花子さんと5
「じゃあ後でラインを送りますね」
『うん。よろしく』
どうやら花子さんもメリフォンを持っているということなので、後でラインをやる約束をした私は、トイレを出ると小走りで屋上へと向かった。
花子さんとも会話できて、何だかスッキリした気がする。流石は、トイレの花子さんだ。
「莉緒、大丈夫だったか?」
屋上のドアを開ければ、真っ先に零君が駆け寄って来た。心配性だなと思うけれど、ついこの間の事があるから、女子トイレという場所は零君にとって、トラウマになっているのかもしれない。……花子さんと友達になったと言ったら驚くかな? それとも、嫌がられるかな?
分からないけれど、近いうちには、ちゃんと話そうと思う。こういうのは下手に誤魔化すのは色々こじれる原因になりそうだ。
「大丈夫だよ」
「柳田って、本当に莉緒っちの事大好きだよね」
「当たり前だ。俺は、莉緒を世界一愛する男なんだからな」
「……あー。ムカつく。なんかムカつく」
からかうつもりだったのに、惚気られた為に、陽菜はやってられないとケッとなっていた。
「おーい。ほら。月を綺麗に見えるようにしたから、じゃれてないで観察しろよ」
かなり立派な望遠鏡の隣で、先輩が私達を呼んだ。……この望遠鏡、もしかして自前? 備品にしては、かなりいいものだ。
星好き先輩は、もしかしたら相当星好きなのかもしれない。
「はーい」
「他にも、星座の説明してやるから。いいか。星座はロマンが詰まってる。この話題があれば、彼氏彼女ができるに違いない。なんたって昔の文人は好きを月が綺麗だねと表現したぐらいでだな――」
「えちなみに先輩は?」
「年齢、イコールゼロだ!! 何故なんだ!!」
ミッチーがちゃちゃを入れると、先輩は叫んだ。確かに星の話はロマンチックだし、色々ムードも出そうだけど……行き過ぎて引かれたとかではないかと、チラッと思う。
ここにある望遠鏡はかなりガチだ。
告白云々を前に星の解説を延々としてそうなイメージが……。
「それは、アンタが星が恋人だってやってるからでしょうが。空ばっかり見てないで、地上を見なさいよ月が綺麗だねってガチで月だけを褒め称えてたらそうなるわよ」
「ええっ。ヒメ先輩。俺、そんなに星、星言ってないですよぉ」
「無自覚っていうのが一番厄介だと思うわ」
陽菜のお姉さんが、先輩の隣でため息をつくと先輩はちょっと子供っぽい雰囲気で口を尖らせた。それをお姉さんが、こついている。
……んんん?
ビビビと何だか、恋する乙女レーザが反応している気がする。
「陽菜ちゃん。そういえば、先輩が家族で星を見に行く事も知っているみたいだったけど……」
「私と姉ちゃんは星野先輩の幼馴染みなんだよねー。そして、長年あんな感じ」
どうやら陽菜ちゃんも私と同じように感知しているようだ。どこかあきれた様子で二人を見ている。
「先輩。この用紙に何を書けばいいんですか?」
「ああ、それはだな――」
そして零君は、まったく感じ取っていないようだった。二人だけの会話が始まっているっぽかったのに、堂々とぶち壊した。まあ、ここで二人っきりの会話をされても困るのだけど。
……わざとではないと思うから、これは零君の天然な部分なのだろう。まあそれが零君らしい。
「もしかしてそれでわざわざ学校に?」
今年の部員はほぼ女子だ。ニコちゃんとは知り合いで、陽菜は妹だけど、他は知らないので心配になったのだろう。
「まあ、ジェイソン君ノートの理由も嘘じゃないと思うけどね。いつかジェイソン君ネタで漫画家になるって言ってるし」
「漫画家? 凄いね」
「まーね。今はネットに掲載して、人気が出ると出版社から依頼が来る事もあるみたいだし」
陽菜にとって、お姉さんは自慢の姉なのだろう。少し照れくさそうに笑った。
ギャルっぽい外見だけど、陽菜はいい子だし、仲良くなれて良かった。
「さてと。怒られる前に、私らもやっちゃおうか」
「うん。そうだね」
私は生き返れてよかったなと、改めて思うのだった。




