メリーさんの髪
迂闊にも、メリーさんに同情してしまった。でも坊主はない。女の子にそれはない。
「この後、謝ったんだけど、切るの禁止されてさ」
「当たり前だよ。まあ、禁止はちょっと厳しいかもしれないけ――」
ピコン。
恋する乙女なので少しぐらいは柳田君を肯定しようと話しているとスマホが音を鳴らした。ラインの通知だ。画面には、メリーさんの画像が……。
えっ。タイミング的に、もしかしていまの会話聞こえてるの? 地獄耳?!
そう思うけれど、メリーさんは人知を超えた怪異。柳田君が留守にしている家に行かずちゃんと学校に来て鞄に入っていたのだから相手の居場所を知る能力を持っている。最新のナビゲーションシステムですら近くまでくると案内を終了してしまうことを思えばかなり正確だ。だったら盗聴ぐらい朝飯前かもしれない。
メリー【嘘をつくな】
メリー【娘よ、もっと前に遡れ】
メリー【そこに真実が隠されている】
「何、何か怖いんだけど」
メリー【勇気を出して、踏み出せ】
メリー【真実はいつも一つ】
「メリーさんの語彙も怖い」
何処で知った、そのフレーズ。それとも偶然?
メリー【体は市松人形、頭脳はメリー】
「絶対、小学生探偵漫画、知ってるよね?!」
「あ、あれ、面白いよな。俺もテレビで見てる」
そうか。柳田君も好きなんだ。いいこと教えてもらった。という訳で、メリーさんにツッコミを入れるのはやめてさかのぼる。彼女の存在自体が迷宮入りしそうだし。
メリー【呪】
メリー【呪】
メリー【呪】
「怖っ」
「あ、その辺りはメリーさんを坊主頭にしちゃって激おこされた所だ」
「一文字だけど、余計に怒ってるのがわかるね」
むしろ怖い。
でも勇気をふりしぼってもう一歩さかのぼる。
メリー【斜めすぎる】
メリー【がたがたじゃないの】
メリー【待て、切りすぎ】
メリー【その凶器を置け。止めろ。過信するな!】
メリー【ぎゃあああああ。やめろぉぉぉぉ】
……何、この会話。
まるで悪魔払いが成功したような叫びだが、むしろその後、呪いの言葉が続くので、失敗してる。
私のジト目に柳田君はばつの悪そうな顔をした。
「できると思ったんだよ。でも、切ったらなんか変な風になって」
「で、どんどん切って短くなったと」
「……まあ、そんな感じで。いやー。逆カッパみたいな感じより坊主頭の方がいいかなって。ほら、ベリーショートって美人にしか似合わないって言うし」
「いや。美人だからって、ベリーショートにしなければいけないわけじゃないから」
「ごめんなさい」
柳田君は潔く謝った。どうやら柳田君は不器用だったようだ。
「無理だと思ったら、リボンで結ぶとか、プロに任せるとかあるから」
「呪いの人形の美容師っているのかな」
あー。妖怪専門なんて聞いたことないし人間の美容師も請け負ってくれなさそうだ。
「普通に人形の専門をネットで調べるとか? 高いかもだけど。とりあえず、調べてみるって大事だと思うよ」
海外でも古い絵を修復できるかなって素人が残念なことをしてしまったってあるじゃない。自分はできるって過信はよくないんじゃないかな。