第21話:翔の回想 <翔サイド>
見直しました。
◆7月21日(火)
水草薫とケンカ別れをしてしまったことは、藤田翔にとっても後味の悪い出来事だった。
藤田家の大きな檜造りの風呂を出た後、翔は缶ビール片手に薫との会話をゆっくりと思い返してみた。
まず思ったのは、薫の就職のことに触れたのがまずかったということだ。昨日のお好み焼き屋でも、薫は仕事の話には触れて欲しくないみたいだった。たぶん、そのことで、何か彼女の気に障ることを言ってしまったんじゃないか?
だけど、翔には具体的にそれが何なのかが良く分からない。
翔が知っている薫は、普段あまり感情を表に出さない女だ。それがあんなにムキになって怒るのは、余程のことに違いないのだが……。
彼は、薫におかしなことは言っていないと思っていた。薫は、ああ見えても頭の良い女だ。真面目だし、責任感だってある。それに、彼女のことを冷静沈着だと言ったのだって、そのとおりだと思うし、そういう人間がビジネスの現場で有益だというのも事実だ。
それなのに、なんで彼女は行動を起こそうとしないんだろう。行動を起こして、どっかの会社の門を叩いてみれば、彼女を雇ってくれる会社なんていくらでもある筈なんだ。
翔には、就職活動というのが一般の学生にとって大変なイベントだという認識は無かった。
翔も三社ほど会社訪問をしたのだが、どの会社も翔のことを暖かく迎えてくれたし、内定どころか「ぜひうちに来て欲しい」という勧誘が凄かったのだ。面接も、いきなり役員が出て来て、自社の魅力と翔の勧誘にほとんどの時間が費やされていた。訪問を終えてからも、あまりに勧誘がしつこいのに閉口してしまい、最後は七星商事以外の二社に対して、母親の恵美の方から断りの電話を入れてもらった。
七星商事は、その恵美がそれとなく勧めてくれた会社だ。ただ、毎年決まって就職人気ランキングの上位に載っている人気企業だし、グローバルにビジネスをしていて仕事が面白そうだと思って選んだ。会社訪問をした残りの一社も七星商事と似たような商社だし、もう一社は地元名古屋で強い都市銀行だった。
実は、翔が受けた三つの会社は、翔の実家が経営する藤田コーポレーションと深いつながりがあるのだが、翔がそのことに思い至ることは無かった。
それでも、実家が藤田だからという意識も多少はあって、薫が自分と同じように会社から歓迎されるとまでは思っていない。だけど、薫が百社以上の面接を受けて、その全てに断られたなんてことは、完全に彼の想像の範囲を超えていた。
だから、翔が行ったことを薫が素直に聞かないのは、彼女が素直じゃなくなったとしか考えられなかったのだ。
ベッドに横になっても、翔はなかなか寝付けそうになかった。どうしても薫のことに思いが行ってしまい、頭の中で堂々巡りを繰り返す。
すぐに翔の頭に浮かんだのは、大学を卒業して今の会社に入社する前日、彼女から別れを告げられた時のことだ。
――何であの日、俺は突然、彼女に振られてしまったのだろう?
そのことだって、翔には未だに謎のままだ。
高校の頃は、あんなじゃなかったのに。いや、大学に入ってからにしたって、薫はずっと素直な女だった。
それとも、素直なフリをしていただけなんだろうか?
翔には、そうは思えなかった。本当は、思いたくないだけなのかもしれないけど……。
目を閉じると、当時の薫との出来事が次々と頭に浮かんでくる。そのどれもが翔にとっては、どんなに忘れようと思っても忘れられない大切な記憶だ。
★★★
「ねえ、私の足、あの人より太いかなあ?」
薫と並んで渋谷のスクランブル交差点を渡っていた時、彼女が唐突におかしなことを言い出した。
「何言ってんの、お前?」
翔は、思わず質問で返してしまう。どう見たって、薫の足の方が細いからだ。高校の時も細身だったが、東京に来てからの薫は、ますます痩せたんじゃないか?
「だって、私、最近太った気がするんだもん」
「食パンと草ばっか食ってるお前が、何で太れるんだよ」
普段の薫は、パン屋で安く手に入れた食パンの耳ばかり齧ってることを、翔は知っていた。小さな口にパンを頬張った顔は、まるでペットの小動物みたいだ。
せっかく翔が食事をおごってやった時だって、肉類全般が苦手な薫はいつも野菜しか食べない。
「最近、うちのコンビニでドーナツのシリーズ初めたんだけど、結構、余っちゃうんだよね。もったいないから全部もらってきて、ついつい夜中に食べちゃったりするの。だから、太ったかなあって……」
「薫の場合、ちょっとくらい太った方が良いんだよ」
翔は事あるごとにそう言い聞かせているのだが、薫はまったく聞く耳を持たない。
「もう、翔くんは意地悪なんだからあ。そうやって私をデブにしようったって、そうはいきませんよーだ」
化粧っけが全く無くて服装に無頓着、決して着飾ることが無いことから、一見して薫は地味な女に見える。今だって、服装は無地のシャツにだぼだぼのジーンズだ。
だけど、薫は相当に綺麗な顔をしている。無表情で雰囲気が暗いことから、周りの男達がちゃんと見ないだけだ。それでも薫はちょっとした仕草が女の子っぽいし、今の少しだけ拗ねた顔だって相当に可愛い。
「ねえ、何で翔くんは、私なんかと一緒に出歩きたがるの?」
それは、毎週のように一緒に出歩く薫から、頻繁に投げ掛けられる質問だった。
「薫だってバイト以外はどうせ暇なんだから、別に良いだろ」
「うん、私は良いけど、翔くん、彼女とかいないの?」
これも薫によくされる質問だ。東京に来て二人で出歩くようになったばかりの頃は、『俺は彼氏じゃないのかよ』と思ってへこんだこともあったけど、そのうちに慣れてしまった。
「翔くんの大学にだって綺麗な子、いっぱいいるでしょう?」
「そりゃ、まあ、いるにはいるけど」
「だったら彼女とか作ってみれば? 翔くんだったら引く手あまただよ、きっと」
悪戯っぽい顔でそんなこと言われると、ついつい「どうだっていいだろ」と怒鳴り返してしまう。
「お前こそ、彼氏とかいないのかよ」
思わず本心とは違うことを口走ってしまったりするのだが、このセリフは絶対にタブーだった。翔が口にした途端、薫は俯いてふさぎ込んでしまう。そして、だいぶ時間が経ってから、ポツンと小声でこう言うのだ。
「私がモテないこと、知ってるくせに……」
一度こうなってしまった薫を元に戻すのは、とにかく面倒だった。
どんなにおだてたりしても「心にもないこと言って」とか「本当は思ってないくせに」と呟くだけで、なかなか立ち直ってくれない。
そのうち「翔くんの嘘つきっ!」とか言って、その場から逃げて行ってしまう。
当然、捕まえるのは難しくないのだが、捕まえた後が大変だ。
「待てよ」
「離してよ」
「離したら、逃げるだろ」
「当たり前じゃない」
「じゃあ、嫌だ」
「意地悪」
「お前の方が、分からず屋だろうが」
「何で虐めるの」
「虐めてないだろ」
「だって、嘘つくんだもん」
「嘘なんかついてない」
「じゃあ、なんであんなこと言ったの?」
「……ごめん」
「なんで謝るの?」
後は堂々巡りで、ちっとも埒が明かない。拗ねた薫を宥めるのは、とにかく骨が折れるのだ。
だから翔は、なるべく薫がこの「いじけモード」にならないよう、細心の注意を払う必要があるのだが……、どうしても地雷を踏んでしまうことが時々……いや実際には、かなりの頻度で起こってしまっていた。
「翔くんって、基本的に意地悪だよね」
「薫が変なこと言ってくるからだろ。ほら、俺が女子から引く手あまただとか……」
「何で? 翔くんって、見た目すごくかっこいいじゃない」
「どこがだよ」
「うーん、そう言われると難しいよね」
「ちぇっ、結局は俺のこと、からかってるだけじゃないかよ」
「……もう、何でそんなこと言うの。だから翔くんは意地悪なんだよ」
「……っ」
★★★
翔と薫のカップルは、会うといつも歩いていた。週末の度に渋谷の駅で待ち合わせをして、それから目的もなくぶらぶら歩くのが、二人にとっての自然な時間の過ごし方だったのだ。
何でそんなに歩いてばかりいたのかと言うと、ひとつはそれが翔にとって楽だったからだ。
薫と会うこと自体は、とても楽しい。だけど今日は何処に行こうだとか、何処で何をしようだとかを毎回きちんと決めるのは面倒だし、あまりやりたくない。翔には案外、そういうものぐさな所があるのだ。
それと、もうひとつの理由は、薫があまりお金を持っていないからで、むしろこっちの方が大きかったかもしれない。
別に薫の分を出すくらいは翔にとって何でもないことなのだが、毎回それをやると薫が嫌がるのだ。
「私、翔くんに負担ばかり掛けてるよね」
「翔くんにとっての私、たぶんお荷物だと思う」
「私、翔くんにたかるだけの嫌な女だもん。ダメダメだよ」
そして、この後は、お決まりの「いじけモード」である。実に、めんどくさい。
それなのに、翔が薫と付き合っているのは、口に出すのは恥ずかしいけど……つまりは、そういうことなのだ。
★★★
会う度にたわいのない会話をしながら、翔と薫の二人は本当にいつも歩いてばかりいた。
薫は、そんな翔に文句は言うものの、それでも一緒に付いて来る。
「ねえ、たまには、ちゃんと何処か行こっか」
「何処かって、何処だよ」
「うーん、遊園地だとか映画とかは、お金が掛かるから……、あっ、何処かでイベントとかやってないかな」
「どんなイベントだって、金は掛かるぞ。お前、今、金欠だろ」
「……うーん」
たぶん、薫は俺を気遣ってそう言っているんだろう。
いつも歩いてばかりだと、翔くん、つまんないんじゃないかな?
どうせ、そんな風に心配しているに違いない。
「あのな、薫。俺はお前に会いに来てんだからさ。別にどっか特別な所に行かなくたっていいんだぞ」
「そうなの?」
「そうだ。それより、お前はどうなんだよ。どっか、行きたいとこ、あるんかよ?」
「ううん。全然」
「だったら、聞くなよ」
「……むぅ」
歩き疲れたら、何処かの小さな公園で缶ジュースを飲んだり、アイスクリームを食べたりしながら、ベンチに座ってたわいもない話をする。そんな素朴なデートが二人の定番だったのだ。
「ねえ、翔くん。『ノルウェーの森』って読んだことある?」
実は、薫は結構な読書家だったりする。と言っても、買って読むことはしない。何処かの図書館で借りてきて読むのだ。
「俺が読んでるわけないだろ」
「そっか。翔くん、いつも難しい本は読んでるのに、小説とか、あんまり読まないもんね」
難しい本というのは、大学のゼミの課題で仕方なく読む本のことだ。翔が入っていたゼミは、毎回すごく多くの本を読まされる。だから、他の本などは、あまり読む気にならない。
ただ、そんな翔でも、薫の言ったのが村上春樹の本だってことぐらいは知っていた。それで何となく気になって読んでみると、いつも歩いてばかりいるカップルのことが前の方に出てくる。
「ああ、これだな」と思って、翔はますます薫を歩かせることにした。
だから待ち合わせの渋谷周辺だけじゃなくて、中央線沿線を歩いたり、皇居の周りをぐるっと一周したり、上野のお山まで行ってみたりと、近場のあちこちを本当に良く歩き回った。
それから、薫の大学で待ち合わせて翔の大学まで歩いたりもしたし、時には遠出して横浜のみなとみらい駅から港町をぶらぶらしたりしたこともある。
何処だったかは忘れてしまったが、電車が通らない線路の上を延々と歩いて、「これって何かの映画みたいだね」と言い合ったり、多摩川の土手をひたすら下流に向かって歩いていた時、薫が故郷の中州を思い出し、懐かしそうに佇んだのを、翔がからかったりもした。
桜の季節は、人込みで混雑するメジャーなスポットを避けて、敢えてマイナーなあまり人に見てもらえない桜を探してあちこち歩く。
紅葉の季節も同じで、銀杏並木を制覇したり、綺麗な椛を探して住宅街を散策したりする。
雨の日に、ひとつの傘で身体を寄せ合い、半分濡れながら歩いたり、木枯らしが吹く寒い日に、寒い寒いと言いながら早足で歩いては、身体が冷えると近くのコンビニに駆け込むのも楽しかった。
そんな薫は、翔と一緒でない時も結構歩いていたようだ。
「ねえねえ、翔くん、聞いて聞いて。大学に行く時、ひとつ前の駅で降りて歩くとね、六十円も安いんだよ。凄いでしょう」
「何言ってんの、お前。定期くらい持ってんだろ」
「ううん、次のバイト代が入るまで、お金なくて……。でも次に定期買う時は、もちろん、ひとつ前までだよ」
★★★
そう言えば、渋谷の夜を延々と二人で歩いたこともあったな。
あの夜のことは、さすがに今思い出すと相当に気恥ずかしい……。
その日の薫は、珍しくスカートを履いていた。とはいっても、膝下丈のワンピース。色は暗かったから、よく覚えていない。
その彼女が、渋谷のセンター街から道玄坂の方に何気なく翔を誘導して行く。しかも、時折りスマホの画面をちらちら覗いたりしている。
そうかと思うと急に黙り込んだり、いきなり翔の腕を取って変な路地に入っては、すぐに引き返してみたり……。
そうこうするうちに、あやしいネオンサインが目に付く区画に入り込んでしまっていた。
二人の前には親しげに腕を絡めて歩く同世代のカップルがいて、翔たちが見ている前で堂々と右手の建物の中に消えていく。そこの小さな看板を見ると、ご休憩いくらとか書いてある。
薫の意図を理解した途端、翔の胸が急に高鳴り出した。
ヤバい。俺、こういうとこ、初めてだ。
その時、翔の頭にまず浮かんだのは、『薫に馬鹿にされたら、どうしよう』である。
でも、その一方で、これはチャンスかもと思ってる自分もいる。そして、それ以上に薫が欲しいという劣情が熱く頭をもたげてくるのだ。
よし。ここは男らしく決めてやる。
そう思ってはみたものの、そっち系の建物に近付いて、いざ入ろうとすると、足がすくんで立ち止まってしまう。
それは薫も同じみたいで、小さな肩が小刻みに震えていた。
仕方なく、ひとまず撤退。次のターゲットを伺うことにする。
その間、二人はずっと無言だった。
だいたい薫は、何でいきなりこんな所に来ようとするんだよ。
俺に、何の相談もなく……。
薫のくせに……。
後で思えば、そんなの恥ずかしいからに決まっている。それでも、つい薫に八つ当たりしてしまうのだった。
そして、もう一軒のホテルをやり過ごし、今度こそはと翔が心に決めた時、薫のスマホに着信があった。薫は一瞬、顔をしかめると、「ごめんなさい」と断ってから電話に出てしまう。
「もう、お母さん、どうしたの?」
薫の母親からだった。しかも話が長引いていて、なかなか薫は切ろうとしない。
いや、切れないのかもしれない。
だけど、翔にとっては、身の置き場がない時間だった。
「うん、荷物届いたよ。お米、送ってくれてありがとう。……もう、大丈夫だから。ちゃんと食べてるから……」
そして、ようやく薫が通話を終えた時、翔の口から零れ落ちた言葉は、「帰ろうか」だった。
その瞬間、薫の顔に浮かんだのは、どう見ても安堵の表情だった。少なくとも翔には、そんな風に見えた。
だけど、それをどう受け止めたら良いのかの解を、その時の翔は持ち合わせていないのだった。
★★★
その後、この時のことは何となく二人の間でタブーのようになってしまい、翔も薫も二度と道玄坂の方角に足を向けようとすることは無かった。
もし、あの時、薫と一線を越えてしまっていたら、その後の二人の関係は今とは全く違ったものになっていたに違いない。
とはいえ、過去はもう変えられないのだ。
実は、翔は薫に明確な告白をしたことがない。そういうことには全く触れないまま、高校と大学の七年間、翔は「何となく」薫という女性と一緒に過ごしていたのである。
たぶん、それが翔にとって都合の良い関係だったからなのは、間違いない。当時の翔には、薫の隣が一番居心地の良い場所で、彼はそこをどうしても手放したく無かった。だから彼は、告白というリスクを取らず、ずるずると先延ばしにしてしまった。本当は独りよがりのずるいやり方なのに、そのことに敢えて気付かないふりをしていた。
でも、それらは全て翔の側の都合でしかなくて、薫がそれをどう思っていたかは別の問題だ。
だけど、翔とて、たぶん気付いてはいたのだ。あの渋谷の夜のことを持ち出すまでもなく、薫が何かに悩んでいたのは明らかなのだから……。
問題は、それが何なのか、翔にはさっぱり分からないことだ。
そのことを翔は、ようやく今になって考えてみる。
何で薫がいつも同じ地味な服装だったのか?
何で化粧っけが無かったのか?
何でいつも金欠ばかりで、あんなに痩せていたのか?
あの頃の薫は、何を考えていて、何に悩んでいたんだろう?
そう思った彼は、愕然としてしまうのだ。あれだけ長く一緒にいたのに、自分は全然、彼女のことを知らない。
もちろん、当時の彼だって、いろいろと彼女のことを考えてはいた。彼女と会う度にカロリーの高い食事を勧めたし、金欠の彼女に合わせて金の掛からないデートをしたり、様々な彼女の話を聞いてやったりした。
だけど、それらはどれも本当は、ごくうわべだけのことでしかなかった。だからこそ、大学を卒業した後に突然、別れを告げられたんじゃないのか……。
そこまでは、何となく翔にだって分かる。でも、その先のことが彼には全く分からない。
そもそも彼は、彼女の事情に感心が無さ過ぎた。
例えば、薫が生まれた「中州」という土地を、翔は一度も訪れたことが無い。彼女に聞いてから地図で見て、何となく分かった気にはなっていただけだ。そこに翔自身が足を向けようとしたことは、ただの一度だって無いのだ。
そんなことは、きっと氷山の一角でしかないのだろう。翔は薫のことを、あまりにも知らな過ぎる。
つまり、彼は彼女にちゃんと向かい合ってこなかったということだ。
そして、彼女と別れて三年四ヶ月が過ぎた今、やっぱり彼は、何も変わってはいなかった。相変わらず表面的な所しか見てなくて、適当な受け答えを繰り返した挙句、彼女をあんな風に怒らせてしまった。
そのことを辿って行くと、それらは全て、彼女との関係をあいまいなままにしてきた学生時代の自分の態度に行き付く。
そこまでは翔も理解した。だけど、やはり彼の思考には限界があったようだ。
翔が一番に思ったのは、そんな自分を「男として情けない」と思ったことだ。そのことで彼は、薫に後ろめたく感じたものの、彼女の事情を自ら探りに行こうとはしなかった。
その代わりに彼は、このように自問した。
――何で俺は、薫に好きだって言わなかったんだろう?
彼がそのように思い、後悔するようになったのは、彼にとって大きな進歩だろう。
だけど、今さらそれを知った所で、どうなるものでもない。
彼は、彼女のことをまだ何も知らない。
ここまで読んで頂き、どうもありがとうございました。
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