メリーさんの特殊能力
メリーさんは恋する乙女の敵。そう認定すると共に、敵の情報はできるだけ貰わなければと思う。そもそも、柳田君はメリーさんの何を相談したかったのだろう。
……いや、普通にメリーさんと名乗る動く市松人形がやって来たら、相談したいのは分かるけど。柳田君があまりに動じてないせいで、混乱してしまう。最初もただのペット相談みたいだったし。
「えっと、メリーさんとうまくいってる気がするけど、何に困ってるの?」
すべてにと言われてもおかしくない。メリーさんと名乗る市松人形など未知の存在だ。
「女の子の気持ちってよくわかんなくて。裸にして風呂に連れ込んだら駄目なことぐらいは分かるけど」
「まず、丸洗いが駄目だからね。市松人形はお風呂で遊ぶ人形じゃないんだから」
女としてもあれだけど、そもそも市松人形は丸洗いは駄目だと思う。本来の手入れ方法はググらないとわからないけれど。
「メリーさんも言っていた。でもって、形状記憶機能があるから、洗わなくてもそのうち綺麗になるんだって」
「便利だね」
それ型崩れ防止的な機能な気がするけど……そういう表現にも使えるんだ。
「着替えも自分でできるし、ご飯も要らないから、同居するぶんには問題ないんだけどさ」
「……まあ、人形だもんね」
逆に何か食べたら怖い。きっと魂とか人肉とか血液とか、ろくなものじゃない。メリーさんは悪魔的な存在なのか分からないけど。
「というか、着替えはどうしてるの? 鞄とか風呂敷で運んでたの?」
家出スタイルの市松人形なメリーさん……シュールだ。ちょっと、意味分からない。
「四次元空間に保管してるんだって」
「本当に便利だね!」
それ、どこかの青い猫か狸のロボットの特殊技能だよね。食事がいらない分、メリーさんの方が上だ。今時の怪異って凄い。
「でも色々できるから不便なところもあってさ。メリーさん、髪が伸びるんだよ」
「あー……メリーさん、ロボットじゃなくて市松人形だもんね」
市松人形の怪異の髪が伸びるって普通だ。いや、市松人形の怪異がいるのが普通じゃないから、普通ではない? なんだかよくわからなくなってきた。普通ってなんだっけ。
「それで、目にはいるとよくないと思って切ったわけよ。そうしたら、ものすごく怒られて」
「切られるのは嫌だったんだ」
切られるのが嫌な理由は色々ある。呪いの市松人形としてほっといて欲しかったのかもしれないし、刃物を向けられるのが嫌だったのかもしれないし、好みの美容師がいるのかも……。怪異の美容師ってどんなのだろう。
うーん。
「写真を見てもらえば分かるけど、これじゃあ女の子としてもさ」
「ひぃ」
見せられた写真はあきらかに、呪いの人形だ。髪の隙間から、見える目が淀んで見えて恐ろしい。この間の自撮りとは大違いだ。ラインのアイコンは可愛らしさもあったのに。
「それで、ビフォア、アフター」
「ひぃ」
続けて見せられた写真に私は悲鳴をあげた。これはない。
「これは可哀想だよ。女の子なんだよ?!」
「でも髪なんてすぐ伸びるし」
「女心が分かってなさすぎるよ」
敵認定はしたけど、これは同情する。怒って当たり前だ。
スマホには坊主頭にされ、死んだ目をした市松人形が写っていた。