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ラスタル編

私の名前はリンジー=ガートルード。


お兄様であるベズレック=ガートルードが壁に用事があると言って出掛けた時だった。壁とは大陸を隔てる壁のことで名前はラクトスの壁と呼ばれている。お兄様は修行する時はいつもそこへ行っている。私は屋敷から出ることがほとんど無いためいつも退屈だ。今日は特別一緒に連れていってもらえるのだからワクワクである。私も一緒に壁の中の洞窟を探検するんだ。手を繋いで壁へと向かった。だが、そこでアクシデントが発生した。洞窟内にオリジナルがいたのだった。


お兄様は倒され、私は連れ去られてしまった。


だから、長男であるベズレックは領主の座を諦め、次男に譲ったのだった。

ここはラスタルと呼ばれる土地らしい。上手く力が入らない。ラスタルの天界と呼ばれる場所に案内された私はこれから天界兵として働くのだと説明される。天界兵として訓練を日々積まされた。だが、不器用で何をやってもヘタッピで怒られてばかりだった。そんな中、素質があると言われ、天界長と呼ばれる人物の直属の部下となることに決まった。誰よりも劣っている私にどんな素質があるのだろう、と少し期待しながら新たなる部署へと向かった。

「おい、早く飯持ってこい!」「ここまだ汚れてるだろうが!」「お前遅いから飯抜きだ」「邪魔だ、どけ」「イライラする、視界に入るな」

地獄だった。どうやら私は皆のストレスをぶつける道具としてここへ連れてこられたようだ。この部署では3つの軍があり、皆それぞれに所属している。だけど、私はどの部署にも所属していない。

「お前は1人で第4軍だ、ハハハ」

と言われ、皆から軍への入隊を拒まれたのだった。1人雑用をする毎日。


そんな中、新たに1人こちらの部署へとやってきた。彼女の名はイレイン=ザンドエナ。初見はすごく怖い人って感じの風貌で現に皆からも自分の軍へと勧誘が凄かった。私には関係が無い、皆の集まるところには来てはいけないと言われているからだ。黙々と掃除する、そんな日々が日常であり、人とお話することさえ許してもらえない。きっと強そうだったから第1軍へ入るんじゃないかな、などと思いながら雑用をこなしていく。今日こそはちゃんと終わらせないといけない。もう2週間も食事を取っていない。意識を保つにも一苦労だった。ご飯の時間までに終わらせなければ勝手に片付けられてしまう。気合を入れて終わらせた。食事の席は私だけ別。木箱の特等席だと言われて部屋の隅に置かれていた。席に着く前に食事を取りに行く。

「え?お前飯食うの?今日も食わないのかと思ってもう飲んじまったぞ」

その言葉にはさすがに怒りが抑えられなかったようで顔に出ていた。

「ウザいな、視界から消えろ」

ドーン。蹴り飛ばされ勢いよく壁にぶつかった。泣きそうになったのだが、更に暴力を振るわれそうだったので急いで自室へと逃げ込んだ。

「クソ、クソ、クソ――うぅぅ…」

部屋の隅で小さくなり泣いていた。悔しくても何もできない。弱いから、しょうがないことなんだ、と出口のない未来に脳内で八つ当たりするしかなかった。

「もう泣き止んで下さい、リンジー様」

背後から聞こえた声に驚きビクッと振り返る。そこには新人であるイレイン=ザンドエナがいたのだった。リンジー様?この人は何を言っているんだ?頭の中で疑問符が増え続ける。呆けた顔でずっと見ていたからか、イレインは少しため息を吐き、

「我の分で良ければ飲まれて下さい」

と血の入った小瓶を渡される。手に取った小瓶を握りしめた途端、目からは更に大粒の涙が溢れてきた。止まらない、止め方が分からない。涙の訳。人の温もりがこんなにも愛おしかったんだ。1人じゃなく誰かと仲良くしたかったんだ。その想いが今全部涙として溢れているんだ。そう理解すると、止めようと頑張ることをすぐにやめることができた。強面の外見からは想像しがたいが優しく抱きしめてくれてより一層涙が止まらなくなりもう流れに任せようと理性を手放した。

それから次の日、何故か分からないが私の隣にイレインがいる。一生懸命掃除している私の隣で、見様見真似ではあるがイレインも一生懸命掃除している。

「え?えーっと…、イレインさんは雑用じゃないから掃除しなくていいですよ」

困った顔をする私の様子を見て少しはにかんでいる。

「我は第4軍に入隊します。ですから、我も掃除とやらにお供させて下さい」

「え?えーーーっ…。思い留まってください。第4軍なんてありませんから」

とても心臓に悪いからそんな冗談はやめて欲しい。ぎこちない笑顔を向けてくるイレインだった。

「リンジー様、早く仕事を覚えますので、どうか一緒にいさせてください」

え?え?え?とテンパって頭の中がグルグルと回っている。というか、まず最初に訂正しないといけないことがある。

「リンジー様っていうのは、ちょっと恥ずかしいので止めてもらえませんか?」

その言葉にイレインは驚きの表情を浮かべる。え?そこまで驚くことではないでしょ…。

「モンタベスト領主の娘であられるリンジー様を様付けで呼ぶのは当然のことかと。それに我も出身はモンタベストですから」

驚いた、イレインの驚いた顔に対面するように私も驚いた顔をしてしまった。

「そうなんですね。では様付けは我慢します。その代わりと言っては何ですがその話は言いふらさないで下さいね」

「分かりました」

イレインがモンタベスト出身だったという話を聞いて、あの日連れ去られた時、お兄様はどうなったのだろうということがふと頭をよぎった。イレインにその話をすると、お兄様は生きているということだった。少しホッとした。そして、イレインが掃除を大分マスターしてきた頃だった。軍の出動命令が出たのだった。第1軍が先頭を行く。第4軍は最後方だった。この行列はただのお飾りであり何の命令も受けていない。

「リンジー様、この世界の神であるバーレンが討ち取られました。バクラがその後釜に座りこの世界を統治するそうです。反乱軍は非道な扱いを受ける悪魔を自由にしてあげたいというものです。リンジー様はどのようにしたいとお考えですか?」

目が点になる。どのようにしたいと言われましても…。そんな力私にはない。呆然とイレインを見ていると、

「我はリンジー様の部下です。あなたの望みが我の全てです」

真っ直ぐ見られている。他者との不和をもたらすようなことはしたくない。だけど、イレインの目はそんなことを聞きたい目ではない。私の本当の想いを聞いているのだとなんとなくだが分かった。

「私は反乱軍を羨ましいと思いました。助けてあげたいと思いました。でも…、イレインに傷ついて欲しくはありません」

私の想いが伝わったのか、イレインはニッコリと笑ってくれた。

「御心のままに。我は5段階。こんな世界の理なんて蹴散らしてみせましょう」

そう言って大きく息を吸い込んだ。

「上官の命令は絶対。これより殲滅を開始いたします」

そう最後方から大声で叫んだのだった。

この世界でのレベルは元の10分の1。そして10万を越える場合は切り捨てで上限である10万となる。レベルはほぼ同じ。だが、それだけでは我には勝てない。

【神力】イレインは肉体強化魔法を唱える。そして、リンジーの願いを阻む全てを蹴散らしたのだった。あっけないと言えばそれまでだが、何より驚いたのは、こんなに強かったの…イレイン…――だった。その気持ち分かるよ、うんうん。遠くで唖然としている反乱軍の人達を見て同じ気持ちをシェアしているんだろうな、と思うリンジーだった。


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