花子さんと1
リクエストの花子さんの話です。天野さん視点です。
真夜中の学校というのは、特に何もしなくても怖い。
冷房の入っていない、締め切られた廊下はムシッとして暑く、あまり気分がいい場所ではなかった。むしろ、外の方が風もあって涼しいし、普通に天体観測だけでいいのでは? と言いたくなる。
「ニコちゃんは、ホラー平気なんだっけ?」
「うん。特に大丈夫だよ」
「私もー」
……もう、大丈夫な皆さんだけでどうぞ、どうぞと言いたい。言いたいけれど、団体行動は学生の基本。付き合うしかない。
先輩方は屋上で天体観測の準備をしているので、その間に一年生は学校探検に行き、体育館に先輩が置いておいた天体観測の記入用紙を取ってくるという流れが、毎年恒例らしい。
気が付かなかったけれど、もしかしなくてもジェイソン君の下にその用紙があったのだろう。……マジか。
「莉緒の事は俺が守るから」
一度行って、あそこにいるのが誰かも分かっているのにビビっている自分が情けなさ過ぎる。過ぎるけれど、怖いものは怖いのだ。零君が頼もしくてありがたい。
「こらこら。これは、彼氏彼女の仲を深めるものじゃなくて、部員の団結力を深めるものですー。私達も大丈夫だから、莉緒っちは後ろから来てよ」
「本当に、ごめん……」
「いいって。持ちつもたれつ奴だよ。その代りテストの時は、頼りにしてるから!」
「何々? 莉緒ちゃんって頭いいの?」
「柳田より、点数上だって!」
「すごい!!」
申し訳ないと思っていたが、陽菜は特に気にせず、逆に私が気にやまないようにしてくれた。
あまり持ち上げられると、照れるのでほどほどでお願いしたい。……テスト勉強、いつも以上に頑張らないとなぁ。
「ニコちゃんもいるから、本当に心強いわ」
「そういえば、えっと……」
「あっ、私、二十二胡桃って言うの。二つ二が入っているのと、胡桃の胡と二で、楽器の二胡になるから、あだ名で呼ばれていて、ペンネームにも使っているんだよね。だからニコちゃんって呼んでもらえると嬉しいな」
「私は、杉山美智。ミッチーでいいよ。部活はここと、テニス部のかけもち中なんだよね。よろしく」
「私はえっと。天野莉緒です。えっと、入学が遅れて、ちょっと出席日数が今年は危険だから学業優先だけど……その、よろしく」
クラスも違うので、フルネームを知らなかったのでありがたい。ちょっと緊張してどもってしまったが、馬鹿にされるような雰囲気はなく、ほっとする。
「いいよ。私も、学業優先だから。私の家、親が五月蠅くて、塾に行ってるから中々部活に顔出せないんだよね」
「私もテニス部もあるからごめんね。でもこういうイベントは好きだから、声かけてね」
多分ミッチーは陽菜の頼みで掛け持ちしてくれているのだろう。先輩は三年が3人だけで、部活をする人数としてはかなりギリギリだ。
入学が遅れた所為で、友達作りに躓いているので、こうやって話せる相手ができるのは本当に有難い。
「それにしても去年の先輩は一人だったから大変だっただろうな」
「一人?」
他にも先輩がいたのか。
部室にはいつもの先輩と、陽菜のお姉ちゃん、それに先生しかいなかったので、二年はいなものだとばかり思っていた。
「ああ。今日も休みだけど、2年の先輩が一人だけいるよ。なんか去年は女子トイレに設置したらしくて、一人で行かされてものすごい怖かったらしいよ。鏡に人影が映ったて叫んでたって、姉ちゃんが言ってた」
「ちょっと、莉緒ちゃん怖がってるから、最期のネタは余計だと思うよ」
確かに怖いけど、トイレと言われると、一人だけ怪異が思い浮かぶ。ただし人影は、ジェイソン君が設置されていた可能性もあり得るので、なんとも言えない。
「2年の先輩、私も初めて聞いたけど、兼部か何かしてるの?」
「兼部はしてないと思うよ。でもなんか、飛び級しようとしてるから、結構忙しいみたいで、天体観測もパスなんだって」
「えっ。飛び級なんてできるの?」
ここは日本で外国ではない。びっくりして聞くと、陽菜もよく分かってないのか微妙な顔をした。確かに、自分が飛び級したいと思わな限り、調べたりもしないだろう。
「なんか、できる大学があって、先輩はしたいんだってさ。研究が好きみたいで、1年の時はなんか賞も取ったとか聞いたよ」
……なんか、地味に凄いな科学部。
皆それぞれ、好きな事をやりたい人が集まっているようだ。3年の先輩の研究ノートも後で見せてもらおう。思った以上に面白い実験がのってるかもしれない。
「ということは、来年は結局この5人か。ギリギリじゃん」
「本当だよ。莉緒っちと柳田が入ってくれてよかったよ。一応3人でも新1年が入れば廃部にはしないって顧問は言ってたけどさ。2年の先輩の実績に感謝だよ。というわけで、来年はちゃんと部員獲得頑張るよ! 柳田が居れば百人力!」
「客寄せパンダぐらいにはなるけど、莉緒と付き合ってるっていうのは前面に出すからな」
「いいよ。空気が悪くなるようなことだけはしたくないしね」
カラカラと陽菜が笑う。
特定の相手と付き合っているけど、零君がいるからという理由で部活を選ぶ事ってあるだろうか? 個人的には下剋上目指す肉食女子しか思い浮かばないけれどそのタイプは、色々もめ事を起こしそうだ。
うーん。心配は心配だけど、私はあまり勧誘とかには向かないタイプだ。とりあえず二年の先輩みたいに、実績作りの方で協力していく方が性分に合っていそうなので、頑張ろうと思う。
そんな話をしながら体育館へ向かえば、とりあえず必要以上に怖いと思う事もなく、体育館まで行く事ができた。




