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健太郎

作者: たかかず

妻の携帯に長女のキッズ携帯から電話がかかってきた。


「え?うちに帰ってきてないかってどういうこと?帰ってきてないけど…靴が無い?うん、うん、わかった。見つかったら電話ちょうだい」

「どうしたの?」

「健太郎がじいじの家からいなくなったって」

「どうしてそんなことに…ちょっと探しに行ってくる」


じいじの家からうちまでは約2キロ。5歳の健太郎が徒歩で帰ってこれるかどうか微妙な距離だ。

今日は健太郎の二人の姉と朝からじいじの家に遊びに行っていた。今は16時過ぎ。見つからなかったら…想像したくない。


自動車と自転車、どちらで探しに行くか迷ったが、小回りが利く自転車で行くことにした。見つけたら後ろに乗せられる自転車だ。きっと大丈夫だ。


考えられるルートは3つあるが、最も可能性が高いのは幼稚園を経由するルートだ。いつも車でそのルートからじいじの家に向かうし、幼稚園からはよく徒歩で帰ってきているから途中からは道が分かる。


幼稚園ルートを通ってじいじの家に向かう。


いない。


じいじの家まであと100mといったところで、向こうから女の子が走ってくる。次女の凛。小学校5年生。時々男の子と間違えられる中性的な美少女で評判の娘だ。額に汗を流しながら私に気づく様子もない。


「凛!」


はっと凛がこちらに気づく。


「自転車で探した方が早いと思って!家に取りに行く!」


私の自転車に乗せて連れていこうと思ったがさすがに幼児用の椅子には乗らない。


「無理無理!大丈夫!」


元気に家に向かって駆け出していった。


――――その少し前


「あ、わかめ公園」


健太郎は幼稚園を経由するルートとは別のルート。小学校を経由するルートを家に向かって歩いていた。

こっちで合ってるのかな。このまま夜になったらどうしよう。

わかめ公園からどうやって帰るんだっけ。いつもはお姉ちゃんたちがいるからな。


しばらく歩くと三叉路に突き当たった。

右か左か、わからない。


こっちかな…


左に向かおうとすると背後から声が聞こえる。


「健太郎」

「ばあば!」

「こっちだよ」


右に向かい、しばらくばあばと一緒に歩く。


「なんで一人で帰ろうとしたんだい」

「だって。みんな優しくなかったんだもん。あ、でも意地悪されたわけじゃないからね。懲らしめたりしないでね」

「ふふ、そんなことしないよ」

「あ、公民館!ここからはわかる!ばあばありがとう!またね!」


―――――


妻から電話がかかってきた。


「家に帰ってきた!リュックも水筒もちゃんと持って。誰も優しい人がいなかったからって言ってるわ」


軽トラで探し回っているじいじや家にダッシュで向かっている凛には自転車で追いつき見つかったことを伝え、じいじの家で探している長女の幸には妻からキッズ携帯に電話で知らせた。


家に帰って話を聴いたところ、長女とケンカになり、次女に八つ当たりしたら次女からも怒られ、じいじも味方になってくれず、帰ることにしたとのことだった。


危ないから二度とやらないと約束させ、夕食をとってから二人の娘を迎えに行った。


「お前のところの子供はどうなっとるんだ!躾がなっとらん!」


予想はできたがじいじは大激怒だ。昔から自分が不安にさせられたり不快な気持ちにさせられると周りにあたり散らかすのは変わっていない。

健太郎のことを「軟弱な息子に育てられた軟弱な孫」と舐めていたのだろう。「鍛えてやろう」とでも思ったんじゃないか。まさか自力で家に帰ろうとするなどと思いもよらなかったから招いた事態だ。


「そうかな」


いつもは聞き流すところだが。


「健太郎は自分の荷物をしっかり持ってここを出ていってる。これは感情に任せて衝動的に無茶をしたわけじゃないってことだ。現状を打開するために、自分の力を信じて、リスクを負ってこの家を一歩踏み出した。俺の息子にしては随分立派に育ってると思うよ」


ばあばが亡くなってもうすぐ2年。健太郎はよく「ばあばが助けてくれた」と言っているから、今回もきっと助けてくれたに違いない、いつもありがとう。そんなことを考えながらじいじの家を後にした。

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