体育館の妖精さんと4
学校は薄暗く、校舎内非常用の電気がついているだけだ。
柳田君はおもむろに鞄から懐中電灯を取り出しつけてくれた。明るければ、少しはマシだ。
それでも静まり返っている為、昼間の学校とはまた違う異世界に来たような気分になる。
職員玄関のみ開けてもらえているので、そこから中に入った私は、キョロキョロと周りを見た。
「大丈夫。この辺りは特に変なのはいないよ」
「うん。分かってはいるんだけどね……」
暗いというのは、それだけで怖いのだ。そしてこの怖いが何でもないものすらお化けに見せかけてしまうんだろうけど。
零君と手を繋ぎながら、私は体育館の方へと向かう。
「零君は体育館の妖精さんとは話した事はある?」
「あー……まあ。うん。一応、莉緒を助けてくれたから、その後声はかけておいた。基本的に、あのおっさん、向こうからは話しかけて来ないし、のんびりと学生見てるだけだから。ちょっと変態っぽくて気は散るけど」
おっさんという言葉に、やはり零君の目には私が知っている体育館の妖精の姿が映っているようだ。セーラ服のおっさんが突然学校にいたら、確かに変態っぽく見えるだろう。
「妖精さんはご飯食べていないっていう話だから、結構早く消えちゃうのかな?」
「分かんないけど、多分、体育の先生が移動するなり退職するなりしたら、消えるつもりなんじゃないか?」
「へ? そうなの?」
何か学校生活に未練があってここに居るんだと思ったけれど、より詳しい情報に私は驚く。
「体育の時間中、ずっと見てるからさ。もしかしたら、ああいうのがタイプとも思ったけど、その先生に憑りつくわけでもなく、ただ懐かしそうに見てるから。でも体育の先生は幽霊とか寄せ付けない系のタイプだから、まったく見えていないんだよな」
「そっか。もしかしたら、体育の先生が、妖精さんの好きだった人なのかな?」
妖精さんは学生時代、伝えられないまま後悔している様な事を言っていた。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないけど……俺は、見えない方が幸せな時もあるとは思う」
「……うん。そうだね」
生者と死者は、所詮住む世界が違うのだ。
下手に見えれば、未練となる。二度と会えない人の言葉を聞けることは奇跡でもあるけれど、死者の想いが伝わる事がいい事ばかりとも限らない。
そんな話をしていると、私達は体育館までたどり着いた。
体育館も特に施錠はしていないので、零君は荷物を一度地面に置き、重いドアをゆっくりと開ける。すると開いた先に人型のシルエットが見えて、ゾクリとしてはだが粟立った。
「ヒッ!!」
自分の悲鳴が反響してやけに大きく響いたと思うと、突然人影が倒れた。そしてコロコロっと頭、頭がっ!! と、取れっ?!
「でででででっ!!」
言葉にならない恐怖に固まっていると、零君は普通に体育館の中へと足を踏み入れた。置いてかれるのも怖いけど、あそこに近づくのも怖い。
どうしようと立ち止まっていると、零君が私の方を見た。
「大丈夫だからおいで」
凄く迷ったが、優しく微笑む零君のイケメン度のおかげで、乙女心が久しぶりに恐怖に勝った。私は早足で零君の所まで行き腕にしがみつく。や、役得。うん。これはこれでよし。
「えっと。何が倒れたの?」
「ジェイソン君。多分先輩が盛り上げるために置いたんだな」
ジェイソン君……えっ? ジェイソン君?
確かに懐中電灯で照らし近づいてみれば、それは紛れもなくジェイソン君だった。頭だけ外れた彼は、カタカタと動く……ヒィ。
うん。ジェイソン君は動けるって分かっているけど、懐中電灯に照らされた彼は普段の数倍怖い。
『そうよー。こんなに早く誰か来ると思わなかったみたいで、彼、びっくりして、倒れちゃったの』
「えっ?! だ、誰?」
いや、待って。この野太いオネエ言葉。これは聞き覚えがある。
『ふふふ。もう忘れてしまったの? 誰なんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け』
その声は壇上の上から聞こえた。そしてそこに現れる、微妙に丸いシルエット。
『体育館の破壊を防ぐ為。体育館の平和を守るため。愛と真実のオネエを貫く、ラブリーチャーミーな妖精さん』
「はい。たぶんラブリーチャーミーに謝った方がいいと思います!」
零君、シー。
確かに零君の言うとおりラブリーからは遠いけど。でも折角ノリノリで語ってるんだから。
壇上の上では、インパクト抜群の、セーラ服中年オヤジがポーズを決めて立っていた。




