天野さんの家庭事情
学校鞄の中から突然市松人形がこんにちはは、流石にキツイ。盛大に叫んだ私は、気がつけば家まで帰っていた。
「悪いことしちゃったなぁ」
相談にのってる最中で帰ってしまったのは流石に申し訳なく感じる。明日、ちゃんと謝ろう。
「でも心の準備はしたかったなぁ」
過去にあれを見て叫ばなかった柳田君は流石だ。男らしい。
「にゃー」
「あっ、シロ。ただいま」
家の玄関には、我が家の忠犬ならぬ忠猫のシロがいた。小学生の頃から飼っているため、そこそこいい年齢の子だ。でも年齢を感じさせない動きをしてるので、もしかしたらそのうち尻尾が二股に別れるかもしれない。
そうしたら、もっと長く一緒にいられるから、大歓迎なんだけど。
この子は、私の大切な家族であり親友だから。
私は出迎えてくれた、シロと家の中に入る。
「ただいま」
「おかえり」
今日はお母さんも家にいるみたいだ。お母さんは最近家を空ける事が多い。まあ、それも仕方がない。私だって高校生だ。
「お母さん、またスマホ見てるの?」
私の少し咎めるような言葉に返事はない。最近、ずっとこうだ。普通なら、娘の方が反抗期だというのに、お母さんの方が反抗期みたい。そしてよくスマホを見ている。
仕方がない。お母さんも疲れてるんだろう。たまに泣いている姿も見る。そっとしておいてあげよう。
私はシロと一緒に自分の部屋に入る。
「シロ、聞いて。私ね、とうとう柳田君と話しちゃったんだよ」
「にゃー」
シロには昔からこうやってよく話しかけていた。どうしても人付き合いが苦手な私は、嫌なことも楽しかった事もずっとシロに話してきたのだ。親にも言えないこともシロには話している。
「柳田君の声って本当にかっこいいんだ。それからね、なんと柳田君ってば、メリーさん飼い始めちゃたんだって。びっくりするよね。しかもメリーさん、体は市松人形なんだよ」
初めは冗談かとも思ったけれど、本当みたいなんだよね。鞄に市松人形が入ってるし、メリーさんからはラインが届くし。不思議なこともあるもんだ。
「柳田君って、思ったよりマイペースで、メリーさんを振り回してたんだ。おかしいでしょ」
「にゃー」
私がクスクス笑うと、シロが鳴いた。
まるでシロも笑っているみたいだ。私はベッドにごろんと転がる。
「ねえ、シロ。私、メリーさんとも仲良くなれるのかな? 今日は叫んで逃げて来ちゃったから難しいかな。でもメリーさんと仲良くなれたら、柳田君とも友達になれるかなぁ……なれたらいいなぁ」
私は友達がいない。中学はそれなりにいたけれど、高校になってからはさっぱりだ。話しかけても、無視をされてしまうこともある。
お母さんには言えない。
高校デビューに失敗するとこうなるいい例のようだ。入学式を休んでしまったのが原因だろう。あれは痛かったなぁ。
「シロはずっと一緒にいてね……」
色々あって今日は疲れた。眠たくなってきた私は、そのまましばらくまどろんだ。