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メリーさんとにゃんこ

メリーさん視点で、本編後の語らいです。

 私の名前はメリー。

 いつかは大怪異になる事を夢見る【メリーさん】という怪異だ。厳密にいえば【メリーさんの電話】という怪異で、憑りついた相手に電話をして、徐々に近づくという存在。ただし最近は固定電話がなく、携帯電話も非通知だと怪異の力をもってしても繋がらない事も増えている。その為ラインを使ってアクションを起こしている次第だ。既読が遅くて困る時もあるけれど、メールのように迷惑メールに振り分けされて読まれてなかったなんて切ないオチもなく、まだ使い勝手がいい。

 ラインも見ないという方法があるようだけど、既読が付いた瞬間、怒涛の鬼打ちで相手を怯えさせ、マッハで向かえば怖がられるのだ。

 わけあって外見は、西洋人形ではなく、純和風な市松人形だが、大切なのは中身だと思っている。

 それにこの外見だって嫌いではないし、別にそこに問題はない。

 問題なのは……私の未来予想と大幅にずれてしまった現在ね。


メリー【なんで私が、座敷童状態なのよ。祝いの市松人形って、普通でしょ。ここは呪いの市松人形じゃないと】


 ひょんなことから、怪異の中で悪名高い柳田に借りを作ってしまった私は、天野という少女を助けて借りを帳消しにする契約をしていた。

 しかし予想以上に二人から恐れではなく感謝を与えられ、結果、存在が歪んで、福の神にジョブチェンジしてしまったのだ。祝いのメリーさん……最悪すぎるわ。絶対頭の悪い奴が書き間違えた系みたいになっているじゃない。

『いいじゃない。神様って、中々なれないものだよ?』

 私がキリキリとしていると、白猫がのんびりと話しかけてきた。


メリー【出たわね、糞猫】

メリー【嫌がっているの分かってて言っているでしょ】

メリー【ねこっかぶりな事、天野に言いつけるわよ】

メリー【可愛い愛猫のふりしてるんじゃないわよ】


『ヒドイな。僕の名前はシロ。莉緒がつけてくれた素敵な名前があるんだからちゃんと呼んでよ。それに、猫がねこっかぶりなのは当たり前じゃん』

 人の言葉を話すシロは、姿は白猫だ。ただし尻尾が二つに分かれている。普段は一つに見せかけているが、立派な猫又である証拠だ。

 そしてその尻尾を器用に使って、メリフォンをスクロールさせ、ラインの画面を読んでいる。……天野に言いつけてやりたい。

『それに莉緒は僕を信頼しきっているもの。猫又ってばれても気にしないと思うな。ただこの方がまだ子供だって思って甘えさせてもらえるだろ? 猫又ってバレたら大人扱いされちゃうじゃん』


メリー【……駄目だわ。天野は猫馬鹿】

メリー【全然普通に可愛がるわ】

メリー【キリキリキリキリ】


『でしょ? 本当なら、僕の縄張りに、君のような存在を招きたくないんだよ。でも莉緒を助けるためだったし、友達になってしまったのなら仕方がないよね。ひとまずは、莉緒の為に仲良くしておこうよ。主権争いに興味はないし、そもそもこの家は僕の縄張りなんだから』

 シロはのんびり丸くなった状態で私のラインに答える。

 ……確かに争ったところで、なんの役にも立たないのは分かっている。でも、ムカつくのよね。

『ところで、君はどうして市松人形の形をしているの? おかげで莉緒を助けられたから感謝しているけれど』


メリー【聞くなと言いたいけれど、アンタに内緒にした所でご飯になるわけでもないし、いいんだけど】

メリー【どうしてそんな事聞きたいの?】

メリー【天野達に話す脅しに使うつもり?】


『いや、純粋な好奇心だよ。君が福の神になんてなるから、下手に追い出せないし。一緒に住むなら、成り立ちぐらいは聞いておいてもいいかなって。それに怪異に戻った時に莉緒に迷惑がかかるなら、追い出さないといけないでしょ?』

 シロは尻尾をゆっくり左右に振る。

 犬だったら遊んで遊んでだが、彼は猫なので、リラックスしている表れだ。……完璧舐められている。私を畏れる気はゼロだ。

 でもまあ、珍しい怪異の同居人だ。多少は喋ってもいいかもしれない。それに天野に危害を加えさえしなければこの猫は何もしてこないだろう。


メリー【仕方ないわね】

メリー【私は属性的には、付喪神の一種ね。何故市松人形なのかっていえば、元々私は市松人形だからよ」


 私の生まれは大正だと思う。その頃は意識もなかったので、よく分からない。とりあえず、私は人形師に作られた。

 市松人形は子供の遊び道具としては、壊れやすい部類だ。だからある時期からはセルロイド製の青い目の人形が遊び道具の主流となった。


メリー【メリーというのはメアリーから来ているわ。私の持ち主も青い目のセルロイド製の御人形を持っていたわ。でも戦争でね、メリーは焼却されたの】

メリー【私の最初の持ち主である女性はね、メリーを焼かれてしまった女の子に私を上げたわ】

メリー【だから私の名前はメリーなの】

メリー【そしてね。戦争が終わって、女の子達はまた新しい人形を買えるようになったわ】


 昔は親から子、孫に大切にしてある玩具が譲られる事はあった。でも世の中は大量消費社会へと移行していった。だから私の持ち主も大人になって、古ぼけた私はしまい込まれてしまうようになった。

 それは時代の流れとして、仕方がないことでもあった。でも長年愛用された私は、その頃には『メリーさん』という自我を持っていた。付喪神となっていたのだ。


メリー【新しい時代では、リカちゃん人形が子供達を虜にしていたわ。……私はきっとあんな存在になりたかったのね】

メリー【だからリカちゃんの電話というものができた時、私もメリーさんの電話になったの】


 女の子の遊び相手になりたい。

 そういう存在だから。

 でも私はその時にはもう、怪異だった。

 だから私の電話で喜んでくれる子はおらず、子供達の恐怖を食べ続けた私は、そういう怪異となったのだ。


メリー【まあ、そういう存在よ。私を捨てる人間なんて大嫌い。だから、私は誰かを幸福にする福の神なんてまっぴらごめんなの。それに神はとても傲慢よ。神が原因で人間の戦争も起こるわ。だから、私は神になんてなりたくないの】


 引き起こしたのは人間だとしても。

 でも神はいるだけで影響する事もある。とても傲慢で自分を信仰しない奴は不幸になれなんて、馬鹿げたことを平気で言うのもいる。

 だから神様になんてなりたくないのだ。

 私はあくまでもメリーさんでいたい。


メリー【それで、そっちはいつから猫又なの——って、寝てるの?! 嘘でしょ。アンタ、何処のの〇太君よ!!】

メリー【止めて。何この恥ずかしい状況】

メリー【本当に、ふざけんじゃないわよ】


『にゃー……』

 天野の家にお泊りする時の同居人は、気持ちよさそうにすよすよと眠っている。

 本当に猫なんて、大嫌い!!

 なんてマイペースな奴らなのかしら!!


 私は一人天野の部屋でキリキリとするのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 聞いておいて寝てるふてぶてしいしろちゃん。 天野さんは猫又でも猫でも神様でも可愛がりそう。 好きなものへの許容範囲がすごい。 メリーさんは入力の早さでも怖さをゲットしていたのですな。 メリ…
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