体育館の妖精さんと2
どうやら科学部は毎年夏休み初日に夜の天体観測を実施しているらしい。そして新入部員は、上級生の言うルートで学校を探検してくるそうだ。……止めて。オカルトはまだ科学で証明しきれていないから、恐怖しかない。
「つまり今回は肝だめしで体育館方面に行くという事?」
「そういう事。別に一人で行かせるんじゃなくて、新入生全員で行くから。中々夜の学校は入れないし貴重だぞ」
そんな貴重いらないと言いたいところだけれど、伝統となっているなら付き合わざるを得ない。多分、この行事で新入生同士協力して仲良くなれということなのだろう。
科学部はどうやら、他人に興味がある子が来る部ではなく、個人を可能な限り尊重する部だ。だからこその、きっかけ作り用だろう。
「興味ない奴からすると天体観測がおまけみたいになるけど、星もそれなりに見えるからいいぞ。山奥のペンションの星まつりとかに参加する時ほどではないけれど、夏の大三角形ぐらいは見えるし。後は天候しだいだけだけど、まあ、その時はその時だな。流星群が見れる日は、あらかじめ申請すれば許可も下りるから」
「先輩はというか、先輩の親は、毎年ペンションに子供を連れて行って、自前の望遠鏡で空を見上げる星家族なんだよね」
どうやら姉の関係で入学前から知り合いだったらしい陽菜が追加で説明を入れた。
「いや、それなら普通に天体観測メインでいいのでは?」
「科学って幅広いから、それぞれ好きなものが違うだろ? だとすると、ちょっとぐらいお楽しみがないと食いつきも悪いんだよ。天野だって、星に興味なんてないだろ?」
「いや。でも、恐竜の絶滅は隕石って言われているじゃないですか。だから地層で地球にはない物質を調べて隕石説を実証したりするんで、まったく空の世界が無関係というわけでもなくてですね――」
「前から思ってたけど、もしかして莉緒っちって、怪談苦手?」
我ながら苦しいと思いつつも、天体だけでも大丈夫だよ説を訴えてみたが、陽菜にドンピシャで指摘された。仕方がないので、おずおずと頷く。
苦手なものは苦手なのだ。
「ごめん。実はホラー映画も見れない」
「莉緒。俺が居るから大丈夫だから」
「いやいや。私もいるからね。なんか二人で体育館に向かうような雰囲気で言ってるけど」
「そこは、ちょっと気を利かせろよ」
零君の言葉には苦笑いするしかないけれど、零君の場合は物理で怖いものを排除してくれそうな頼もしさはある。でもこれまでも、メリーさんや昭和の小学生幽霊でも零君は取り乱した事なかったしな。私とは怖いの上限が違う気もする。
「えー。私だって、莉緒っちと仲良くなりたいしー。というか、他にも部員いるんだからね」
「そういえば、一年って、他には誰がいるの?」
部活に来るメンバーは、基本先輩三人と陽菜だけで、他は幽霊部員なのかほとんど顔を出すことがない。ちなみに先輩は全員三年だ。
「私の友達のミッチーと姉ちゃん関係のニコちゃん」
誰だそれと思ったけれど、それよりも気になるのは姉ちゃん関係だ。姉ちゃんと言えば、この部の卒業生であり、伝説のノートを継いでいた人物である。
「もしかして姉ちゃん関係というのは——」
「腐女子だよー。でも家が厳しくて、成績が下がると同人活動ができなくなるから、塾も通って忙しい子なんだよね」
ジェイソン君のエネルギーの元かぁ。
なるほど。彼女には存分に妄想を続けてもらわなければいけない。だとすると学業優先だ。そしてミッチーというのは多分全く興味はないけれど人数合わせで名前を貸してくれたのだろう。
「ミッチーは面白いことは好きだから来ると思うし、ニコちゃんもこういう全員参加は親も許してくれると思うんだよね。というわけで、行ってみよう体育館!」
「……へ?」
「莉緒っち、大丈夫。これは肝試しじゃなく、妖精を探す旅だよ。だから大丈夫!」
「えっ? いや? えっ?!」
いや。その妖精が怪談だから、結局肝試しなんじゃ?
そう思ったが、流されるままに、私は夏休みの初日にフェアリークエストをする事となった。




