体育館の妖精さんと1
リクエストの体育館の妖精さんの話です。天野さん視点です。
私は結局あの後、科学部に入部した。ジェイソン君にはお世話になったわけで、怖いけれど、彼が怪異で居続けられるように科学部を継続させることは大切だ。
私がジェイソン君の妄想を書くのは、そっちの能力が低いのでちょっと無理だ。でも私や零君が入部した事によって科学部は続いていけるので、そのうち陽菜みたいに適性ある人物が伝統を続けてくれるはずだ。うん。
「そういえば、天野ちゃんは体育館の妖精の噂を知ってる?」
「えっと、体育館の妖精ですか?」
体育館の妖精と言えば、あれだ。オネエ系おじさんの地縛霊だ。
生き返ってから体育館に行ったけれど、こちらも適性がなさ過ぎて見えなかった。でも彼の印象は濃過ぎて記憶にはしっかり残っている。
「やっぱり知らないか。退院したばっかりだもんね。実はね、体育館にはエルフが住んでいるっていう噂なんだ」
「え、エルフ? ……妖精ではなく?」
「エルフは妖精の一種なんだよ。体育館を人知れず綺麗にしてくれるなんて、きっと引込み思案な可愛い妖精なんだろうなと妄想が広がるわけよ」
私の隣に座る零君の目が死んだような目になっている。……多分零君は、現在進行形で体育館の妖精さんに会っているからだろう。彼はエルフとは結構違う。
そっか、先輩は高望み系の人だったか。真実を知らないって幸せだ。
「でも妖精だったら、小さい……えっとイメージなんですけど」
小さいおじさんと言いかけて、それでも夢を壊し過ぎると思って私は言葉を濁した。現実とイメージのギャップが酷い。
「いやいや。だって体育館は広いんだよ。小さいと大変じゃないか。だから俺は、こういうのを想像していてね!」
バンと開かれたノートには、可愛らしいエルフが描かれていた。白黒だけど、多分髪は金ぴか、瞳は青だろう。そして胸がかなり発達してる……なるほど。この先輩は、そっち系が好きな人か。
「まて、エルフだったら、スレンダーが主流だろ」
眼鏡先輩が隣で負けじとカリカリカリと鉛筆を動かす。
そして、バンと出された絵は、こちらも可愛いエルフが描かれていた。ただし眼鏡先輩の方は、胸がまな板と化している。……こっちの方が正解に近い気もするけれど、やっぱり美化しすぎだ。
「お前の場合、そこからの、男の娘だろ」
「悪いか」
「悪いわ!! 俺は腐要素はいらん。否定はしないが、俺はおっぱいが好きだ!!」
「女子の前でアホな事言い合うな!!」
もう一人の先輩が、ノートでパンパンと先輩方の頭を叩いた。
「いいか。折角入ってくれた部員だぞ。辞められたら困る」
「そうそうって言いたいけど、莉緒っちだけじゃなくて、私も女子だからねー。普段から気をつけてよ」
陽菜が慣れた様子でひらひらっと手を上げた。どうやら元々こんな感じの言動の先輩らしい。
「安心して欲しい。俺は、二次元専門だ」
「は、はあ」
おっぱいと叫んだ先輩は、堂々と胸を張った。安心……うん。安心は安心なんだろう。
「気になったけど、何でそんなに体育館の怪異は、妖精やらエルフやら可愛らしいイメージになってるですか? おっさんの幽霊の可能性だってありません?」
「「夢がないから」」
な、なるほど?
零君の質問に対して先輩達は堂々と答えたが、私は納得してもいいのか微妙な感じで迷う。そんな二人の後ろで、もう一人の先輩がはぁとため息をついた。
「事の始まりは、ほつれたユニホームが誰も知らないうちに何故か縫い直されてていたからなんだよ。その後から、何だか体育館が掃除されていたり、体育館のトイレに草花が置かれていたりということがあって、きっと可愛らしい女の妖精がいるに違いないという噂が立ったんだ」
どうやら、妖精さんが妖精さんのイメージになったのは、優れた女子力のおかげらしい。
……確かに、繕いにお花に、お掃除とくれば、イメージは妖精だ。流石にエルフとはならないけれど、それはまあ、男子が求める理想がそれなんだろう。ただしたった二人でも体型性別等のイメージがずれているけれど。
「まあ、時期もいいし、夏休み初日に、科学部伝統の天体観測をやるか」
「天体観測ですか?」
今の流れから、どうして天体観測か分からないが、天体観測と言えば夜にやるものだ。へえ。そんな伝統が――。
「あー、姉ちゃんが言ってた、毎年恒例の肝試しの事だね!」
「は?」
私はトンデモない単語に、固まった。




