体育館の妖精さんと7
「莉緒っち遅いよ。どこ行ってたの?」
部室に入ると既に全員集まっていた。
「すみません遅れてしまって」
「俺が忘れ物取りに行くのについてきて貰ったんだ。すみません」
私が謝れば、零君が自分の責任にして謝った。ううう。零君、優しい。
「大丈夫。まだ、集合時間前だから。ただし異性交遊はほどほどにな」
異性交遊……?!
少し想像しただけで、ぼぼぼぼっと顔が赤くなる。うわぁ。そっか。そんな風に思われたのか。
実際は、いかがわしさゼロの異種交遊だったけれど、それは言えない。
「はーい。すみませんでした」
いや、零君。そこは謝ってはいけない。謝ったら事実のようではないか。
しかし私がどう言ったものかと手をこまねいていると、不思議そうな顔で見返された。ううう。零君は、悪くない。悪いのは、変な妄想をして勝手に慌てている私の方だ。
そんな事を思っていると、少しだけ肩にかけていた鞄が私にぶつかった気がした。……メリーさんかな?
「まあ。高校で付き合った相手と実際結婚している先生もいるぐらいだし、柳田達もそのタイプになるかもしれないけど、変に目をつけられるなよ」
「何々? そんな先生いるの?」
先輩が肩を落しながら話していると、陽菜にちょっと似た感じの女子生徒が食いついた。陽菜のすぐ隣にいることから見ても、彼女がミッチーなのだろう。
ジャージには杉山と書いてある。
「ほら、体育の先生。あの人、ここの卒業生でかつ、奥さんもここの卒業生らしいし」
「マジで?! あのゴリ先生、そんな前からリア充だったの?」
マジで?!
私もびっくりだ。
体育の先生と言えば、今しがた話していた、体育館の妖精さんのオモイビトの可能性が高い人物だ。しかも高校から彼女もちとは……はぁ。マジか。
性別で既に障壁がある上の、住んでいる世界も違うので、想いが遂げられる事はないけれど。……妖精さんの事を思うとどう言っていいか分からない。
「違う違う。高校時代は付き合っていなかったって言ってたぞ。なんか、同級生の葬式で再会して、付き合う事になったんだってさ。それで、去年結婚。今は、子供が奥さんのお腹にいるとか」
……へ、へぇ。
その話、妖精さんは知っているのだろうか。体育館でべらべら喋って……ないと、先輩達が知る事もなさそうだよね。
どんな気持ちで、彼は学校にとどまっているのだろう。そもそも、妖精さんの心残りは何だったのだろうか。
「同級生の葬式が出会いとか、何か不謹慎な感じもするけど、葬式の事は、先生にとってタブーだから、あんまり口にするなよ。なんでもその同級生、先生の親友だったらしくてさ。なんか、自殺なのか過労死なのか分からないような死に方だったらしいし。その所為で先生の方も一時期鬱っぽくて、自殺するんじゃねとか言われてたから。そこを支えたのが奥さんだったらしいよ。俺も聞いた話だからどこまで本当か分からないけど」
……もしかして妖精さん、心配だったのかな。
元気になるまで留まろうとして、今の状態になっているのかもしれない。だとしたら、先生が元気になった今、妖精さんはただゆったりと過ごしているのかも。自分のしたいことをして。
もしそうなら、零君が言った通り、体育の先生が異動になった時、彼は役目も終えるのだろう。
とはいえ、これは私の勝手な妄想だ。
実際には分からないけれど、彼が穏やかに逝けるよう、定期的に連絡しようと私は思った。




