■第16話:コンビニEマート <薫サイド>
再度、見直しました。
◆7月21日(火)
水草薫がバイトをしているコンビニ、Eマートがあるのは、天王市の市街地の一角である。
天王通りの突き当たりにある神社から少し左手に逸れた所に、天王池という大きな池があって、その周囲一帯が公園になっているのだが、その公園の入り口付近から道を一本隔てた所にそのコンビニはあった。
ちなみにその道にはコンビニのすぐ先から公園に沿って松並木ができており、そのまま薫が通った天王高校まで延々と続いている。薫は高校時代、毎日この松並木の下を自転車で高校まで通ったのである。
薫がこの店で働くようになってから、まだ五ヶ月程しか経っていない。とはいえ、薫が東京にいた七年弱のうちのほとんどの間、同じチェーンのEマートのお店でバイトをしてきた経験があるので、それを加えると相当なベテランということになる。
それをここの日比野店長は評価してくれて、かなり高い時給で薫は雇われていた。その代わり、学生バイト達の指導員のようなことをさせて頂いているのだが、それは薫にとって、願ってもないことだった。
その日比野店長は三十代前半。男の人としては少し小柄で小太りだけど、優しそうで人当たりが良い、見方によっては愛嬌がある顔立ちをしている。独身でちょっとオタクっぽい所のある人だけど、薫にはとても良くしてくれていた。
ただ、少しだけ気弱な所があって、人の言うことを何でも信じてしまう所は、直した方が良いのではと薫は内心、思っていたりするのだった。
このコンビニは彼の父親が始めたお店だそうで、後で始めた他の事業が成功して、そっちの方が忙しくなったので、このお店は息子に任せているのだという。
実家は近くのお屋敷街にあるらしい。つまり、良くも悪くも育ちが良い人だということのようだ。
薫は、その店長に雇ってもらったことを心から感謝しているし、仕事ぶりを高く評価してくれて本当に有難く思ってもいる。
ただ、そうは言っても所詮、バイトはバイト。仕事はそこそこ楽しいし、時給だって相当な金額を頂いてはいるのだが、いくら長く働いた所で履歴書に書けるようなキャリアにはならない。
そのことを思うと薫は、どうしても淋しい気分になってしまうのだった。
★★★
今日の薫のシフトは、朝八時から午後七時までの実質十時間、最近にしては長い方だ。少し前までは『一円でも多く稼がなきゃ』と思って目一杯にシフトを入れていた。でも、その頃とは事情が変わったことで、近頃は少し楽をさせてもらっている。
今日の薫の相棒は、午前中が浅野里奈で、午後は牧野愛衣。どちらも可愛い女子高生だ。そして、夕方の四時になると、お客さんが急に増えることに備えて、女子大生の斉藤美月が加わることになっていた。
浅野里奈は、天王北高校の二年生。明るくて、いつも元気いっぱいの子だ。「朝の」里奈ちゃんってことで、夏休み中は午前中を中心にシフトを組んでくれている。
その里奈は今日もバッチリお化粧を決めていて、一見すると遊んでる子に見えなくもない。でも、中身は真面目で責任感の強い「使える」子だ。
実は、この辺りに五店舗あるコンビニの中でも、この天王池公園入口にあるEマートは、学生達のバイト先として一番に人気があった。理由は、周囲の治安の良さと客層が学生主体で、めったに変な人が来ないからだ。それに店長が良い人で、時給を高めに設定してくれることも人気のひとつだと薫は思っている。
人気が高いということは、競争率だって高いことでもある。そんな高い倍率をくぐり抜けてきた子は、本来なら優秀な筈なんだけど、問題は日比野店長の人を見る目が信用できないことだ。
日比野店長は良い人なのだが、人が好すぎで、見た目で判断してしまいがち。それで最近は、薫も採用面接に同席させてもらっていた。
つまり、里奈の採用には、薫も太鼓判を押しているので、問題ないわけだ。
里奈の家は、この近くのお屋敷街にある。いわば名家のお嬢様として、天真爛漫に育ったようだ。家が近所だから、朝早くても問題ないというわけだ。
その里奈は、実は制服の上にEマートのロゴが付いたエプロンをしているだけだったりする。日比野店長が女子高生の制服姿を気に入っていて、「この方がお客さんの受けが良いから」とかで、この格好をさせられているらしい。
でも、この里奈の場合は北高の制服が大好きなので、問題は無いようだ。むしろ、こんなことを言って喜んでいる。
「この格好だと、わざわざEマートの制服に着替える手間が省けて助かっちゃいます」
確かに今の北高の制服は、薫から見ても可愛らしい。丸襟の白いブラウスに大きな赤いリボン。チェックのプリーツスカートは青緑色。
「薫さん、何だか今日は明るいですね。何か良いことありました?」
「えっ、そう見える?」
「はい。だって、いつもよりも口数が多いですし、声が弾んでますよ」
薫は、いつも無表情で、明るいだなんて言われたことが無いので聞き返してみたのだが、里奈の返事には納得して頷いた。
「実はね、昨日、ばったりと昔の友人に会っちゃったんだ」
「へえ、そうなんですね。あ、友人ってことは、案外、男の人だったり……」
「うっ」
「えっ、図星ですか?」
不覚だった。と言っても、別に隠すようなことではない気がしないでもない。しばらく薫が押し黙っていると、里奈が再び口を開いた。
「なるほど、訳アリなんですね。ひょっとして、昔に別れた彼氏さんとか……ええーっ、これも図星ですかあ」
「もう、里奈ちゃん、驚きすぎ」
パぴパぴ……。
「「いらっしゃいませー」」
なんだか、お客さんに巣くわれた思いの薫だった。
★★★
それから徐々に忙しくなって、元カレのことを追及されることの無いままに、浅野里奈は帰って行った。
そして替わりにやって来たのは、牧野愛衣だ。
彼女は薫の母校、天王高校の三年生。つまり、本当は受験生なのだが、それでもバイトをしているのは、家にお金が無いからだ。朝の里奈とは正反対の境遇である。
そんな境遇にも関わらず、愛衣は一生懸命に努力している頑張り屋さんだ。忙しい母親に代わって弟の面倒を見ながらも、自分の勉強はしっかりとやっている。しかも空いている時間は最大限、バイトでお金を稼ぐのに必死なのだ。
彼女は、何とかして大学に行こうと考えている。そうしないと、今の境遇から抜け出すことは不可能だ。運命に抗い、社会の最下層からの下克上を果たす為、愛衣はひたすら走り続ける女の子なのである。
そんな愛衣は、やや小柄でおめめパッチリの可愛い子だ。黒いベリーショートの髪は自分で切ったらしく不揃いだけど、元の素材が良いので、そんなに気にならない。
彼女も浅野里奈と同じで、制服の上にエプロンをしている。もっとも愛衣の場合、制服はセーラー服だ。そして、彼女の特徴は、スカートの丈がとっても短いこと。その短いスカートから細い足がニ本、にょきにょきっと出ている。
薫は以前、「何で愛衣ちゃんのスカート、そんなに短いの? それじゃ、お尻が見えちゃうじゃない」と尋ねてみたことがある。
「この制服、実は卒業生のおさがりなんです。で、その卒業生が小柄な人で、私も一年の時は今よりずっと小さかったから、その時は良かったんですけど、その後、背が伸びちゃって……」
愛衣には予想外のことだったと言うが、今更、買い直すお金などない。仕方がないので、だましだまし着ているとのことだった。
それでも、今の愛衣だって、薫より顔半分くらい背が低いのだから、最初にこの制服を着ていた子は、相当に背が低かったんだろう。
ちなみに日比野店長に言わせると、愛衣は薫の妹みたいだそうだけど、薫の実の妹、水草楓は薫よりも背が高いから、薫にはその感覚が分からない。ただ、そうはいっても、楓は未だに甘えん坊な所が多分にあるから、身体の大きさなんて関係無しに、意識の上では妹でしかない。
その楓も愛衣と同じ天王高校に通っていて、しかも同じ三年生だ。だから、ひょっとすると二人は知り合いなのかもしれない。こないだから、そのことを愛衣に聞いてみようと思ってたりするのだが、未だに聞けないでいる。やはり、親族とか幼馴染以外に妹のことを口にするのは、何となく気恥ずかしいからだ。
「あのね、愛衣ちゃん」
「あ、薫さん、どうかしましたか?」
「えーとね……えーと、あれ、何だっけ?」
結局、途中でとぼけてしまった。
やっぱり、いいや。帰ってから、楓に聞こう。
「まあ、外は、暑いですからね。薫さんも、水分は取った方が良いですよ。さっき、外に出てたでしょう」
なんか、愛衣に気を使われてしまった。八歳も年下の子からすれば、自分は年寄りに見えてしまうのだろうか。
そう思って薫は、少しだけ嫌な気分になる。
「それにしても、お客さん、来ないですね」
午前中、里奈といた時は、割とお客さんが多かったのに、お昼のピークを終えた今、ピタッと客足が途絶えている。
「外が暑いからじゃないかな? さっきも暑かったもん」
「今日も三十八度を越えたみたいですもんね……あ、てことは、今夜も熱帯夜かなあ。ちょっと怖いけど、網戸にして寝るしかないかも」
「うちは二階だから、いつでも網戸だよ。愛衣ちゃんとこ、一階なの?」
「うちも二階なんですけど、そんでも物騒じゃないですか?」
「気にし過ぎだよ。てか、怖い人が本気で押し入る気だったら、窓閉めてたって関係無いと思うよ?」
「窓ガラスを割れば、それなりの音がするじゃないですか。だから、一応の防犯効果はあると思うんですよね」
「だけど、サッシの窓ガラスなんか割られちゃったら、大損じゃない。それはそれで嫌だよ」
「乱暴されたり、殺されたりするより、良いですってば……あ」
パぴパぴ……。
「「いらっしゃいませー」」
会話の途中でお客さんが入って来た。女子高生三人組だ。愛衣と同じセーラー服姿だから、薫の後輩の天高生達だ。
彼女達は、おしゃべりをしながらアイスを買って出て行った。たぶん、食べながら帰るんだろう。
三人の天高生が出て行くと、薫はレジカウンターの所にいた愛衣の方に寄って行った。愛衣に関することで、少し気になることを思い出したからだ。
今日の愛衣のシフトは、正午から夜の九時まで。彼女にとって、九時まで働くのは、今日が初めての筈だ。
「しかし、あの店長が夜九時迄のシフトなんて、よくオッケーしてくれたね」
「そうなんですよね。あ、薫さんも助言してくれたんでしょう? 大変、助かりました。ありがとうございました」
「それはまあ、良いんだけど、送って行ってくれる人、見付かったの?」
「はい。何とか、お陰様で」
「そっか。良かったね」
日比野店長が気にしたのは、愛衣の身の安全についてだった。愛衣が家族と住むアパートは、天王市の中でも治安が最悪とされている地区にある。
ちなみに薫が母と妹の三人で住んでいるアパートも同じ地区にあって、ほとんど目と鼻の先だったりする。つまり薫と愛衣とはご近所さんん同志の関係なのである。
そんな所から通っているわけなので、愛衣が夜まで働きたいと言った所で店長がなかなか認めたがらないのは当然だろう。そこには愛衣本人への心配もさることながら、女子高生を夜まで働かせた挙句に夜道で襲われたとなれば、店の評判にも傷が付くからだ。
今の季節は、陽が長い。だから店長も、夜七時迄ならぎりぎり認めてきたのだが、それ以降となると外は真っ暗になってしまう。とりわけ夏は、酔った不逞の輩が夜道を跋扈することが多いのだ。
とはいえ、愛衣の事情は理解できる。何とかしてやれないかと薫が店長に相談し、二人で話し合って決めた条件というのが、「保護者もしくは保護者が指定した人にアパートまで送ってもらう」ということだった。
愛衣の母親は夜遅くまで働いているらしく、その母親に送ってもらうというのは厳しいらしい。それに愛衣の母親はまだ三十代。下手したら、二人一緒に襲われることだって起こり得る。だから、できるだけ男性を探してくるようにと、薫は愛衣に伝えていた。
普通に考えたら父親にお願いする所だろうが、愛衣は父親のことをほとんど口に出したがらない。母子家庭ではないようなので、たぶん何かの事情があるのだろう。
そもそも普通に考えたら、あのような所に年頃の娘を置いている時点で、まともな親ではない筈だ。
もっとも、それは薫達にも言えることなので、そのことを薫はどうこう言うつもりはなかった。薫の所が訳アリなように、愛衣の両親だって、きっと訳アリなんだろうと思うからだ。
「でも、本当に良かったね。ちゃんと送って行ってくれる人が見付かって」
「はい、嬉しいです……あ」
パぴパぴ……。
「「いらっしゃいませー」」
条件反射で声を出してから、薫たち二人は身内への「お疲れ様でーす」に切り替える。入って来たのが女子大生の斉藤美月だった。彼女は薫と愛衣だけに聞こえる声で「お疲れさまー」と言いながら、バックヤードにある更衣室に向かって行く。
店内の壁に掛かったデジタル時計を見ると、午後三時四十九分だった。
実は、この斉藤美月にしろ牧野愛衣にしろ、ここでのバイトは薫よりも前から働いていたりする。もっとも愛衣の場合は一週間だけの違いでしかなく、たぶん八歳という年齢差と他店でのキャリアを考慮して、薫のことを先輩として慕ってくれている。だけど、斉藤美月の場合、事情が違う気がする。
この店で薫が働くようになって、既に五ヶ月。それでも薫は、未だに仕事のこと以外では、彼女と口を利いたことがない。
薫だって人見知りな方なので、彼女をどうこう言える立場ではないのだが、彼女の場合、「話し掛けないで」オーラが強過ぎて、五つも年下だというのに話し掛け難いのだ。
「ねえ、薫さん、斉藤さんって薫さんのこと、自分より年下だと思ってるんじゃないですか?」
「えー、まさか、それは無いでしょう」
「いやいや、分かりませんよ。だって、薫さんって、見た目、すっごく若いですもん。私だって、薫さんの歳を知らなかったら、自分と同じくらいだって思っちゃいますって」
「えー、愛衣ちゃん、それマジで言ってる?」
「マジ、ですか? あ、いや、本気で言ってますけど」
なんか、途中で首を横にされてしまったけど、私、変なこと言っただろうか?
いや、それはさておき……。
愛衣の発言に、薫は少し考え込んでしまった。言われてみれば、その可能性だってゼロじゃないと思ったからだ。
確かに薫は、自分の歳を斉藤美月に伝えたことはない。だけど、他店で相当に長いバイト経験があることは、きちんと言ってある筈だ。
いや、長く働いた経験があると言っただけで、それが七年だとは言ってないかも。
彼女は大学一年から、このお店で働いてると聞いている。てことは、二年以上のキャリアなわけで、薫の「長い」を一年程度だと思ったとしたら、ひょっとすると、自分の方が年上の先輩だと思っていたりして……。
「いやあ、それは無いと思うよ。だって、五つだよ。私、斉藤さんより五つも年上なんだよ。普通、有り得ないんじゃ……」
少し大きめの声で薫がそう答えた所で、当の美月が戻って来てしまった。
「お客さんがいないからといって、大きな声でおしゃべりするのは、あまり関心しませんよ」
怒られてしまった。
と言っても、彼女は静かに言っただけで、すぐに商品の品出しと賞味期限の確認を始めている。その様子からすると、薫が話した内容を聞いていたとは到底、思えなかった。
ちらっと愛衣の方を見ると、「ほら、私が言った通りでしょう」とでも言わんばかりのドヤ顔だ。
何となく気まずくなってしまった薫は、自分も商品の整理を始めたのだった。
★★★
その後、午後五時が近付くにつれて、お客さんの数は増えて行った。そして、五時を過ぎてしばらくすると、一気に店内が混雑し始めた。
五時前は近くのお屋敷街の主婦と部活帰りの高校生が半々だったが、五時を過ぎると、そこに仕事帰りの人達が加わることになる。学生も近場の高校だけじゃなく、名鉄で通っているような高校の生徒だとか大学生が増えて行く。
外がまだ暑いので、単に涼みに来ただけの人も多く、混雑に拍車をかけている。
人が多いからか、店内が汗臭い。それに男性よりも女性の方が多いせいで、お化粧や香水の匂いに加え、汗止めや日焼け止めの匂いが充満して息苦しく感じてしまう。
混雑は午後六時になっても続いていたが、人の数に比べてレジの混雑はそれほどでもなかったので、薫は店の外に出て、外回りの仕事を始めることにした。
散乱したゴミを片付け始めた薫が額の汗を拭うと、見慣れた黄緑色の看板が目に飛び込んで来た。
実を言うと、このコンビニの外観について薫は、あまり良く思ってはいなかった。
もちろん、長く働いたことでの愛着はある。だけど、格子戸のある古い日本家屋の一角には、全くもってそぐわない。伝統的な趣のある家並を見事にぶち壊してしまっているからだ。
つまり、黄緑色を基調としたEマートの店舗は周囲から浮いていて、明らかに悪目立ちしてしまっている。
薫は前に一度、外観を変えられないかをこの店の日比野店長に尋ねてみたことがある。
「うん。僕も、そう思うよ。僕だって、ここで生まれ育ったんだし、この辺りの落ち着いた街並みには愛着もある。けどね、フランチャイズの契約で定められている以上、どうしようもないんだ」
店長は薫のぶしつけな質問に、実に申し訳なさそうに答えてくれた。チェーン店側としては街の警官を保つことよりも、お客さんを呼び込む為に目立つことの方が大事らしい。だから薫も、「仕方ないですね」と言って頷くしかない。なにせ薫は、働かせてもらっている立場なのだから。
ただ薫は、それでも毎日こうして店の外に出ては、駐車場をせっせと箒で掃いたり、ゴミ箱を片付けたりする度に、ここの上品な街の人達に少しだけ申し訳ない気分になってしまうのだった。
さて、そろそろ中に入ろうかな。
夕方とはいえ、やはり暑い。これ以上いると、身体中が汗だらけになってしまいそうだったので、薫は中に入ることにした。
箒と塵取りを裏の物置に片付けて、入口へと向かい始めた時だった。薫の目の前に、一台の黄色いワゴンタイプのタクシーが停まった。
この黄色もまた、この街には合わない色だ。明る過ぎる。事故を避ける意味では明るい色の方が良いんだろうけど、これって自動運転の車だろうから関係ないんじゃないかな。それとも自動運転のプログラミングに自信が無いから、歩行者の方が自主的に避けてくれるようにって、こういう目立つ色にしてるんだろうか。
そんな意味もないことを薫がぼんやりと考えていると、その車から降りて来ようとする人の足がちらっと見えた。グレーのスラックスは、たぶん男の人のものだ。
そう思った次の瞬間、薄茶のジャケットと白いワイシャツが目に飛び込んできた。
恐らく、若い男の人だろう。一見ラフな格好に見えるけど、間違いない。あれは、ブランド物の逸品揃いだ。だいたい、あんな大きなタクシーを一人で使うだなんて、どんだけ贅沢な奴なんだ。
ついそんな風に思ってしまった薫の方に、何故かその男性が歩いて来る。薫が『あれっ?』と思った瞬間、彼は薫のすぐ前を素通りして、店内に入って行ってしまった。
あ、急がなきゃ。
数秒の間、その場で固まっていた薫は、慌てて彼を追い掛けて行ったのだった。
たくさんの作品の中から、読みに来て頂いてどうもありがとうございます。
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