恐怖のメリーさん
2023年。夏が暑すぎるので、特別編です。メリーさんで涼んで下さい(えっ? 無理?)
ピロンッ!
私のラインにメッセージが入った。
メリー(恋愛成就の神)【私メリー。今とても暑いの】
メリー(恋愛成就の神)【私メリー。こういう時こそ恐怖が必要だと思うの】
メリー(恋愛成就の神)【私メリー。いいかげん、私は人を恐怖に陥れる、妖怪であると認識されたいの】
ある時から(恋愛成就の神)の文字が消えなくなったメリーさんは相当気にしていた。私からしたらメリーさんはメリーさんなのだけれど、本人は気になって仕方がない様子だ。まあこうなってしまったのは、私の彼氏である柳田零君の所為だ。そして恋愛という言葉が入っている限り、間接的に私の所為でもある。だとしたら、私も彼女が怖がられるように何か案を出すべきだろうか。
「メリーさんは電子機器が使える最先端妖怪なのだから、逆にそれを利用して、もっと多くの人の恐怖を集めたらどうかな……」
メリーさんと言えば電話というイメージが強いけれど、最近は電話を置かない世帯も増え、私の知ってるメリーさんはラインを現女子高生である私よりも使いこなす。
ピロン。ピロン。ピロン。
メリー(恋愛成就の神)【ライン以外?】
メリー(恋愛成就の神)【どんなものがあるの?】
メリー(恋愛成就の神)【天野にとって怖いものは何?】
通知音が鳴りやまない。
さらに私の独り言に対して、怒涛の返答が返ってくる。その事実にひゅっと私は息を飲んだ。
「……メリーさん、今、どこにいるの?」
ピロン。
通知音が一回鳴って止まり、沈黙が落ちる。
外からセミの鳴き声だけが聞こえる静かな空間が怖い。私はごくりと息を飲み、携帯を見た。
メリー(恋愛成就の神)【今、貴方の後ろにいるの】
その言葉を見て、私は目を閉じた。
クーラーが入った部屋なのに、じんわり嫌な汗が出る。でもこのままにはしていられない。メリーさんは期待しているのだ。大丈夫。いるのはいつものメリーさんのはず。
そろりと後ろを振り向いた瞬間、私は叫んだ。
「ひょああああああっ!め、メリーさん⁈」
ごろんと転がるメリーさんの生首。
私は想定外の状況に半泣きだ。これはメリーさんだと分かっていても、怖いものは怖い。生首は怖すぎて触るのも遠慮したいぐらいだ。
ピロン。
メリー(恋愛成就の神)【いつもながら新鮮な恐怖をありがとう】
メリー(恋愛成就の神)【私の首、実は膠でくっついているのだけど、柳田に丸洗いされてとれたの】
メリー(恋愛成就の神)【犯人は、柳田零】
ダイイングメッセージのように零君の名前が送られてくる。そのことに苦笑いだ。零君は善意でよくメリーさんを怒らせる。今回は一体どうして丸洗いしようと思ってしまったのだろう。
零君にお風呂で人形遊びする趣味があるとは思えない。
「一体どうして零君はメリーさんを洗おうとしたの?」
メリー(恋愛成就の神)【柳田はあろうことか輪ゴムを私にくっつけたまま高温の部屋に放置したの】
メリー(恋愛成就の神)【そして輪ゴムが溶けて髪の毛にくっついていることに気が付いたの。その時輪ゴムをとるために切るなと伝えたら、丸洗いされたのよ】
メリー(恋愛成就の神)【セクハラよ!】
服を脱がされ洗われたのだからセクハラ……だろうか?
種が違いすぎるので難しい問題だ。零君に人形で興奮する趣味はないと思いたい。
だけどメリーさんとしてはショックだったのだろう。
「零君がごめんね」
メリー(恋愛成就の神)【まあでも、天野の恐怖をもらえたから今回は許すわ】
メリー(恋愛成就の神)【首がとれると、ただ後ろにいるだけよりも人は怖いのね】
メリー(恋愛成就の神)【覚えておくわ】
確かに怖い。
でも柳田君にその手を使うと、悪気なくメリーさんの生首を蹴ったり踏んだりしそうなんだよね。私はメリーさんを傷つけないよう黙っておく。もしかしたらワンチャン驚いてくれる可能性もあるかもしれない。
うん。やる前から諦めるのは違うよね。
メリー(恋愛成就の神)【それより柳田以外からの恐怖集めよ】
メリー(恋愛成就の神)【ライン以外って何?】
「えっと。今はSNSで、不特定多数に言葉や写真を送ることができるの。SNSは色々あるけれど、ピヨピヨと短い言葉を送るピヨッターとかおすすめかな。写真とかも送れるし」
ただ、メリーさんは一対一で恐怖を生み出す系の妖怪だ。
不特定多数が見るとなると、それは別のものになりそうな気もする。呪いのビデオ的な? ふと井戸から出てくる系を思い出し、私は首を振る。怖いものを思い出したらいけない。それにメリーさんの場合井戸に入ったら、また膠がとれて首がもげてしまうかもしれない。
メリー(恋愛成就の神)【なるほどね】
メリー(恋愛成就の神)【ふむふむ。炎上というものがあるのね】
メリー(恋愛成就の神)【なるほど、社会的に殺す恐怖を味合わせるという方法もあるのね】
どうやらメリーさんはSNSを見ながら現代知識を吸収しているようだ。まるでAI……。いや。メリーさん、一応肉体として市松人形があるし。AIの学習とは違うはずだ。
それにしても社会的に殺す恐怖って、何を学習してしまっているのか。私はとんでもないものを教えてしまったかもしれない。
不安に思いつつも、SNSに興味深々なメリーさんを止めることができなかった。
その後私は、ピヨッターに恐怖のメリーさんが現れるという風の噂を聞いた。
メリーさんは誰かの後ろに立って写真を撮り、ピヨピヨつぶやくのだ。
メリー『私、メリー。今炎天下の車の中に残された少女の後ろにいるの(現在地の地図と店に一人入っていく母親の後ろ姿の写真付き)』
メリー『私、メリー。今、子供だけで川遊びをしている男の子の後ろにいるの(現在地の地図と川に流されるメリーさんの生首写真付き)』
メリー『私、メリー。今、親に一人取り残された、三歳児の男の子の後ろにいるの(現在地の地図と痣が見られる男の子の写真付き)』
メリーさんの恐怖のつぶやきは毎回炎上。
実際にどうなんだと特定班は動き出し、そして助かる命と、社会的に死ぬ命があったとか。
しかししばらくすると、炎上したはずのメリーさんの恐怖のつぶやきは消えてしまう。スクショも何故か真っ黒に。その所為で今日もピヨピヨと皆が騒ぎ出す。
私は犯人が分かったけれど、賢くSNSは使わず、触れないという選択をした。きっと真実を言っても誰も信じてくれないし、下手をしたら私が炎上してしまう。
だからこれでメリーさんがいい感じに恐怖を集められたかは、神のみぞ知るだ。




