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ハロウィン・キャッツ2  作者: しんた☆
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第1話 副業開始

中年ビジネスマン高井忠信は、海外出張中に小さな死神にネコの姿に変えられてしまった。

リモートワークしながら、友人のサムと探偵業をスタート。

姿はアメショ、頭脳は中年男の、高井改めグレンが事件に挑む。

ハロウィン キャッツ 2


 俺の名前は高井忠信。本来は人間だ。二年前のハロウィンの夜、出張先のコンドミニアムで小さな死神と出会い、ネコの姿に変えられてしまった。


 最初のうちは、驚きと戸惑いに満ちた日々を送っていた俺も、今ではすっかりネコとしての生活が板についてきた。幸運なことに、人間としての仕事も続けられている。それは、ネコの姿になってまだ間もない頃の会社乗っ取り未遂事件を、俺と飼い主になってくれているサムが解決したことが発端で、社長のマージーに、ネコのグレンが高井忠信本人だと見抜かれたことで成立している。


 サムは、本来は俺やマージーが勤務する会社の警備を担当する外注スタッフなのだが、半年ぐらい前から探偵業を副業にするようになった。もちろん、俺がその一翼を担うことを計算に入れているようだ。まったく…。

マージーも、時々は仕事を取り次いで来てくれたりする。感謝しろよ、サム。



 社内で開発された新商品の発売が開始されて一段落したある日、マージーから探偵業の依頼を受けた。彼女のプライベートな親友、マリアの夫の様子がおかしいというのだ。

 マリアは学生時代からの恋愛を成就させて結婚。幸せな家庭を大切にしながら仕事をしている女性だとかで、独身のマージーは、マリアのことを女性としての幸せを実像にしたような女性と羨んでいたほどだ。

 その夫が、最近落ち着かないという。サムはさっそくオフィスにマリアを招き、その詳細を聞き出すことにした。


 穏やかな色味のワンピースに身を包み、不安げにオフィスのドアをくぐったマリアは、サムの勧めるまま、応接室に入ってきた。そして、ソファに座るなり、溜め込んでいた不安を吐き出すように話し始めた。


「実直でおだやかなロイドは、最高のパートナーなの。お互いを干渉しすぎず、高めあい、尊敬し合っていると胸を張って言えるわ。だけど、最近彼はすっかり変わってしまって…。何をするにも上の空で、スマホをずっと気にしているの。」

 

 他にマリアが気づいたことといえば、ロイドにはめずらしく車のボディーをどこかで少しこすっていたということと、見慣れないスカーフをクローゼットに仕舞い込んでいることぐらいだった。


 サムはすっかり浮気だと決め込んで、俺に向かって肩を上げてみせていたが、俺はどうも釈然としない。とりあえず数日間張り込んで、ロイドの様子を伺うことになった。


「グレン。マリアさんには悪いが、これは浮気だな。お前たちネコの世界にもそういう問題はあるのか?」


 冗談じゃない。俺は元々人間だったんだ。そんなネコの世界なんて知りたくも無い。しかしサムは、マリアが帰ってしまったのをいいことに、いやらしい視線を送ってきて俺をげんなりさせた。


「実直なロイドが浮気するだろうか? それより車の傷が気にならないか?」


 俺が肉球でキーボードを叩き終わる前に、サムは軽く笑い飛ばした。


「そこからなにか大きな事件が起こってるとでもいうのか? そんなドラマみたいなことがそう度々起こるわけがないよ。浮気だよ。見慣れないスカーフが決定的な証拠さ。マリアさんは今まで夫婦仲がよかったから、この事実を受け入れられないんだよ」


 大きな手のひらで俺の頭をがしがしっと撫でると、サムは笑いながら言い放った。


「いや、ここは慎重に行こう」


 俺がそうパソコンに打ち出しても、もうそこにサムの姿はなかった。う~ん、こういうとき、言葉がしゃべれないというのは不便だ。


 俺はすぐさま電源を切って、自分のコーナーにある携帯用のリュックを運び出した。これはサムが特別に注文して作らせた俺専用の小型ノートパソコンの携帯リュックだ。背中に乗せてベルトの輪をくぐれば、後は紐を引いて体に密着させるようになっている。階下でサムの声がした。急がなくては。


 サムの車が到着したのは、ランチタイムでにぎわうビジネス街のレストランの駐車場。ロイドはいつもこのレストランで昼食を摂っている。

 車の中で待機していると、うまい具合にロイドが仕事仲間となにやら話し合いながらやってきた。いよいよかと思っていると、急に隣に駐車していた漆黒の高級車が動き出した。


「ん? ロイドのすぐそばに停まった、車に乗るのか?」


 サムが驚いている間に、ロイドは黒い車に乗ると、どこかに行ってしまった。さっきまでの熱心なディスカッションとは明らかに違う、苦しげな表情を浮かべて。それでも抵抗することなくすんなりと車に乗り込んだロイド。どこに向かったのだろう。

 俺はすぐさまサムに尾行するよう促した。


 車はビジネス街の環状線をぐるぐると何周も回る。サムは相手に気づかれないよう、少し離れてトラックの陰に隠れたりしながら、まっすぐ前を向いて運転した。脇道のないところでは、わざと追い越したりしたが、交通量が多くて車内は簡単に見られない。2車線離れたところから、運転する男のあごにケロイド状の傷跡が見えた。ハンドルを握る手は節くれだっていて、高級車を運転するには何とも不自然に感じる。もう少し、姿が見たい。俺は、周りの状況をパソコンに入力して、その都度サムに伝えた。だが、それ以上の収穫はなかった。

漆黒の車は、1時前になってロイドが勤務する会社の前に停車した。当然ロイドはそこで車を降り、無表情はままビルの中に入っていった。車はなぜかまた、レストランに戻っていくのが見える。


 サムはちらっと俺に目配せすると、レストランの駐車場に入っていった。もちろん俺はネコなのでレストランには基本的に入ることはできない。サムの上着のうちポケットに納まり様子を伺うことにした。


「さっきの車の奴、どこに行った?」

「運転手の顔は見えなかったなぁ」


サムは悔しそうに顔をしかめた。窓ガラスはしっかり黒塗り状態で、サムにも車内が見えなかったらしい。幸い店内には、さっきロイドと一緒に会社を出てきた連中が、まだ食後のコーヒーを飲みながらあれこれと書類を見比べている。その隣の席に座り込んで、サムはコーヒーを注文し、おもむろに俺の背中からノートパソコンを引っ張り出した。


「じゃあ、私が先に会場に行って商品を受け取る準備をしておくから、エリックとトニーが展示用のサンプルを運んできてよ。ロイドが当日展示会場にいけないんなら、それしか方法はないじゃない?」


 長い髪をキリッと1つにまとめた、理知的な顔立ちの女性がそう言った。連れの男たちは、それぞれ納得した様子で頷いている。


「でも、どうしてロイドは急に来られなくなったんだろう。今度の展示会に参加しようって言い出したのはあいつなのに」

「エリック、そんな風に悪く言わないであげてよ。なんだか困った事情が起きたみたいよ。さっき声をかけた人たちも、言葉遣いこそ丁寧だったけど、なんだか危険な感じの人たちだったじゃない?」


 横で聞いていたトニーも会話に加わった。


「そうだね。さっきの車、かなり怪しかった。あ、怪しいと言えば、僕、このまえちょっと小耳に挟んだんだけど、今度の展示会、インナー部門の連中も参加するらしいよ。評判のいい部門には、新しいブランドを立ち上げさせるって話。やつらも狙ってるみたいなんだ。」


 その話にエリックは身を乗り出した。


「おい、ちょっと待ってよ。インナー部門っていえばキールが仕切ってる部門じゃないか。あいつが絡んでるってことは、正々堂々ってことはありえないんじゃないのか?さっきの車のこともあるし、ロイドは大丈夫なんだろうか」


 三人はしばらく押し黙っていたが、ふいにトニーが立ち上がった。


「考え込んでても仕方がないよ。ロイドが会場にいなくても、あいつの作品の方向性は僕らが一番知っているんだし、しっかりとそれを補ってやればいいじゃないか。サラ、君も一人だけで会場に入るのは危険かもしれないよ。大変だけど、三人で荷物を運んで一緒にディスプレイしよう」

「そうね。考えてみればロイドが出て来られなくても、私たちにだってできるわ。充分気をつけてがんばりましょう」


 三人はそのまま書類を抱えて会社に帰っていった。サムは彼らを見送ったあと、席を立ち車に戻った。


「なあ、どう思う? 随分うさんくさい話になっているようだなぁ」


 浮気現場を押さえようとひそかに楽しみにしていたサムは、少なからず戸惑っていた。


「だから言っただろ。サム、早くここを出よう。なんだかいやな感じがするんだ」


 俺はサムを急かして車を出してもらった。どこからかいやな視線を感じていたのだ。車がレストランの駐車場を出る瞬間、レストランの角の席から出窓に身を乗り出してこちらをみつめている少女と目が合った。まっすぐなブロンズを胸の当たりまでたらし愛らしい清楚なワンピースに身を包んだその少女は明らかにこの車を見つめている。いや、俺を見ていた、氷のような冷たい視線で。


 サムの家に帰る前に、ロイドの車の状態を確認しに行った。きれいなロイヤルブルーの車の側面、低い位置にかすかなへこみがあった。ひき逃げでもやったのかと思っていたのだが、それは違うようだ。このへこみ方なら、駐車中になにかがぶつかったぐらいだろう。


 サムの家に着くと、クレアがあたたかいミルクを差し出してくれた。


「おかえりなさい。グレン。 温かいミルクをどうぞ。あら、なんだか浮かない顔ねぇ。どうかしたの?」


 クレアはそっと俺の頭をなでながら言った。まったくクレアの勘のよさには頭がさがる。


サムの部屋に戻って犯罪者リストを検索した。サムが警備関係の仕事をしているお陰で警察からの情報提供が受けられたのだ。

黙々とチェックしていると、あごに傷跡のある男をみつけた。節くれだった指先も全身写真で確認できる。ショーン・シモン、当たり屋のコーディネイターだ。

そうか、やっぱり車がらみだったか。



グレンとサム、なかなかいいコンビになりそう♪

このお話、ずいぶん前に書いたので、スマホが出てきません。汗

時代の流れを感じてしまいます。

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