私は生き返りたい
入学式のあの日。私は歩道橋から足を踏み外して——。
「え……どうなった?」
一瞬本当に体が浮いた気がしてドキドキする。青空が見えたと言う事は、仰向きに落ちたのだ。恐る恐る後頭部を触ってみたが、幸いにも陥没はしてないようだ。本体はわからないけれど。いや。本体陥没していたら……えっと、色々不味いよね。
メリー【思い出したのね】
メリー【大丈夫?】
メリー【私の事は覚えてる?】
「うん。……それは大丈夫」
メリーさんの事も零君の事も覚えている。でも私があの後どうなったのかわからない。落ちたところで、私の記憶は止まっている。
「ねえ。メリーさん。私、死んでる?」
打ちどころが悪ければ、階段から落ちたら死ぬだろう。しかも下はアスファルト……想像するだけで痛そうだ。そこから病院に運ばれたりした記憶などはない。ぷっつり、そこで記憶はエンドロールを打ち、気が付いた時にはもうこの怪異の生活が始まっているようだ。
メリー【生きてはいるわ】
メリー【柳田が会っている】
メリー【でもずっと眠っているそうよ】
「ということは、私は妄想からできているわけじゃなくて……あっ。生霊ってこと?」
そうだ。
体育館の妖精さんが生きている霊は生霊だと言っていた。そういえば、ちゃんと私の席はあるし、誰かが死んでないと言っていた気もする。
メリー【そういう事ね】
メリー【生霊だけど、行動範囲が決まっているから、地縛霊に近い形ね。全く動けないわけではないけれど、毎日同じ行動を繰り返すの。死んだ事に気が付かない霊の中には、そういうのも良く居るわ】
メリー【柳田が上手く天野と波長を合わせられないのは、生霊だからということもあるわね。アイツは死霊の方が波長を合わせやすいみたいだし。死霊は生霊よりも揺らぎが少ないのよ】
なるほど、生きているからこそ、零君を悩ませていたのか。
死んでしまえば、絶対生き返れないけれど零君とはもっと早く会話できたかもしれない。……どっちも、零君が病みそうだなぁ。
零君は人間関係をそつなくこなすし、私の悩みも一杯聞いてくれていたし、強い人だと思っていたけれど、蓋を開けてみればそうでもないのかもしれない。
当たり前だ。だって零君は頭がいいからどうやったら人に嫌われず穏便に終わらせれるかとか知っているけれど、同じ高校一年生で大人じゃない。大人っぽいところがあるだけの子供なんだ。
「メリーさん。私、生き返りたい」
メリー【生き返れば、嫌な事を避けられないわよ】
メリー【それでもいい?】
メリー【私は怪異である天野も、人間の天野でもどちらでもいいわ】
メリー【友達ってそういうものでしょ?】
「うん。ありがとう。でもね、私がね、生き返って零君を抱きしめたいだけだから」
甘えてしまってごめんねって伝えたい。
もう、大丈夫。きっとあの落ちた日、私は逃げ出したくてたまらなかったのだろう。だから忘れてしまった。
でももう大丈夫。
また苦しいことはあるかもしれないけれど、少なくとも味方はちゃんといると知った。それに恋する乙女の怪異としては、好きな人を悲しませ続けるだけの存在なんてまっぴらごめんだ。
「あっ。でも、どうやって元の体に戻ればいいんだろ……」
決意を新たにしたけれど、そんな簡単に戻れるなら、さっさと零君が戻してくれてそうだ。
首をひねっていると、ピロンとスマホが鳴った。
メリー【私の存在を忘れたの?】
メリー【私は憑りついた相手の場所まで行く怪異なの】
メリー【もちろん、天野の本体にだって案内できるわ】
ライン画面の最後には、スーパーマンのように空飛ぶ市松人形のスタンプが押されていた。




