体育館の妖精さんと5
世の中、見えない方がいいこともある——。
「って。あれ? 見えてる? えっ。 ということは、まさか本物の変態?!」
一瞬体育館の妖精さんのお出ましかと思ったけれど、よく考えたら体育館の妖精さんの姿は私には見えないはずだ。
『誰が、本物の変態よ! 私の顔を忘れたの?』
「……ごめん、零君。私、自信ない……」
こんな感じだった気もするし、違った気もするし。色々視界の暴力が凄くて、判別がつかない。
「残念だけど、本物だよ」
「えっと。どっちの?」
零君が真面目な顔で言ってくれたけれど、分かりにくい。どっちの本物?
『だから、体育館の妖精よ!!』
「……少し変わりました?」
どちらかというと、エルフではなく、ダメな方向へ。
『変わってないから。もう。やっぱり生霊の時の記憶って曖昧になるのね』
はははは。もう、そういうことにしておこう。
恐竜ゾンビに追いかけられた時に助けてもらった記憶が強くて、少し美化してしまっていたらしい。
「でも、どうして姿が?」
『それは貴方のお友達の力よ』
……お友達?
チラッと零君を見るけれど、全校集会等で零君と一緒に体育館に足を踏み入れたけれど見えた試しはない。
次の瞬間、ドンッ!! と大きな背後でなり、私はビクビクビクっと肩を揺らした。
そろりと振り返れば、零君が入口に置き去りにした鞄が飛び跳ねながら前進していた。
「ひ、ひぃぃぃぃ!! れ、れれれれ、零君?!」
零君の鞄、生きているんですけど?!
さっきまではふつうの鞄だったはずなのに。それとも鞄っぽい怪異?
「あれ? メリーさん、居たんだ」
アレ、メリーサン、イタンダ……ん? メリーさん?
すると零君の声に反応して、ジジジジっと鞄のチャックが空いた。そして、コロコロっと何かが転がり出て来た。ひぃっ……ん? タオル?
タオルの塊を凝視していると、私の鞄から微かにスマホのバイブ音が聞こえた。……あっ。そういえば、学校に行くから、音が鳴るとマズイと思って、バイブにしたんだった。
私は慌てて取り出すと、まるでスマホは生き物のように震えまくった。
しかし決して電話ではない。全てラインが届いた通知合図だ。……何だろう、この怒涛の通知。気になるような、ちょっと見たくないような。
とはいえ、このままだと何だか終わらない気がしたので、私はラインのアプリを開く。
するとメリーさんからの怒涛の『私、メリー。今、○○にいるの』メッセージが届いた。
……ちょっとなれたので、これは怖くないけれど、でも相変わらずラインが早い。既読が追い付かない。流石はメリーさん。
メリー『タオルがからまってるから取って』
メリー『柳田、詰め込めばいいんじゃないわよ。鞄には畳んで入れる!!』
メリー『あと、お菓子持ってき過ぎ!! 臭いが移る!』
メリー『そんなに食べると、虫歯になるわよ!!』
メリーさん、まるで零君のお母さんみたいになってる。
柳田君はメリーさんを飼うと言っていたけれど、どうやら関係はまた色々と変わっていっているようだ。




