柳田君のエピソードゼロ3
恋に落ちると人間見方が一気に変わるというか、莉緒のいい面が沢山見えるようになった。
恐竜とかよく分かんないと思っていたけれど、彼女がその好きなものを好きでいるために、将来は博物館で働くか、考古学を勉強できる大学に行きたいと思っていることを知ると、もう将来をしっかり考えている事に驚き、純粋に凄いなと思った。
彼女は頑固だからこそ、譲れない部分をどうしたら譲らなくてすむか考えて生きているらしい。
勉強も俺よりずっとできた。
いや。俺がそれなりにでいいかと思っていたからだけど、目標をもつということは凄い事みたいだ。気が付けば俺は、莉緒に勉強を教えてと、休みの日には図書館で一緒に勉強するようになった。そして彼女と一緒の高校に行きたいと思えば、自然と俺も勉強に集中できた。
ただ俺が莉緒と勉強していると知ると、友人たちが五月蠅くなった。どうやら、俺なんかより周りの方が莉緒が頭がいい事を知っていたらしく、だったら俺も教えて欲しいとなったのだ。仕方がなく莉緒に話せば女子一人は困るということで、彼女の友人だが違うクラスの女子も一緒に勉強する事になった。更に友人の一人が狙っているらしい、香織という女子も加わった。
香織は確か莉緒が元々仲良くしていたグループの女子だから大丈夫だろうかとちょっと心配したが、莉緒は勉強するだけなら問題ないとしたようだ。わだかまりがあっても、一年間は付き合っていくしかない。そう思うと、莉緒は大人だよな。
夏休みに入ると莉緒は塾の夏期講習で忙しくなった。……俺も一緒の塾に入りたかったけれど、兄貴が教えれば問題なしと親からいい渡された。ちくしょー。できの良い兄を持つと弟は困る。
しかも莉緒とは違って、兄貴はスパルタだ。
まあそんな感じでショッパイ夏休みが決定しているので、俺は自分へのご褒美というか人参というか、とにかく一緒の高校に行くために頑張る気合を貰う為、莉緒をデートに誘った。
ちなみに莉緒が絶対断らない、恐竜博物館だ。莉緒が好きなものをオープンにしておいてくれてよかった。
そこで浮かれていた俺はやらかした。
告白する覚悟なんて全然なかったのに、気が付けば告白していた。……ツインテールで可愛く着飾ってくるとか酷すぎるだろ。何、俺の理性試しているわけ?!
そんなわけで、可愛すぎたためにナンパされた莉緒を助けるやり取りで、うっかり誤爆した。……真っ赤な顔をした莉緒を見たら、冗談なんて言えるわけがない。余計拗れる。
俺も男だ。ここは腹をくくってしまえと、告白の返事は聞かず、でもちゃんと間違いなく俺は莉緒が好きな事を伝えて、博物館をまわり解散した。
兄貴にデートを黙っていてもらう口止め料のお土産を渡した俺は、部屋で悶えていた。……今までの人生でこれほどまでの失敗をしたのは初めてだ。どうやったら周りの調和を乱さないか考えながら生きて来た俺とは思えない失態。恋とは恐ろしい。
とりあえず、莉緒と撮った写真は現像して部屋に飾る用と保存用の二枚は確保しておこうと謎の結論を出しながら、俺はその日眠りについた。世の人はそれを現実逃避という。
それから二日後。勉強会は気まずかった。でも、莉緒は可愛かった。ツインテールでないのは残念だけど、でも変な男が寄ってこないから、これはこれでよし。
そして帰り道。莉緒から告白のオッケーを貰えた。あまりに嬉しくて、俺はその場で莉緒を抱きしめていた。
世界がこれまで以上に輝いて見えた。
その後も、勉強会という名のデートを重ね(ただし、他の奴らもいる)、新学期が始まった。新学期になると、また空気が代わり、クラスのほとんどが莉緒を無視することはなくなった。居心地悪くしているのは、莉緒を無視していた奴らだ。
莉緒も俺の友達の幼馴染の、奈緒という女子と話すようになっていた。勉強会のおかげで夏休みに顔を会わせることもあった為、自然と仲良くなれたみたいだ。それがきっかけで、女子の中でも浮かなくなった。
同時期に、俺の友達の1人が莉緒の友達と付き合い始めた。そして俺も莉緒と付き合ってるんだろとバレた。別に隠しているつもりはなかったけれど、恐竜博物館に二人っきりで行った噂が流れているらしい。女子の情報力、怖い。
そんなこんなをしているうちに十月に入り、また勉強会をしようという話になった。しかし、塾がない日なのに、莉緒は用事があると言って断ってきた。莉緒がいないなら俺も行く意味はないのだけど、友人たちから頼むと言われたら、勉強会に参加するしかない。
そして勉強会をしている途中、香織に告白された。それを聞いた瞬間、俺はその時になってようやく莉緒が来なかった理由が分かった。
俺は勉強会にはこれからは参加しないことを伝えた。
一応告白を断ったから気まずいということにしたけれど、友人たちは莉緒の為だって気が付いてるだろうな。莉緒は多分、香織が告白すると聞いて身を引いたのだ。香織は男子の中では人気だし、彼女も俺が断るはずないと自信を持っていた。
莉緒は先に香織から何か言われたのだろう。
……俺はがどうしたら不快に思わないか、好かれるかを考えながら生きているから、女子から告白される事も多い。でも莉緒は嫌だよな。俺だって莉緒がほかの男に愛想を振りまいて告白されるのを見るのは嫌だ。
うん。俺は一途な男になろう。
勿論、人間関係を壊す気はない。ただ誰にでも愛想のいい男ではなく、誰か特定の相手に一途な男というのも、敵を増やすことはないので、そういうキャラ変をさせてもらう。
俺はモテる事にそれほど執着はないし、そんな事より莉緒を安心させたい。その方が莉緒と一緒に居られるし、莉緒の笑顔もたくさん見れる。何より、莉緒が身を引こうなんて本末転倒な事にはならない。
というわけで、早速欲望に従い、俺は二人っきりの勉強会の約束を取り付けた。
その後は穏やかに時間が流れたと言いたいけれど、周りはそうでもなかった。
とうとう元々莉緒が居たグループが空中分解した。中でも香織への女子からの当たりが悪い。男に人気だからというのが大きいだろうが、本人の気質もあると俺は思っている。
あのタイプは俺と同じ。
周りをよく見て、自分に有利になるように働きかける。自分が一番大事なタイプだ。
上手くそれが作用している時はいいけれど、歯車が狂えばただの自己中で、嫌われる事になる。
そして、事件は起きた。
どうやら自分を良く見せかけるために、莉緒を下げる方法をとろうとしたみたいだ。……もしかしたら、俺が告白を断り、莉緒と付き合っていたのも原因だったのかもしれない。同じく孤立していたのに、上手くいった莉緒に嫉妬したのだろう。
ただしやり方が悪く、余計に彼女は孤立した。
それを莉緒は気に病んでいる様だった。
そしてついに莉緒は俺に相談してくれた。でもこれまでに流れを聞いた限り、俺にはどうしても莉緒が悪いとは思えない。はっきり言って香織の自業自得だろう。
だから莉緒は悪くないと言ったけれど、それでも莉緒は悩み続けている様だった。
それはきっと莉緒も同じ苛めを受けたからだろう。
……確かに香織のしたことは自業自得ではあるけれど、彼女が何かした相手は莉緒と奈緒だけだ。だから本来なら、この三人だけの問題であり、部外者が無視をしたりする代理戦争なんてする必要がない。
人間は自分が正義だと思った時、残酷になる事を俺も知っている。
そしてその歪んだ正義によって、香織は学校へ来なくなった。
そして月日は流れ、莉緒は香織と一対一でけじめをつけに行き……転落した。




