ジェイソン君と1
リクエストのジェイソン君に会いに行く話です。天野さん視点で進みます。
入学式当日に事故にあい、そこから丸っと2ヶ月眠り続け、ようやく学校に通えるようになったのは、7月1日からだった。……正直、もうすぐ夏休みじゃん。二学期からでよくない? と思わなくもないタイミングからの登校は地味に辛い。
とはいえ、何とか留年せず二年生に進級する為には、出席日数が大事になる。一応高校での単位取得には三分の一出席しなければいけない。なので、少しでも早く復学する必要があるのだ。後は、幸いにも学校側が私に対して同情的な立場をとってくれたので、頑張ってこれから休むことなく出席し、テストでいい点を取れば進級させてくれると約束してくれた。
まあそんな事もあり、友達がたとえできなくても、意地でも登校をするつもりで臨んだわけだが。
「天野っち、柳田と付き合ってるって本当?」
……クラスのギャル系女子に、ただいま絶賛絡まれ中だ。短いスカートに薄化粧。進学校の生徒っぽくないタイプの女子である。はっきり言って、私とはかなり属性が違う気がする。RPGなら、彼女は踊り子とかタイプで、私はえーと、うーん。村人? 注釈で、たまに生霊として現れる役持ちの村人だ。いや、この表現余計にややこしいな。とにかくまじりあう事がなさそうなタイプだ。
でも見た目や、性別、属性で人を判断するのは良くないというのは身に染みて分かっているので、私は彼女がどういう意図で質問したのかを見極めようと思う。そもそも怖さで言えば、メリーさんやジェイソン君の方がガチで怖いし、体育館の妖精さんの外見と内面のギャップの方が結構きわどい。OK。ギャル系と会話はハードルが高いけれど、個性爆発な修羅場を経験した私ならいける!
「うん。中学からお付き合いさせてもらってる……かな?」
「マジで。ヤバい!! 本当だったんだ!!」
んんん?
それは、どう反応していいのかな? マジでとヤバいだけの空気読め会話はギャル要素がゼロな私にはちょっとハードルが高い。肯定的なのか否定的なのか、ただの驚きなのか、分からない。
えっと。彼女は零君の事が好きなのだろうか? いや、うーん。それにしては反応がおかしい気も?
「天野っち、すっごく噂になってたんだよね。あの柳田をメロメロにしたとか」
「えっ。メロメロ? う、うーん。付き合ってはいるけれど、……スパイでもいるの?」
メロメロとは、また零君に似合わない単語だ。零君、天然だけど、そつなく冷静にこなすタイプなイメージだからなぁ。人に振り回される系の人間ではない。
「あははは。天野っち面白い。いるわけないじゃん。天野っちと同中の子が言ってたんだよ。だから、柳田は誰とも付き合わないんだって。柳田、女子生徒ホイホイだから、まだ入学して一ヵ月も経たないうちに、美人の先輩に告られててさ。でもあっさり振っちゃったから、どういう事? って言われてて」
凄いな。零君も先輩も。バイタリティーが私と違う。
怪異だったころの私は、恋愛だけ考えていればよかったのでそういうものだと思っていたけれど、生き返れば生きていくために、恋愛だけで頭をいっぱいにするわけにはいかない。
今の私に課せられた使命は、一に進級、二に命大切に、三、四がなくて、五に脱ぼっちである。なので、余計な反感など買うような行為は慎む予定だ。まあ、零君とは別れないけれど、オープンでウザがられるようなイチャイチャ的な事もする気はない。
「へぇ。相変わらず零君は凄いね」
「おおっ。正妻の余裕!」
「いや。余裕はないけど、ただ柳田君は、中学校の頃から沢山告白を受けていたし。私も学校に通えていなかったから、そんな物かなと」
そりゃ、彼氏が他の女性から粉をかけられていたら、嫌だなぁとは思うけれど、それで二股をされてわけでもなければ、別れを切り出されたわけでもない。
柳田君は告白をされた立場だから、柳田君の所為でもないので、嫌な気持ちをぶつけるのもおかしな話だ。
「天野っちって冷静なんだねー」
「そうかな? 結構嫉妬はしてるつもりだけど」
嫌だなぁとは思うわけだし。
でも、だからと言って、相手の恋心全否定する気もないし。忍ぶ恋はその人のものだ。
「おい。大井田。莉緒に変な事吹き込むなよ」
「えー。変な事は吹き込んでないよ。これまでの柳田伝説教えてあげただけじゃん」
「……伝説になってるんだ」
「なってないから。莉緒は素直なんだから、マジで変な事言うなって」
零君なら伝説ぐらい作れそうな気がするけれど、まあ本人が嫌がっているなら、あえて聞く話でもない。ちょっと気にはなるけれど。
「もしかして、天野っちも天然タイプ?」
「うーん。どうだろう。私は普通だと思うけれど」
恐竜オタクではあるけれど、普段の生活は普通だ。前面に恐竜を押し出していない。恐竜Tシャツに身を包むのも、寝る時だけと決めている。
「大井田は、空気読めるけど読まない系だろ」
「失礼な。空気は吸う系ですー。あっ、授業で分からない事あったら、聞いてね。ノートとか貸すから」
「莉緒、やめとけ。まだ俺のノートの方がまだマシだから。それから、大井田。多分お前、今テストを受けても莉緒より点数低いからな」
「……マジ?」
「俺より低いなら確実に低い」
零君の言葉に苦笑いするけれど、まあ、実際幽霊状態で授業は聞いていたわけで。ひとまず危機感を覚えるほど授業について行けないということはなさそうだ。
「えっ。柳田。学年の中でも、一桁でしょ? マジ?」
「うん。マジ。莉緒はテストの順位はあまり気にしないから、本人が自分の凄さ分かっていないけれど」
「零君、ハードル上げないで。私、普通だから」
確かに赤点を取ると、今後の進路に影響されるから点数は気にするけれど、自分の順位はあまり気にした事がない。
でもそれは勉強したからであって、天才だからとかそういう事はない。
「天野っち、それ、普通じゃない。うわー。ヤバいわ。じゃあ、部活は何かやるか決めてる? それだけ頭いいと塾とか通っちゃう系?」
「うーん。中学までは、塾に行っていたけれど、高校はまだ行く場所も選んでないかな」
「ならさ、部活やろうよ! うちの部活、頭いい子大歓迎。試験前は、先輩から去年の問題用紙も貰えし、勉強会もやるし」
「おい。強引に決めるなよ。俺だって、試験前は一緒に莉緒と勉強したいんだからな」
部活かぁ。
中学の時はとりあえず美術部に所属していたけれど、高校はどうしようかなと思っていた。美術部なら化石のデッサンしていても怒られないから幸せだった。
「うーん。実は科学部の見学がしたいかなと思っていたんだよね」
科学部と言えば、ジェイソン君とフレディ君がいる部だ。
どうやら生霊でなくなってしまうと、花子さんも体育館の妖精さんも見えないし、声も聞こえなくなるらしく、今のところ意思疎通ができていない。
まあ、元々霊感がゼロで、生霊になっても見えない比率の方が多かったので、素質というものが欠如しているのだろう。
でも肉体と言っていいか分からないけれど、外見があるジェイソン君なら少なくとも会えると思ったのだ。メリーさんとはメリ友を続けられているわけだし。私が無事に生き返れたのは、彼のおかげもあるので、お礼が言いたかった。
それに恐竜の研究をするような部活はないけれど、科学部ならもしかしたらやらせてもらえるかもしれないという打算もある。
「天野っち!! いや、莉緒っち!! 是非、是非来て!!」
「へ?」
「私、科学部なの!! もう、大歓迎!! 私の事は陽菜って呼んで」
「ちょ。だったら、俺も!」
……おおう。まさかの、彼女は科学部の生徒だったのか。
キラキラとした目で見てくる陽菜に、私はビクッとしつつも、今日の放課後に約束を取り付けたのだった。




