メリー・ハッピーエンド
天井からこんにちわをされて、寿命が一年ぐらい縮んだ気がする私は、ドキドキする胸に手を置いた。零君よりも長生きすると宣言した直後に、心臓が止まるとかシャレにならない。
ベッドの上にあったのは見慣れた市松人形だった。でも、やっぱり市松人形が空から落ちてくるって、怖い。女の子が落ちてきても許されるのは、ジ〇リの中だけだ。この世界では、間違いなくホラー。
そんな混乱気味の私の意志とは関係なく、ピロンとスマホが通知音を鳴らした。
メリー【ああ。流石、天野。いい叫び声】
メリー【それに比べて。柳田、少しは驚きなさいよ】
メリー【なんで普通に見下ろしてるのよ】
「いや。メリーさんが落ちたなぁと。サルも木から落ちるというから、気にしなくて――」
メリー【違う】
メリー【失敗じゃなくて、わざと】
メリー【人間は突然目の前に現れると驚くものなの!!】
メリー【相変わらず、私の神経を逆なでしてくる男ね】
零君とメリーさんの相性の悪さは相変わらずのようだ。
このやり取りを見ると、ちょっと落ち着くのは、大分と毒されている気がしなくもないけれど、毎日毎日驚き続けるというのも疲れる。
「メリーさん、久しぶり。莉緒の事ありがとう」
零君は唐突にメリーさんに御礼を言った。
彼はかなりの怪異嫌いだということを、生き返ってから思い出した。それでもメリーさんに協力をお願いしたのは私の為だ。
そんな彼が穏やかに口にしているのを見て、少しだけ怪異についての考えも変わったのかなと思う。
メリー【止めて】
メリー【本当にこの馬鹿!!】
メリー【仏のような顔でお礼なんてしないで】
メリー【もうその感情はお腹いっぱいなの!!】
感動的場面なはずなのに、メリーさんがガチギレしている。
どうしたのだろう。そういえば、今日のメリーさんは、何だかいつものメリーさんより少し神々しい様な気がする。髪の毛の色つやがいいというか……少し生き物っぽさがあるというか……。
カタカタ変な揺れ方もしないし。
「メリーさん、落ち着いて。どうしたの?」
メリー【どうしたも、こうしたも、ないわ!!】
メリー【天野が目を覚ました瞬間、私にものすごい感謝して来たでしょ】
メリー【さらに母親とか医者とか看護師まで、『神様ありがとうございます』とか言い出すし!!】
メリー【おかげで、私の存在が変質してしまったじゃない!!】
メリー【私は『メリーさん』という怪異なのよ!!】
変質って……今のところ見た目が多少変わったけれどそこまで変わってしまった感じはしない。ラインの調子もいつも通りだけど……ん? ラインの名前表示がちょっと違う。
いつもなら『メリー』だけだ。
なのに今の名前は『メリー(福の神)』となっている。……福の神?
「メリーさん、神様になったの?」
メリー【違う】
メリー【認めない】
メリー【あんな横暴な奴らと一緒にしないでちょうだい】
メリー【私はメリー。それ以上でもそれ以下でもないわ】
……なっちゃったんだ。
必死に否定するから余計に、そういう事なんだと分かりやすい。
「福の神というか、座敷童っぽいよな」
メリー【子ども扱いするな】
メリー【私は、柳田よりずっと年上なんだから】
「えっ。何歳なんだ?」
メリー【具体的な事は聞くなって言ってるでしょ!!】
メリー【大切な恐怖が薄れる!!】
メリー【私を畏れなさいよ!!】
メリー【元に戻れるまで、憑りついてやる】
零君、女の子に年を聞くのはタブーだよと思うけれど、これはわざとやっていそうだな。零君は天然に見せかけた計算キャラと思わせておいて、やっぱり天然という分かりにくい属性だけど、怪異が嫌いな人だ。それでもメリーさんには心を許しているからこれだけフレンドリーなのだろう。
「メリーさん。ここはメリー(さん)ハッピー(福の神)エンドということで駄目かな?」
メリーさんにとっては、メリーバッドエンドかもしれないけれど。
メリ友の身としては、メリーさんに憑りつかれるのは、ウエルカムだ。
メリーさんとのライン画面には【却下】と太文字で書かれたスタンプが押された。うん。そうだね。まだまだ私の人生にピリオードは打たれない。




