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第6話:元カノ <翔サイド>

再度、見直しました。


藤田(かける)が最後に水草薫みずくさかおると会ったのは、東京、代々木公園脇の歩道橋の上だった。


その日の彼女は、スカートを履いていた。薄い茶系で膝下丈。彼女にしては珍しい姿だった。

いつもはゴムで束ねた長い黒髪も、そのまま下ろしてあった。

そして、白のブラウスに紺のカーディガンを羽織った姿は、上品なお嬢様風に見えなくもなかった。

もちろん薫だから、どの服も着古されたものだったけど、それでも薫にしては精一杯のオシャレだったんだと思う。


そもそも翔は、普段ぼてぼてのズボンしか履かない彼女がスカートを履いてた時点で、彼女の何かにちゃんと気付くべきだったのだ。


でも、その時の翔には、そんな心の余裕なんか無かったのだから仕方ない。


大学を卒業した三月の最終日、ちょうど今と同じような夕暮れ時だった。

二人は並んで夕陽を見ていた。


翔にとって、学生生活最後の日だった。


明日から新しい生活が始まる。これからは、社会人としての制約の中で生きていかなきゃいけない。今日までのように自由気ままな毎日は、もう二度とやって来ないのだ。


そう思うと、翔は憂鬱で仕方がなかった。


明日、翔が入社するのは、誰もがうらやむ一流の大手商社、七星ななぼし商事だ。はたから見れば、彼の人生は希望に満ち溢れているように思うことだろう。


だけど、この時の彼の心は、漠然とした不安に取り憑かれていて、それに押し潰されそうになっていたのだ。

大人になりきれない彼の未熟さが、新しい生活への一歩を踏み出すのを躊躇ためらわせていた。その一歩に彼は膨大なエネルギーと大いなる勇気を必要としていた。


翔は、怯えていた。


だから、隣にいる薫には、そっと背中を押して欲しかった。「がんばれ」と声を掛けてくれて、優しく励まして欲しかった。


それなのに、翔が耳にした言葉は、 その正反対の最悪のものだったのだ。


「私達って、もう会わない方が良いよね」


目の前が真っ暗になった。

一瞬のうちにどん底に叩き落とされた翔は、焦った。


嘘だろ。嘘であってくれ。

どうして急にそんなこと言うんだ。

何もこんな日に、そんなこと言わなくたっていいじゃないか。


気が付くと、翔は彼女を責め立てていたのだった。


気まずい別れだった。


薫は泣かなかった。薫はいつだって泣かない。

薫というのは、そういう女だ。


それでも幾分気落ちした様子の薫が、ゆっくりと歩道橋の階段を降りて行く。足元から次第に見えなくなって、一番最後の残った彼女の黒い髪の毛が、風に吹かれて微かに揺れていた。



★★★



入社して三ヶ月の研修の間、翔は薫に何度か連絡しようとはしたのだが、どうしても気が進まなかった。

自分が振られたことに納得が行かなかったし、そんな自分が恥ずかしくもあったのだ。


その腹癒せもあってか、研修後の配属先には海外を希望した。そして、蓋を開けてみれば、もっとも競争率が高いと言われているニューヨーク支社に配属されてしまった。

そうなると、もう当分は会えなくなる。薫に何も言わずに日本を去るのは、さすがに気まずい。


そう思った翔は、彼女に短いメールを送った。

だけど、返事は戻って来なかった。


ちゃんと届いてはいるようだったけど、心配だったので何度も送ってみた。

電話してしまえば早いんだろうが、今更なので止めておいた。


結局、最後まで薫からの返事が無いままに、翔は渡米してしまった。


それから今日まで、翔は薫に一度も会っていない。



★★★



目の前の古ぼけた店舗からは、ソースの焦げる香ばしい匂いが漂っていた。翔にとって、懐かしい匂いだった。


ここは翔たちが高校時代、部活の後によく立ち寄ったお好み焼き屋だ。そして、その部活の仲間の中には、水草薫もいた。


その薫が店の前で、微かに顔をほころばせていた。


「私、一度ここに入りたかったんだ」

「ここだったら、別にいつだって来れるだろ」

「無理。いつも高校生でいっぱいなんだもん。私みたいなオバサンが、お一人様で入れるようなお店じゃないよ」

「薫だったら、別に高校生と一緒でも大丈夫なんじゃないか?」

「私が子供っぽいって言いたいんでしょう。もう、相変わらず翔くんは、いじわるなんだから」


薫が口をとがらせて膨れている。怒った時の薫の顔だ。見た目、薫は昔と全く変わっていないようだった。


とはいえ、さっき薫が言ったことは、その通りかもしれない。

ここは、若者の店なのだ。若者と言っても大学生くらいまでで、卒業して社会人になったら入れない。


それに今の彼女と親しい女友達は、恐らくもうこんな店に入ろうとはしないだろう。名古屋に出れば、もっとオシャレな店がいくらでもあるからだ。


予想したとおり店内は高校生が多かったが、今日はそれ以外の客もいて満員だった。きっと翔たちみたいにコンビニでの爆発で天王通りが閉鎖されてしまったから、時間つぶしに入ったんだろう。

そして、そんな客たちの中にも、自分の高校時代のことを思い出して懐かしさに浸っている人がいるに違いない。


そんなことをつらつら思いながら入り口の所に突っ立っていた翔の肩を、薫が軽く突いてきた。


「翔くん、あそこ、空いたみたいだよ」


翔の返事を待たずに、薫はスタスタと歩いて行く。翔の記憶にある薫とは少し違って、今日の彼女は積極的みたいだ。

翔は、ゆっくりと彼女の後を追って行った。



★★★



薫が確保したのは、壁際にある二人掛けのテーブル席だった。そこに向かい合って座ると、薫は「ラッキーだったね」と笑いもせずに言った。その彼女の目は、すぐ横のテーブルの女子高生達を捉えている。彼女達の制服は、白のブラウスに青緑色のチェックのスカート。さっき翔の周囲にたむろっていたのと同じ、天王北高の生徒達だ。

その子達のテーブルは四人掛けだったが、片側が長椅子なので、そこに三人で座っている。彼女達がキャーキャーと騒ぎながら観ているのは、タブレット端末の映像だろうか。ついさっき起こったばかりの爆発なのに、もうニュースで報道されているようだ。


翔が左手首のウェアラブル端末を起動させるかどうかで迷っていると、大学生のバイトと思われる女の子がやって来た。冷水の入ったコップを二つ、翔と薫の前に置く。そして、今どき珍しい紙のメニューを翔の方に差し出した。

それを受け取った翔は、チラっと見て内容が昔と同じだと確認すると、それを薫に見せながら、「ミックスとモダン焼きで良いか?」と訊く。彼女が頷いたので、その場でバイトの子にオーダーを伝えた。もちろん、「二人でシェアするから、小皿も持って来て欲しい」と、忘れずに付け加えておく。


「あの、お客さん達も、コンビニ爆破事件の避難組ですか?」

「えっ、さっきの爆発、もう名前が付いてるの?」


翔は、彼女のその表現が気になって、質問を質問で返してしまった。


「だって、もうネットニュースで報道されてますよ。それに、ひねりもなにもない名前じゃないですか」

「そうなんだ。じゃあ、俺も見てみよっかな……」


相槌を打ちながら、翔は左手首に装着したウェアラブル端末を素早く起動させた。次に胸ポケットから手帳サイズの折り畳み式3Dディスプレイを取り出すと、それをテーブルの上で広げて手首の端末と同期させる。そして、ローカル局のニュースサイトにアクセスすると、テーブル上の空間に爆発の様子が一瞬で再現された。もちろん、リアルな3D映像である。


「うわあ、それって、今月末に発売される予定の最新モデルじゃないですかあ。お兄さん、何で持ってるんです?」


彼女のハイテンションな反応の仕方に、翔は少し後悔していた。想像以上の喰い付きだったからだ。こうなる懸念があったからこそ、さっきは起動するのを躊躇ためらっていたのに、ニュース見たさの誘惑に負けてしまった。

だけど、ほとんど無意識の行動だったのだから仕方ない。


その子が翔の返事を期待している様子なので、素直に答えることにした。


「実はね、これ、ニューヨークで買ったんだ」

「えっ?」


バイトの子は、翔の答えが理解できていない様子だった。


「だから、俺、ついさっきニューヨークから戻って来たばっかなの。向こうに住んでて、日本には出張で来たわけ。俺、こっちが地元だからさ。一時帰国の里帰りも兼ねてるんだ」


そんな説明をしながら、翔は薫の様子をチラっと見たのだが、付き合いの長い翔でも全く表情が読み取れない。

次の瞬間、バイトの子が再び歓声を上げた。


「えっと、ニューヨークって、あのニューヨークですかあ、アメリカにある」

「まあ、そうだけど」

「うっわあ、マジですかあ。あたし、アメリカに行ったことのある人とか、初めて見ました……あ、違うか。実は、うちの両親、新婚旅行でハワイに行ったことがあるんですって。で、あたし、海外に憧れてて……。今じゃ、普通の人が海外に行こうと思ったら、軍にでも入らない限り無理じゃないですかあ」


彼女は、一方的にまくしたててくる。少々ウザいとは思ったが、ここまでおだてられると、正直、翔も悪い気はしなかった。


「お兄さん、こっちが地元だっておっしゃいましたよね。ひょっとして、天高てんこうとか」

「そうだよ」


天高というのは、県立天王高等学校、つまり翔たちの母校のことだ。


「えっ、先輩ですかあ。そうすると、そっちの彼女さんも?」

「ああ、そうだよ。それに、二人とも剣道部」

「うっわあ、マジで。もろ私の先輩じゃないですかあ。あたしも剣道部だったんですよ」

「えっ、そうなんだ。へぇー、奇遇ですね」


翔とその子との会話に突然、薫が割り込んで来た。割と人見知りの激しい彼女にしては、ちょっと珍しい反応だ。

翔は苦笑しながら、「確かに」と呟く。


「でも、私達とはダブってないんだよね……って、こんなこと言ったら歳がバレちゃう……」

「おーい、新井、ちょっと頼む」

「あ、はーい。今、行きまーす」


カウンターの方から呼び出しを受けたことで、そのバイトの子は薫の言葉に被せるように返事をすると、舌の先っぽをちらっと出して悪戯っぽく笑った。


「すいませーん。店長に呼ばれちゃったんで」


そう言い残して、彼女はカウンターの方へと小走りに去って行く。後ろで束ねた長い黒髪が、リズミカルに揺れていた。

そんな彼女を何気なく見ていた翔に、薫が話し掛けてきた。


「元気な子だったね、新井さん」

「えっ、新井さんって?」

「さっきの後輩ちゃんじゃない。店長がそう呼んでたし、胸のバッチにも「新井」って書いてあったでしょう?」

「えっ、そうだったっけ?」

「翔くんって、そういうとこ、いつも気付かないんだよね。まあ、翔くんだから仕方ないか」

「なんだよ、それ」


久しぶりに薫とそんな会話を交わしながら、翔は別のことを考えていた。


さっきの彼女、黒髪だったな。女子大生なのに、髪を染めていないんだろうか?


そこで改めて店内を見回してみると、何故か髪を染めている女性がほとんどいない。もちろん、この店は高校生主体だから黒髪が多いのは当たり前なのだが、それ以外の女性もいないわけではない。そうした女性がみんな、黒髪ばかりなのだ。


そう言えば、さっき名鉄天王線の車両に乗り換えた時に感じた違和感。ひとつは服装が地味だったことだけど、これだってそのひとつだったんじゃないか?

髪を染めていない理由が今の流行はやりだからか、それとも格差社会の影響がこんな所にも表れているのか、そういうことは、ちゃんと調べてみないと判らないだろう。

ただ、そのことに気づいてみると、あの時、車内が妙に黒いなって感じたことの理由がこれだったというのが分かって、少しだけスッキリした気分になった。


そして改めて目の前の女性、薫の方を見ると、やはり彼女も黒髪である。

今日は下に下ろしてあるせいか、毛先が割とパサついていて、ここからだと分からないけど、枝毛とかも結構ありそうだ。そんな所も薫だなと思って、翔は何故だかホッとしてしまった。

そして彼は、何となく思ったのだ。


こいつは、きっと今までに一度も、髪を染めた事なんて無いんだろうな。



★★★



「どうしたの、翔くん?」


薫に呼ばれて、ハッと我に返った。しばらく薫の顔をじっと見詰めてしまっていたのだ。正確には、髪を見ていたのだが……。


「あ、いや。何でもない」

「何でも無くないでしょう。何、考えてたの?」


大きくて綺麗な一重ひとえの瞳がじっと翔を見詰めている。その視線から翔はふっと目を逸らしてしまい、その照れ隠しで、咄嗟に思い付いたことを口にした。


「さっきの後輩の子だけどさ、薫のこと、たぶん現役の高校生だと思ったんじゃないかな」

「えっ、新井さんが?」

「つまり、薫がガキに見えたってことだな」

「ええーっ、ひっどーい」


薫が口を尖らせて大げさに怒って見せる。頬が左右共にぷくっと膨れていて、まるでリスみたいだ。

なかなか表情が顔に出ない薫のことだ。たぶん、普通じゃ伝わらないと思って、そうすることを覚えたんだろうけど、その仕草がガキそっくりだと翔は常々思っていた。もっとも、そこまで言うと拗ねるから、口にしたことはない。


「ははは、さっきも、ちょっとやってたけど、その顔って懐かしいな」

「もう、翔くんったら……。でも、まあ、そうだね。もう三年以上だね」


翔は一瞬、あの別れた日のことを聞いてみたいと思った。けど、いざそれを言おうと思うと、不思議と声が出て来ない。そうこうするうちに、薫の方から話し掛けられてしまった。


「そう言えば、さっきの爆発だけどね。最近、ちょくちょくあるんだ、ああいうの。もちろん、今日のはちょっと大きくてびっくりしたけど……」


薫は、全く変わらない表情で、そんな風に言う。『どこが、びっくりしたんだ?』とツッコミを入れたくなるが、「薫だもんな」と思って止めておいた。


「ああいうのって、爆破テロのこと?」

「うーん、テロっていうのかな。爆発騒ぎって言った方が合ってる気もするけどね」

「まあな。でも、おれらからすると、いい迷惑だと思うよ」

「うん。それはそうなんだけどね。ああいうことやるのって、たいてい若い子なんだよ。みんな、色々と不満があるみたい」

「不満?」

「そうだよ。世の中って、理不尽なことばっかりだもん。翔くんは、そういう不満とか無いの?」

「さあ、よく分からないな」

「そっか。翔くんは、そうだよね」


その時、薫は微妙な表情をした。薫はだいたい無表情なのだが、それは表情の変化が乏しいだけで、ちゃんと感情による変化はあるのだ。でも、その時の表情は、翔が知らないものだった。それを翔は、自分の知らない三年間の変化だろうと単純に決め付けてしまった。


「爆発騒ぎのことに戻るけどね、ああいう爆発物によるものだけじゃなくて、最近はガス爆発だって多いんだよ。それに爆発以外でも、橋の崩落とか、道路の陥没とか、あ、こないだは、小学校のコンクリートの壁が剥がれ落ちて来たってのもあったっけ。五十センチくらいの塊だったから、子供の頭に当たったりしたら、死んじゃうよ……」


薫が言うには、最近は都市のインフラが老朽化していてもなかなか修理がされないらしい。自治体の財政難が原因のようだが、結果的に公共施設での事故が増加しているのだそうだ。昔だったら有り得ない話だ。


「小学校の壁の崩落事故の時は、だいぶ父兄が騒いだんだけど、貧乏な人が多い地区の学校だったのね。それで教育委員会の人が強気に出ちゃって、『だったら、お前らがもっと税金払え、税金も払わずに権利だけ主張するんじゃない』って一喝したんだって。無茶苦茶だよね」


薫が言ったことは、民主主義が浸透した先進国の話とは、とても思えないものだった。


「私、テロとかでも、根っこのとこは同じだと思うんだ。今の世の中、不景気だもん。全部きっと、そこから来てるんだよ」

「それって、不景気だと犯罪が増えるってことか?」

「そうなんじゃないかなあ……あ、それとね。近頃は、闇サイトとかで簡単に高性能なプラスチック爆弾が買えちゃうってのもあるよね」

「つまり、不満を持った若者がスカッとした気分を味わいたくて、『爆弾、仕掛けちゃいましたー』みたいな奴か?」

「うーん、そういうのじゃなくてね、もっとやり場のない強い感情だと思うけど……」

「俺には、分からないな。そういうの」

「うん。そうだろうね」


薫は、そう言ってコップの水をごくごくと飲んだ。その時の表情が妙に大人びて見えたのだが、一瞬の目の錯覚だったかもしれない。


「ああ、でも、そのうちに名古屋でも、大規模なテロとか起きちゃうのかな。嫌だね、そういう物騒なの」


薫が言うように、今のところ名古屋周辺では起きていないが、都市部での組織的なテロは世界中で増加傾向にある。各国の政府が懸命に防止策を講じてはいても、一向に減らせないのが実情だ。

かつてのテロはイスラム過激派によるものと捉えられていたが、今ではありとあらゆる集団が加わっているらしい。そこには様々な立場の人たちがいて、その思いの強弱や組織の規模はピンキリだと言われている。要はテロの裾野が広がっていて、どの大都市だろうと、いつ大規模なテロが起こってもおかしくないということだ。


「これじゃ、ニューヨークと変わらないな」

「えっ、ニューヨークの方が、ずっと危険なんじゃないの。大規模なテロがしょっちゅうなんでしょう」

「いや、東京だって、たまにあるじゃないか。それに、俺、まさか天王市であんなことが起こるなんて、思ってなかったよ」

「そっか」


そんな会話を続けながらも、翔は再び自分のウェアラブル端末で、ローカル局のニュースを探していた。隣の席の女子高生達が、またも騒ぎ出したからだ。つまり、さっきのコンビニ爆破事件に関して、新しい情報がアップされたんじゃないかと思ったわけだった。

すると、爆破時の再現映像に続いて、重症を負った人の生々しい様子が映し出される。


「お前って、こういうの見ても、相変わらず無表情だよな。この爆発が起こった時だって、俺よりもずっと冷静だったし……」

「うん」

「まあ、でも助かったよ」

「うん。それよか、その最新の端末、やっぱり、すごいね」


どうやら薫は、翔のウェアラブル端末の方に関心があるらしい。

その端末とリンクしている携帯ディスプレイの映像は、さっきの重傷者が救急車に乗せられている場面を映し出していた。その映像と共に、少々まどろっこしい口調の若い女子アナが、死者はかろうじて無かったものの、七人の負傷者が出て、うち四人が重症であることを告げていた。

ケガ人を救出しようと駆け付けた人たちがコンビ二に飛び込んだ時、ちょうど二度目の爆発が起こったことが、被害者を増やした要因だったようだ。


血にまみれた負傷者の映像を見ても、やはり薫は顔色ひとつ変えない。そんな薫の動じなさを再認識しながらも、翔はニュースの続きを追って行く。


「きゃー、何これ、こわーい」

「てか、この映像、気持ち割る過ぎるんだけどー」


薫とは対照的に、隣のテーブルの女子高生達は騒がしい。そんな彼女達を見た薫が、ほんの少しだけ顔をしかめた。その瞬間、翔の頭を掠めたのは、さっき爆発が起こる直前にコンビニから出て来た女子高生達のことだった。

隣のテーブルの子達と同じ北高の制服を着た三人は、爆発が起こった後も意外と平静だった気がする。もちろん、こっちに一生懸命走ってはいたが、それは爆発が起きる前からのことで、むしろ爆発が起きた後の足取りはゆっくりだった。それに、あの中の一人は、顔にニヤニヤした笑みを浮かべていたような……。


「まさかな」


翔が自分の思い付きを全力で否定した時、さっきの後輩の子、新井さんが翔たちのテーブルに、ちょうどオーダーしたお好み焼きを運んで来てくれたのだった。






たくさんの作品の中から、読みに来て頂いてどうもありがとうございます。

この続きも宜しくお願いします。

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