検査で名古屋の研究所を訪れた時に教わっている。それは薫が受けた検査の中に、バーチャルリアリティの空間で拳銃を撃ってみて、敏捷性と正確さを調べるプログラムが含まれていたからだが、当然、それは本物の拳銃を撃った場合と同じではない。将来は別として、今の技術でリアルと遜色のない射撃をバーチャルで行うシミュレーティングマシーンは、未だ開発されていないのだ。だからこそ、大量の銃弾を消費してでも、こうしたリアルの射撃訓練が必要になる訳だ。
その為、柴田は薫に再度、拳銃の持ち方や構え方から教えることになった。そして薫もまた、それらの説明を復讐のつもりで真面目に聞いた。実際に拳銃を手にした時の感触や重量感、火薬の臭いや周囲の雰囲気、それらの全てがバーチャルとは違って薫の感覚を鋭敏にしてくれる。そのことも、薫が先程から感じているワクワク感を増幅するのに、一役買っていたのだった。
その間に隣のブースでは、星野曹長が大きな銃を持って、すでに射撃を始めている。サイレンサが付いているからか、銃声は思ったほど大きくはないのだが、それでも凄い迫力だ。彼女が引き金を引く度に、標的となるダミーの人形が次々と倒されていく。
片目でその様子を見ながらも、薫は努めて柴田二尉の説明に集中した。
一通りの説明が終わった時だった。
「しかし、さすがだなあ」
「えっ、何がですか?」
「だって、自分も記憶にありますけど、初めての射撃訓練の時って、普通すっごく緊張するもんなんです。なのに水草准尉って、全然、普通じゃないですか。さすが北島先輩が探し当てた人だなあって思いました」
「そうでしょうか?」
「はい。それに水草准尉って軍人としての訓練は、まだなんでしょう。民間人がいきなりこんなとこに連れて来られたら、普通は空気に飲まれたりすると思うんですよね」
「……はあ」
「それとも、あれですかね。実は海外留学してて、射撃の経験があるとかのオチだったりして……」
「いいえ。だいたい今の私が、そんなお嬢様に見えますか。格好だってこんなだし」
もちろん薫の服装は、いつものぼてっとしたデニムのオーバーオールとTシャツである。それに極めつけは、普段使いのくたびれたスニーカー……。
それなのに柴田二尉は薫の方をろくに見もしないで、こう言い放ったのだ。
「充分、お嬢様に見えますよ。だって、射撃訓練ですから、そういう格好が普通じゃないですか。むしろ、ハイヒールとかで来られたりしたら困ります。まあ、その点は北島一尉の指示があったと思いますが……」
当然、そんな指示は無かった。
「それから、水草准尉のその堂々とした態度、それに姿勢も良いですし、歩き方も綺麗だ。だいたい、これだけのギャラリーがいるのに、落ち着いた表情で居られるってのは、只者じゃないって感じに見えますよ」
「えっ、ギャラリーですか?」
すぐに後ろを振り返ってみると、いつの間に集まったのか、かなりの隊員が見学に来ている。まあ、彼らが見ているのは、星野曹長なんだろうけど……。
薫は、柴田二尉の説明には大きな誤解があると思ったが、ひとまず放っておくことにした。
薫の姿勢が良いのは、祖母の幸子による教育の賜物だ。それと剣道部だったことや、あの怪しげな派遣会社でイベントコンパニオンの研修を受けたからでもある。それで薫はモデルのようなことを何度かやったわけだが、その流れでバニーガールの格好までさせられたのは、忘れてしまいたい黒歴史だ。
とにかく今は、射撃訓練に集中すべきである。
薫は、耳栓をして、拳銃を構えた。そして、言われたように両腕を前へぐっと突き出して、的を狙った。
「では、行きます」
ここまで読んで頂き、どうもありがとうございました。
次話は、今日の続きです。薫が射撃訓練でやらかします。
もし宜しければ、感想、ブックマーク、いいね、評価をして頂けましたら大変嬉しいです。宜しくお願いします。
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