メリタクでGO!
メリー【私メリー。今、天野の家の前にいるの】
メリー【私メリー。今、公園の上にいるの】
メリー【私メリー。今、歩道橋の上にいるの】
メリー【私メリー。今、薬局の上にいるの】
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ピロン、ピロン、ピロン、ピロン。
スマホのライン通知が止まらない。でも私は書かれているであろうスマホを確認する事もできずにいた。ただひたすら、引きつった悲鳴がこだまする。
「ひぃぃぃぃぃぃ」
怪異でなければ、騒音の苦情が着そうだ。というか、メリーさん、早すぎでジェット機みたいな音とか出てない?
魂の重さというのは、21gらしい。今の私は、全ての女子高校生の羨望の的のような体重だ。そしてそれぐらいなら、メリーさんでも運べるということで、時間短縮でメリーさんに釣り上げてもらって飛行しながら、私の本体が眠る病院へ移動しているわけだけど……乗り心地は最悪だ。
怪異なので風圧でしゃべれないとかはないけれど、もう、死にそう。いや、怪異だけど。死ねないけど。
地上の何処かから、『あっ、鬼のお姉ちゃん』という声が聞こえた気がするけれど、メリーさんは止まらない。そしてあの小学生も霊感少年だったのかと思いつつも、私は鯉のぼりのように揺れている。
さながら、今の私は【恋昇り(こいのぼり)】か。あっ、今の表現結構よくないだろうか? なんて吹き飛ばされながら思う。多分冷静になったら、全然良くないパターンだな。うん。
空の上から見た町は、とても小さかった。
私が悩み疲れていた中学校も見えるけれど、もっと小さい。
その中の一クラス、更に人グループなんて、豆粒だ。なんだか、そう思えば、すっごく小さなことに悩んでいたんだなと気が付く。
中学校の頃は、あそこ以外に行き場がないと思っていた。
でも世界は凄く広い。
逃げる場所なんて、沢山ある。
「メリーさん。私が死んだら、また遊んでくれる?」
ピロンピロン鳴っているけれど、やっぱり確認はできない。
多分、死んだらさっさと成仏しなさいとでも書かれているんじゃないだろうか。うん。そうだね。今度は、思い残すことなくやり切って死のう。
そしてまた逃げ出したくなったら、今度はちゃんと体ごと逃げよう。
死ななくったってどうにでもなるし、逃げた先にだって、楽しいことはあるはずだ。
大きな病院が見えたと思った瞬間、一気に体が急降下する。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
まさにジェットコースターだ。死なないからって、速度制限無視のコレはない。そう思っても、落ちるのは止められない。
しかし地面にぶつかることなく、急ブレーキがかかり止まった。
心臓がないはずなのに、バクバク言っている。
「メリーさんありがとう。でも……安全運転……心がけて」
メリー【美味しい恐怖、こちらこそありがとう】
ラインの最後の言葉はそれだった。……そっか。アレもご飯になったんだ。なら、無駄じゃないし、良かったということにしておこう。
目に滲む涙はこの際無視だ。メリーさんの好意でここまで連れてきてもらったのだし、文句を言ったら罰が当たる。でも、メリタクは二度と利用しない。
メリー【天野の体は、五階のICUよ】
メリー【手術は成功したけれど、予断は許さないというところかしら】
メリー【家族面会しか認められてないけれど、特別に柳田は天野の母親の同意で一緒に入室してるわ】
……ICU? 手術?
「えっ。私、4月から眠っているだけじゃないの?」
勿論、輸液とか色々されていないと、ご飯も食べられないから困ってしまうだろうけど。まさか手術とか……一体どうなっているのだろう。
自分の体の状態が怖い。
メリー【一向に起きないから精密検査をされたの】
メリー【そうしたら、脳腫瘍が偶然見つかって、目が覚めないのはこれが原因では? となったみたい】
メリー【悪運が強いわね】
メリー【この事故で調べなかったら、その腫瘍がもっと大きくなって、二、三年後にはこっちの世界だったわよ】
「おおう。まさに災い転じて福となすだね」
この事故がなかったら、私、二、三年後に死んで、零君が病むのを指をくわえながら待っていないといけなかったのか。マジか。
凄い、強運だ。
メリー【人間万事塞翁が馬ね】
メリー【でもね。私は、天野が善人で、人を助けたから、神様も天野を生かそうとしてるんだと思うわよ】
メリー【私はそんな天野が好きよ】
メリーさんが凄いデレてる。えっ。何。どういう事?
私は逆にその言葉にドキドキする。そして気が付く。
「もしかして生き返ったら、私、怪異だったころの記憶をなくすの?」
まるでメリーさんの言葉が別れの餞のように思えた。




