天野さんの味方
メリーさんの髪をを整え、すっきりした所で、私達は私の家に向かう事にした。
今日のメリーさんはストレート髪に、大きな赤いリボンを後ろに付けた髪型だ。折角だから、服もはいからさん風にしたかったけれど、流石に公園でメリーさんを裸にするわけにはいかないので諦める。例え人形でも、女の子の素肌を見せるのはタブーだ。
「そういえば、メリーさんも私が怪異なのは気が付いていたんだよね」
歩きスマホをしながら、私の腕の中にいるメリーさんに声をかける。
メリー【もちろん】
メリー【分かった上で柳田に協力していたの。前に言ったでしょ。恨みもあるけれど、借りもあるって】
メリー【でも今天野を守っているのは、柳田に言われたからじゃないわ】
友達だからですよね。
メリーさんは恥ずかしくなったのか、そこでラインの言葉は止まった。照れるメリーさんも可愛いなと思ったけれど、すねられると困るので黙っておく。
「ジェイソン君を紹介してくれていたのも、その関係だったの?」
メリー【ええ。ジェイソン君は安全だし、学校の中を徘徊しているから情報通なの。だから顔合わせをさせておきたかったのよ】
メリー【髪に関しては、実際に欲しかったらしいし。まあ、所謂みかじめ料的なものね。その代り、ジェイソン君は的確に私に声を送ってくれたわ】
メリー【私が天野が学校で恐竜ゾンビに追いかけられているのを知れたのは、ジェイソン君のおかげよ。彼、体育館の妖精とも仲がいいから】
「えっと、変な事聞くけど、ジェイソン君は喋れるの? 声帯がないけど」
無口だと聞いていたけれど、私は喋っているとこは見ていない。そもそも骨だし、骨が出す声というのもなんだか変な感じだ。
メリー【骨伝導よ】
……まあ、怪異だし。人間の論理で考えるのがそもそもの間違いな気がしてきた。メリーさんの言い方だと、骨伝導がまるで骨を使ったテレパシーのように聞こえるけれど、深くは考えないでおこう。ジェイソン君はジェイソン君だ。それ以外の何物でもない。メリーさんが喋るというのならば、喋るのだろう。
「メリーさんは花子さんの事は気が付いていなかったんだよね? あっ。メリーさんを疑っているわけではなくて……その。安全だと言っていたのに、あんな状態になっていたから」
メリー【相手は元神だからね。格の問題で、花子さんの方が私より上で、まんまと隠されたのよ】
メリー【でも私はいずれ、世界的に認知を得た大怪異になる女】
メリー【今回は後れを取ったけれど、腐臭は覚えたわ。どんな姿でも次は切り裂いてやる】
メリー【今度会ったら、先に見つけて先手必勝よ】
メリーさんは人形なので実際には動いていないけれど、ラインのメッセージからはボクシングのポーズをしてストレートパンチをしている姿が思い浮かぶ。かなり好戦的だ。
「無理はしないでね」
頼もしいし、実際髪の毛で相手の動きを封じていたので、メリーさんは強いんだと思う。だって、ティラノザウルもどきはメリーさんの何倍も大きかったのだ。それなのに力負けしないとか凄すぎる。もしも格というものがメリーさんの方が下でなければ、髪で切り裂いていたのではないかと思う。
でも格が問題なら、もしも本物の神様なんかが出てきたらメリーさんはひとたまりもないのではないだろうか。友達だからこそ、無茶はして欲しくない。
メリー【ふん。天野よりは無茶はしないわ】
ごもっともです。
でも柳田君に何かあったり、友達に何かあったらやっぱり体が先に動いてしまいそうだ。もしかしたら、これも自分が怪異だからなのかもしれない。私は死への恐怖が薄い気がする。……そういえば、最近【痛い】と感じる事がなかった。怪異であるために痛みとかが鈍い、もしくは感じなくなっているのかもしれない。
痛みというのは、色んなブレーキになるものなので、それが壊れているならば気を付けないといけない。
「あっ。シロ。ただいま」
いつもとは違う時間だというのに家の前では忠猫のシロが待っていてくれた。本当にこの子はいい子だ。……でも、私を認識してくれているということは、シロは見える猫だったのか。流石シロ!
しゃがみこみシロを撫でていると、ピロンとスマホが鳴った。
メリー【出たわね。クソ猫】
メリー【こいつよ】
メリー【こいつがいつも突然私を連れ去る、不届き者よ!!】
メリー【この恨み忘れない】
メリー【キリキリキリキリ】
「にゃー」
「えっ。メリーさん?!」
もしかしてゴミ捨て場に置き去りにしたり、公園に連れ去ったりしたの、うちのシロ?
メリーさんはカタカタ震えてお怒りな様子だったが、シロは一鳴きした後マイペースに髭を触っていた。




