ジェイソン君と2
陽菜に誘われてやってきた科学部は、毎日全員参加というわけでもないようだ。
今日いるのは、先輩3名と、陽菜だけである。同級生もいるそうだが、塾で休みらしい。……それって、所謂幽霊部員では? と思うけれど部活動の最低人数は五人らしいので仕方がない。
「んー。活動内容は……えっと、うちの部、ゆるいから、何やっても大丈夫だよ」
「「「おいおいおい」」」
陽菜が私達に部について説明をすると、先輩方がツッコミを入れた。まあ、そうだよね。一応部活の説明なんだし、適当過ぎる。
「何でもいいじゃなくて、もっと、こう、入りたくなるような事をだな」
「そうそう。ほら、先輩のテスト見せてもらえるよとか」
「漫画本読んでいても、科学系なら勉強ですで通るとか」
「テストの過去問の事は伝えましたよ」
……ゆるい。
ものすごく、ゆるい。
なるほど。このゆるさが、ジェイソン君とフレディ君を生み出したのか。
「あ、もちろん。やってみたい研究があったら言ってみて。火を使う系とか、危険な薬剤使う系は先生が来る日しかできないけれど、それ以外なら問題ないし。何やっていいかわからないなら、そこに並んでる本を読んでみて、興味ある分野を探す所からで構わないよ」
一番真面目っぽい、眼鏡の先輩が科学室に置かれた実験の本を指さす。
なるほど。一応、普通の部活的な事もやっているらしい。やっていなかったら、色々問題ありそうだけど。
「そういや、大井田はなんでこの部に入ったんだよ」
「んー。まあ、最初は入る気はなかったんだけど、姉ちゃん、元、ここの部員でさ。その関係でちょっとね。あ、でも。派手な実験は好きだよ。燃やすものによって火の色が変わる実験とか」
火の色が変わる——ああ、炎色反応か。
確かに花火の原理でもあるので、これは楽しいかもしれない。
「お前、やりすぎるから先生が困ってたぞ?」
「えー。実験は爆発でしょ?」
「いや、ソレ、失敗というか、やっちゃダメ系だよね?」
芸術は爆発してもいいけれど、実験の爆発は物理なのでやっちゃいけないタイプだ。コントみたいにアフロになって終了するわけではない。
「莉緒、危険だし、入るなら別の部にしよう」
「「「「待って!!」」」」
零君の提案に、科学部全員が悲鳴を上げる。……部員が欲しいんだね。
どれぐらいの人数が今部員でいるか分からないけれど、多分彼らは今、廃部寸前でギリギリなのだろう。もしくは今年の三年が抜けたら廃部、または同好会に格下げか。……何か賞をとれば、元々部活動だったものなので、お目こぼしはあるだろうけど。
「ほら。何もやらずに帰るなんて勿体ない」
「折角だから色々体験して、ちょっと署名してくれればいいんだ」
「署名って、それ入部届ですよね」
「柳田、鋭いな」
零君じゃなくても、気が付くというか……サインはちゃんと読んでから書こうねの実例というか。
「うーん。個人的には、私は科学部に入ってもいいけど、零君は運動部から沢山誘いが来ているんじゃない?」
零君は何でもそつなくこなす男だ。勉強もできるけれど、運動もできる文武両道系。体力検査の結果も運動部員を差し置いた結果が出たとかでなかったとか。
「運動部は、何かあった時の代理で出るぐらいでいいかな。体を動かすのは嫌いじゃないけど、寺の手伝いもあるし。その点、時間の融通が利く文科系に所属しておいた方が楽かな」
「うわー。嫌味!! ここに居る先輩達は運動なんてからっきしのウンチなモブ属性ばかりなんだからね。ちょっとは気を使った発言しなよ。この、主人公体質!」
「おーい。大井田。お前の発言も大概酷いからな」
先輩の言葉に私は苦笑いした。確かに、陽菜の言葉は色々先輩に突き刺さっていそうだ。庇おうとして間違えて後ろに発砲している。
「えっと。私は恐竜が好きなので、できるなら採掘したり、博物館に見学に行ったりする活動したいんですけど。例えば、休日にそういった活動をするのを、部活ということにしてもらう事は可能ですか?」
部活は入っていなくても特に問題はないし、あれなら自分で先生に交渉をして発掘のバイトができないかなと思ってる。大学に入ればそういったことができるけれど、高校は中々にバイトが厳しいのだ。
ただし、部活の一環だとすれば、もう少し交渉もしやすいかなという打算だった。
「たぶんできるはずだよ。科学館へ行くのも部活の一環で認められているし。それにしても、天野さんは恐竜好きなんだね。是非ともそんな君には科学部に入部して欲しい。柳田君は何かあるかい?」
「俺は特には——」
「先輩。柳田は、できる色ボケなんでー。莉緒っちが入部すれば、もれなくついてきますよー」
「いい方!!」
陽菜の馬鹿正直な会話に、流石の柳田君もツッコミを入れた。
まあ、確かに、柳田君は基本器用なので、何でもそつなくこなしそうだ。色ボケは……うーん。私が恥ずかしいので、あまり考えないでおこう。ちょっと私に対して心配性かなと思う瞬間はあるけれど、これに関しては死にかけた前科があるので、しばらくはそっとしておこうと思う。
「でも、莉緒っちが入部しなかったら、柳田は入らないでしょ?」
「そりゃ、まあ」
「先輩、柳田が入ってれば、来年の一年に期待できますよ!」
「別に客寄せパンダはやってもいいけど、莉緒と付き合っていることはオープンで行くし、その所為で莉緒に不穏な事をしようとする奴が居たら全力で俺の持てる力を持って排除するから。それでいいならいいけど」
柳田君は好条件ボーイだけど、家がお金持ちとか社会的地位があるわけではない。学校での人気度は高いけれど、でもその人気を使って相手を追い詰めるような使い方はできないはずだ。それは自分も貶める諸刃の剣になってしまうから。
となれば、柳田君の持てる力って……まさか怪異関係?
「えっ。もしかして……いや。零君ちょっと落ち着こう? その力は、使いたくなかったアレだよね?」
「んー。この間、結局利用したし、なんか、吹っ切れた。必要なら、どんな力だって利用するべきだと思ったんだよな。出し惜しみして、大切な者を失うぐらいなら、悪魔とだって契約するよ」
いや、メリーさん、悪魔どころか福の神になっちゃってるけどね。
そして、何だろう。零君の利用方法が爽やか主人公枠ではなく、悪堕ち系に聞こえてくる。ちょっと、何でこんなに情緒不安定なの? と言いたいけれど、間違いなく原因の一端は私だ。
ヤバい。選択肢を間違えたら、柳田君が悪堕ちする。なに、このダークヒーロー展開。
「あははは。なんで柳田、中二病っぽいコントしてるの? マジウケる」
「はははは……」
確かに中二病っぽい。っぽいけど、中二病で終われない事は私が一番知っている。
「えっと。零君。私は大丈夫だし、あれなら、頭がいい憧れ先輩路線の自分像を作って周りから攻撃対象にされないようにするから、ね? 伝家の宝刀は抜かないでおいてね」
「えー。莉緒の人気がでるのはでるで、何だか複雑」
どうしろと!
とはいえ、中学校の頃のようにぐちゃぐちゃになる前に、ちゃんと上手く人間関係を築いていこうとは思う。そしてもしもクラスで上手くいかない時に逃げ込める場所として、部活動をやっておくのはいい気もする。逆に部活で何かあったら、やめればいいだけだ。
逃げるは恥だが役に立つだ!
「とりあえず、入部はしようと思うんですけど、一度、ここでどんな実験とかしていたのか見る事ってできますか?」
「ああ。それなら、奥の本棚の一番下に歴代の研究ノートがあるから見て見るといいよ。恐竜関係はあったか分からないけど、地層とか調べた先輩はいたはずだから」
「分かりました。ありがとうございます」
私は許可を得て、実験ノートがしまわれた本棚に移動する。
恐竜の事を調べている先輩がいれば、より恐竜の研究がしやすいんだけどなぁと思いながら手前のノートを適当に取り出すと、その後ろにもノートが入っているのに気が付いた。
「結構数が多いんですね」
「莉緒っち、待って。それ違う!!」
先輩がと話されていたので、古い方がその手の研究が書かれたものがあるだろうかと取り出した瞬間、後ろから悲鳴のような声で陽菜が止めに入った。
その声にびっくりして、手に取ったノートを落とす。バサッと音を立て落ちたノートの表紙には、骸骨の絵が描かれていた。……まあ、科学部だし。人体について調べていることもあるかもしれない。あるかもしれないけれど……何で骸骨の隣に眼鏡のイケメンがスタンドのように描かれ、薔薇がちりばめられているのだろう。
はっ?!……まさかコレハ――。
「見たよね?」
背後から聞こえる陽菜の低い声に、私はビクッと肩を揺らした。




