第48話:アイドル達の悲劇 <薫サイド>
再度、見直しました。
昼間、突然の夕立でずぶ濡れになった水草薫は、仕方なくバイトの同僚、牧野愛衣にメールを送って、一度アパートに戻った。そして、大急ぎでシャワーを浴び、洗濯済みの下着と制服に着替えてバイト先のEマートに舞い戻ったのだが……。
「薫さん、二十五分も遅刻ですよ。もう、雨宿りのお客さんが大勢、押し掛けちゃって、大変だったんですからね」
言葉はきついが、愛衣の視線は優しい。
「それより、その髪の毛、ちゃんと乾かしてきて下さいよ。冷房で風邪引いちゃいますよ」
それで薫は更衣室に行って、そこに置かれているドライヤーでしっかりと髪を乾かしてから店内に戻った。
「でも、良かったです。薫さん、元気で」
「どういうこと?」
「まあ、そういうことです。あ、明日の夕食会の件ですけど、先程お母さんと連絡が付いて、大丈夫だそうです。宜しくお伝えくださいって言ってましたよ」
それで、薫も妹の楓にメールを送ってみる。すると、すぐに返事が来て、『うちのお母さんも大丈夫って言ってた』とのことだった。
それからは、日曜日だけあって徐々に忙しくなって行き、気が付くとシフト終了の五時になってしまっていたのだった。
★★★
その日の夕方、水草薫が自分のアパートに戻ると、年の離れた妹の楓がリビングのソファーに寝転がって、スナック菓子を頬張りながら壁掛けテレビをぼんやり眺めていた。
狭いアパートのリビングにはそぐわない黒い革張りのソファー。中州の実家から運んだものだ。古くなってすっかりくたびれてしまってはいるけど、確かにすごく寝心地が良い。薫も疲れた日には、何度かそこで寝てしまったことがある。
でも、お菓子を食べながらってのは、頂けないな。
「こら、楓。お行儀悪いよ」
「良いじゃん、たまには」
「だいたい、そんな所でお菓子食べたら、ゴキブリが来るでしょうが。それに太ってデブになっちゃうよ」
「大丈夫だよ。後でちゃんと掃除しとくし、そんなにたくさん食べないし……」
「それより、勉強しないんだったら、夕食の準備でもしてよ」
「うるっさいなあ。お母さん、帰って来るのって、八時過ぎじゃん。まだ、二時間以上もあるよ」
薫たちの母、佳代がパートで働いているスーパーは、日曜以外が夜十一時、日曜だけは夜七時閉店だ。つまり、日曜は家族三人が一緒に遅めの夕食を取るのが習慣になっていた。
こんな時間に楓がスナック菓子なんか食べてるのも、夕食が遅いからだろう。
「そっか。今日って日曜日なんだね」
「お姉ちゃん、曜日に関係なく働いてるもんね」
楓は意味もなくそう言ったんだろうけど、薫は少しだけ心が痛かった。先週の日曜のことを思い出してしまったからだ。
先週の夕食の後、薫は佳代と楓に例の事を告げたからである。
薫は、その時の記憶を一瞬で頭から追い払うと、楓が持つスナック菓子の袋をさっと奪った。そして、ソファーの前の床にペタンと座り込む。
「あっ、お姉ちゃん、そんなに食べないでよ」
「良いじゃない。私だってお腹空いてるんだし、だいたいこのスナック、私があげた奴じゃない」
つまり、薫の店の破棄品ということだ。
楓は、薫から袋を奪い返そうと身体を起こす。そこで薫はすかさず空いたスペースに腰掛けた。
「もう。半分に減っちゃったじゃない」
「そんなに食べてないでしょう」
「だってぇ、元々少なかったんだよ」
「また、持ってきてあげるよ。まあ、楓が太らない程度にだけどね」
「……分かった」
たかがお菓子のことで涙目になった楓を余所に、薫は壁掛けテレビの方に目を向ける。それは前の住民が置いていったという旧タイプの有機ELテレビで、サイズは五十インチ。3D映像には対応していない。
テレビ画面の中では、大人数の女性アイドルグループが、短めのスカートを翻して踊りながら歌っていた。薫が小学校に上がった頃に流行り出して以来、様々なグループが現れては消えて行ったけど、この本家本元のグループだけは今も健在だ。
全国の至る所に姉妹グループがあって、この名古屋にだって、もちろんある。他にも、そこそこ有名なグループが二桁は存在するし、韓国や台湾などのアイドルグループも日本に来て講演したり、テレビに出たりしている。
イケメンの男性アイドルグループも同様にたくさんあるのだが、その数は女性ほどじゃない。男女比で言うと1対4か、それ以上の開きがありそうだ。
何でなんだろう?
やっぱり女の子の方が、アイドル願望が強いからだろうか?
主だった都市には、それぞれロコドルと呼ばれるアイドルグループがあって、地元企業のスポンサーが付いて活動している。
ネットを中心に活動しているアイドルだとか、風俗っぽいお店で活動しているアイドル達だっている。
ちょっとした地方都市にはアイドル養成学校みたいなのがあって、大手アイドルグループも自ら養成施設を抱えている。そこには、十代前半の女の子達が大勢いて、毎日懸命に歌とダンスのレッスンに励んでいるんだろう。
主要なグループは、研究生の名の下に大勢の二軍とか三軍を抱えていて、毎年メンバーが次々に入れ替わるから、そこまで入れたらアイドルになれるチャンスなんて、いくらでもありそうだ。
研究生のアイドル予備軍達も含めると、日本にいる女性アイドルの総数は、凄いことになっちゃいそうだ。
もはや、アイドルに希少価値なんて無い。
ということは、契約を打ち切られて街に放り出された元アイドル達だって、毎年大量に生まれていることになる。
大都市の繁華街には、そんな夢破れた女の子達が溢れ返っているに違いないのだ。
うーん、そういった子達って、どうなっちゃうんだろう。
「ねえ、楓。アイドル辞めちゃった子とか、その後どうするんだろうね?」
「いろいろなんじゃない。トップレベルの子はドラマとかバラエティ番組に出たりして、そのうち別の男性アイドルとくっ付いたり離れたりしてるよね」
「それは、ごく一部の子達でしょう。そうじゃなくって……」
「ほとんどの子は、芸能界には残れないだろうね。そうかといって、いきなりフツーのお仕事ってのも難しいだろうし、お水系とか風俗のお店で働くことになっちゃう子も多いんじゃないかな……。やっぱ、女の子は何かと大変なんだよ」
男女雇用機会均等法が施行されてから四十年以上が過ぎて、確かに女性だって社会に出て働くのが当たり前になったし、女性の管理職とかも少しずつだけど増えてはいる。だけど、それで女性が幸せになったかというと、決してそんなことはない。
男性並みに働くことを要求される一方で、「家事は女性がやるべき」とか、「女は出しゃばるべきじゃない」とかの古い価値観は根強く残っている。よって、様々な面での負担が増大し、逆に「女性は、生き辛くなった」というのが、最近は定説になりつつあるという。
更に、若い女性に限って言えば、今は昔以上に「見た目」が重視される社会になったと言われている。よって、多少なりとも上昇志向のあある女性であれば、そうした「見た目」にお金を掛ける必要がある訳で、その為、「多くの女性達が、借金地獄に喘いでいる」というのが実情らしい。
一般のOLとかでもそうなのだから、アイドル志望の女の子については、言わずもがなである。
「今はね、お金さえ出せば、いくらでも綺麗になれるんだよ。でも、一度でも綺麗になっちゃうと、きっと普通じゃ満足できなくなるんだろうね。それに、アイドルになってスクリーンに映ったりとか舞台に立ったりとかしちゃうと変なプライドができちゃって、どこまでも夢を追い掛けちゃったりするじゃない。ほんとはそんなの、別にたいしたことじゃないのにね。やっぱ、大切なのは知識とかスキルを身に着けて、地味でも長く働ける職業に就くことだと思うよ」
夢を追うことは、そんなに悪いことじゃないと薫は思う。
問題は、その後のことだ。夢が破れた時、気を取り直して人生をやり直せるかどうかだけど、それができる子はごく一部の子だけって気がする。大半の子は、心に不満を抱えたまま、風俗のお店とかに身を堕としていそうだ。
薫には、そんな女の子達のことが、どうしても他人事だとは思えなかった。
「ねえ、お姉ちゃん、知ってる? アイドルやその卵だった子が軍に入隊するケースって、すごい多いんだよ。ほら、アイドルになるのって、お金が掛かるじゃない。だから、借金してレッスンに励んだりするのが普通みたい。でも、それに見合った稼ぎが得られる子って、ほんの一部だけで、ほとんどの子は借金が返せなくなっちゃうわけ。で、最後に行き着く先が軍だってこと。ねえ、どっかで聞いたような話だと思わない?」
最後の皮肉はさておいて、楓が言ったこと自体は、薫にとってすんなりと腑に落ちる内容だった。アイドルになる為の歌や踊りのレッスンには、相当な費用が掛かる。それに、美容整形とかにお金を掛けている子も多い。それらを事務所が持つにせよ個人で負担するにせよ、誰かが借金して捻出するしかないわけだ。そして返済が困難になった時、最終的に行き着く先が自衛軍という訳なのだろう。
中には最初から事務所の契約条件にそう書かれているケースもあるだろうし、個人で借りたお金が返せなくなって軍に頼ることもあるに違いない。それに、軍から直接お金を借りることだってできる。最近の軍は、奨学金以外にも様々な形での若者支援プログラムを充実させているからだ。
「私のことは置いといてだけど、AV女優や風俗嬢になるのに比べたら、軍に入るってのは悪くないんじゃないかな。ほら、『私、皆を守るために戦ってきます』っていう方が、ずーっとイメージが良いでしょう?」
「でもさあ、元アイドルの子が自分の部隊に入ってきたら、男の隊員さんは喜ぶかもだけど、同性からはイジメに遭うと思うよ。上官が女性だったりしたら、わざと危険な最前線にほっぽり出されたりとかね。それで、バタバタ死んじゃうの。ねえ、お姉ちゃん、想像してみてよ。戦場の荒野に綺麗な女の子達の死体がごろごろ転がっててね、それが黒いカラスについばまれて朽ち果てていくんだよ。何かグロい話だと思わない? マンガかアニメのネタになるかもだよね」
「何バカなこと言ってんの。そういう子が前線なんかに送られるわけないじゃない」
「じゃあ、その子達、何するわけ?」
「そうね。軍の中にもアイドルグループがあって、前線の兵士達を慰問して回るとか……」
「あっ、それだったら、どのアイドルグループだって、もうやってるよ。いい宣伝になるもんね。わざわざ軍が新しいグループを作る必要なんて全然ないって」
「だったら、やっぱり普通に前線に出て戦うってこと?」
「まあ、そうなんじゃない」
なるほど、今は綺麗な女の子が大量に生産されて、それが本当の意味で使い捨てにされてしまう時代のようだ。
「まあ、アイドルだって戦場に行く時代だもん、お姉ちゃんが軍に入るってのも、そんなに驚くことじゃないのかもだねっ!」
妹のその言葉に、薫は微かな驚きの表情を浮かべた。
薫の軍への入隊について、楓が自分から直接、口にしたのは初めてのことだったからだ。
★★★
薫が母と妹に軍に入ると告げたのは、ちょうど一週間前の日曜日、薫が翔と再会した前の日の夜だった。
日曜だから、母の佳代は八時頃には帰って来る。薫は、いつもより少しだけ豪勢な食事を用意して母を待ち、食事を終えた後に話を始めた。
薫は、軍が自分に提示してくれた条件を全部包み隠さず淡々と説明して、二人の反応を待ったのだが、どちらも黙り込んだまま何も言わない。部屋の中が、まるでお通夜のような状態になってしまった。
しばらくして、母の佳代が口を開いた。
「また寂しくなるねえ」
佳代は、それっきり口を噤んでしまった。
たぶん、言いたいことはいろいろとあったに違いない。でも、佳代から反対の言葉は聞けなかった。きっと今の家の状況から、何も言えなかったんだろう。薫の想像どおりだ。
八歳年下で現在高校三年生の楓は、薫の顔をキッと睨んだままだった。そのうち瞳に涙が滲んだかと思うと、サッと立ち上がって隣の部屋に籠もってしまった。
ただひとこと、「勝手にすれば」と言い残して。
翌朝、薫が起きた時には、母は勤務先のスーパーに行ってしまって既に居なかった。普段は遅番で、十時くらい迄は寝ている人なのに、なんでそんなに早くアパートを出で行ったかは謎だ。
楓は意外にもケロッとしていて普段と変わらない感じだったけど、前の晩に薫が話したことには全く触れようとしない。まるで薫が軍に入ることなんて、「私は聞いてない」といった感じだった。
それが一週間たった今、ようやく自分からその話題に触れてくれたのだ。それが嬉しくない筈がない。
薫としては、やっと胸のつかえが下りた感じだった。
★★★
ところが、安心したら急に、薫は楓のだらけた態度が気になり出した。
「ねえ、楓。もう、充分に休憩はしたでしょう? そろそろ勉強しなくていいの?」
「もう、昼間、いっぱいやったから、当分は休憩で良いのっ!」
「休憩ったって、お姉ちゃんが帰って来てから、ずーっとテレビ見てるでしょうが……あ、そうだ」
そこで薫は、昨夜、幼馴染の水瀬美緒と話したことを思い出したのだ。
「ねえ、あんたの高校に美香がいるって、本当?」
「美香って誰?」
「美香だよ、美香。中州で私のひとつ下の代の……確か、体育の先生やってるって聞いたんだけど」
「聞いたって、誰に?」
「美緒だけど」
「ああ、美緒さんかあ。で、美香って誰よ?」
「ああ、苗字ね。中野美香だよ」
「なーんだ、中野先生のことじゃん」
「中野先生? ああ、当然、そうなるわけか。で、その中野先生、どんな感じなの?」
「あのさあ、お姉ちゃん。中野先生、私が天高に入学した時からいるんだけど」
「てことは、二年前だね。教師になって最初に赴任したのが、天高ってことかあ」
「うん。そういうこと」
「で、あいつ、ちゃんと先生やれてんの? 何か問題とか起こしてない?」
「お姉ちゃんって、なんか中野先生の保護者みたいじゃん」
「だってえ、心配なんだもん」
「ふーん。確かにドジなとことかあるかも。でも、だいたい普通だよ」
「その『だいたい』が心配なんだけど……。楓の体育の先生なの?」
「体育もそうだけど、私の担任……」
「げっ、最悪だ」
「な、なによ、最悪って?」
「だってえ」
「あのね、正式には四月からだけど、私、二年の時から、お世話になってんだよ」
「えっ、マジで?」
「だって、お姉ちゃん、聞かなかったじゃん。それから、またマジって言う」
「あ、ごめん。でも、美香じゃ、心配なんだけど」
「あのね、二年の時の担任って糞オヤジでさ、去年、中州があんなことになってんのに、相談にも乗ってくれなくてさ。中野先生が教頭先生に直談判して私のこと、守ってくれたんだかんね」
「へっ? そんなことあったの?」
「そうだよ。中野先生が助けてくれなかったら、私、学校に居られなかったかもだからね」
「ええ-っ、何それ、あの美香が?」
「もう、お姉ちゃん、びっくりしすぎ」
「でもさあ……」
薫は、頭を何度か横に振ってから続けた。
「美香って、どっか抜けてんだよね。やっぱり、心配だなあ?」
「ふふふ、確かに、それは言えてるかも。私、中野先生から通知表を渡されて、こんなに悪い筈じゃないって思って名前みたら、違う子のだったことあるもん」
「でしょう。ほんと大丈夫なの? あの子に進路指導とか、できんのかなあ」
「私は、大丈夫だよ。自分の進路のことは、自分でちゃんと考えてるから」
「えっ、どうゆうこと?」
「私はね、お姉ちゃんみたいに無謀な冒険はしない主義なの」
楓は、そう言い捨てると食べ切ってしまったスナック菓子の袋を持って立ち上がり、袋をゴミ箱に入れた。そして台所に行くと、ペットボトルを持ってリビングに戻って来る。コーラのペットボトルだけど、中身はただの冷やした麦茶だ。
「とにかく私は、お姉ちゃんみたいな落ちこぼれにだけはならないから。ちゃんと、大学を出て働くの。まだ何をやるかは決めてないけど、今は医療系が良いかなって思ってる。授業料が高いのが難点だけど、国立なら他と変わんないしね。具体的には、看護学部とか薬学部とかが良いと思ってる。資格さえ取っちゃえば、食いっぱぐれることは無いと思うんだよね」
楓は、そう言って立ったままペットボトルの水をぐびぐび飲むと、再び冷蔵庫にそれをしまって戻って来る。
薫が知らないうちに、楓は国立理系クラスに進んでいた。学校の成績は、ちゃんとは見てないけど相当に優秀なようだ。
「だいたいさあ、お姉ちゃんに何かあったら、私がお母さんの面倒、見なきゃなんなくなっちゃうんだよ。お姉ちゃんは気楽でいいかもだけど、私は将来、ボケた母親抱えて一人で介護してかなきゃなんないかもしれないじゃない。そしたら、結婚もできないかもだよ。どうしてくれんの」
「どうしてくれるかじゃないでしょう。私がいなくなったら、あんたがしっかりするしかないじゃない。もう子供じゃないんだし……って、大丈夫なの? お姉ちゃんがいなくても、ちゃんとやっていけるの? うちには頼りになる親戚なんかいないし、中州の人達は皆が同じで大変なんだから、頼る訳にはいかないし、とにかく自分で何とかしないといけないんだよ。誰も助けてくれないんだからね。本当に大丈夫? 一人でやっていける?」
普段、家でもあまり声を荒立てたりしない薫だけど、この先の不安が重なって咎める口調になってしまった。
楓はしばらく口を尖らせて、そんな薫の方をじっと睨み付けていたけど、やがてふっと頬の筋肉を緩めると「大丈夫だよ、お姉ちゃん」と返してきた。
「お母さんは何も言わなかったけど、お姉ちゃんがあれだけのお金を軍から追加で借りられたってのは、すっごいことだと思うよ。私もネットで色々と調べてみたけど、あんな金額をポンと出させた人なんて、どこにもいなかった。さすがは私のお姉ちゃんだね」
楓は薫にちょっとふざけた笑顔を向けていたけど、その顔が今度は真面目な表情に変わって、その後の言葉を続けた。
「でもね、お姉ちゃん。私にとってのお姉ちゃんの価値は、お金なんかに絶対、換算できないものなの。お姉ちゃんと比べたら、一億円だろうと二億円だろうと、ほんのはした金だよ。そりゃ、それで家の借金を返せるとしたら、とてもありがたいとは思うけど、お姉ちゃんの価値は、全然そんなもんじゃないってことだけは、絶対に忘れないでいて欲しいんだ」
薫は、珍しく真剣な表情の楓に「分かった」と言って頷く。
「それと、ほんとはこんなこと考えるのも嫌だけど、たとえ万が一、お姉ちゃんに何かあったとしても、私がきちんとお母さんの面倒を見るし、自分のことは自分でちゃんとやる。だからお姉ちゃんは、安心して戦場で戦ってくればいいよ。『お国の為、愛する家族の為、正義の為に戦え、お姉ちゃん』ってね」
最後の所は照れ隠しの為か、ふざけた調子になってしまったみたいだけど、楓が思っていることは何となく伝わってきた。
薫は楓に「ありがとう」と言って頭を撫でてやる。
楓だって、もう子供じゃない。それに元々薫より成績だって良いし、何かと優秀な自慢の妹なのだ。母の面倒だって、きっとうまくやってくれることだろう。
それに薫が戦死した暁には、軍から借りた全てのお金の返済が免除されるし、追加で相当な金額が母と妹の口座に振り込まれる契約になっている。
薫は妹のわざとらしい笑顔を見ながら、今度の自分の選択に誤りが無かったことを改めて確信したのだった。
ここまで読んで頂き、どうもありがとうございました。
次話は、今日の続きから始まって、後半は中州の説明パートになります。
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