私は怪異
闇堕ち花子さんの浄霊に成功した。
さて、浄霊に成功したのはいいけれど、今の私は柳田君に後ろから抱きしめられた状態だ。恋する乙女としては、ドキドキイベントだけれど、私の存在が怪異かもしれないと思うと、素直にドキドキしている場合ではない気がする。
「あ、あの。えっと」
「お願いだから、無茶をしないでくれよ!!」
「あ、あはは。そうだよね。うん」
柳田君の激おこはまだ収まっていなかったようだ。説明不足だったのも分かっているので素直に怒られるしかない。
それでも、あの時私はできると思ったのだ。
感覚的なものなので、上手く説明できないけれど。
「本当に……本当に。頼むよ……」
「ごめんね」
怒っていると思ったけれど、私の背中で柳田君は泣いている様な気がして謝った。それで許されるか分からないけれど、どうやら私は柳田君を泣かせる程度に彼に好かれているらしい。
「……柳田君」
「何だよ」
「あのね……。私は……人間じゃないんだよね」
ビクッと柳田君が揺れた。
「……天野、いつからそれを――」
「ついさっき。花子さんを見て気が付いたんだ。やっぱり柳田君が気が付いていないわけがないよねぇ」
柳田君は幽霊が見える人なのだ。
きっとあの教室で、私の存在を認識していたのは柳田君だけだった。私が教室で無視されていたのは、当たり前だ。そもそも誰も私を無視をしている認識がなかった――姿が見えていないのだから。
「柳田君は、多分だけど……怪異、嫌いだよね? まあ、嫌いじゃなくても、いい感情は持っていない」
「……どうして、そう思うんだ?」
「柳田君はさ……怪異が見える事が好きじゃなかったんだよね。だから私がそれを肯定的に捉えた時『この力も悪くないなって、久々に思っただけ』と言っていた。その後も、怪異とは仲良くならない方がいいとか、怪異は嘘をつくとか……本当の事でも、好きだったらもっといい方があると思ったんだよね」
あの時の柳田君は、怪異に対していい感情があったとは思えない。
私が危険にさらされるからというのが理由かもしれないけれど、元々好意的だったら違ったはずだ。それに花子さんが居る場所を柳田君は知らなかった。男子である柳田君は勿論会う機会はないだろうけど、そもそも怪異と関わりたくなくて情報自体避けていたんじゃないかと思ったのだ。
「それでも、メリーさんを拾ったのは理由があるの? それから私がメリーさんと関わるように、あえて柳田君は声をかけてきたよね?」
私からメリーさんにぶち当たりに行ったのではなく、始まりは柳田君のペット相談だ。まさかそのペットが市松人形のメリーさんだとは思わなかった。
メリーさんはいい怪異だと思う。怖いけれど、優しい。多分、体が子供の玩具だから、面倒見がいいのだ。柳田君もそれは認めていた。
でも怪異が嫌いなら、そもそも殴って終わりでメリーさんを飼おうなんて発想はなかったはず。
「メリーさんへの嫌がらせも、怪異だからなの?」
「えっ? 嫌がらせなんてしてないけど。メリーさんには助けてもらっているわけだし」
「……あー。あれは柳田君の天然の方なんだ」
髪の毛を切りすぎたり、服を汚したり、般若心経で寝かしつけしたり……。メリーさんも柳田君を恨んでるし、嫌いだからこその嫌がらせかもと思ったけれど、あれは天然だったらしい。うん。それは良かった。柳田君が、そういうせこい嫌がらせをする男じゃなくて。
でも嫌がらせではないならないで、メリーさんの扱いが問題な気もするけれど。それを含めて天然なのが柳田君だ。
「私は怪異だけど、柳田君は嫌いにならないの?」
「……一生ならない」
一生とはまた長い。
重い発言だけど、恋する乙女なのでちょっと嬉しい。でも柳田君は、私に対して、色々隠し事をしている。
その理由は何なのか。
そして……柳田君の好きな人。それは一体誰なのか。状況は凄くこんがらがっている様に見えて、かなりシンプルな気がしてきている。
でもまだ上手く私は答えにたどり着けず、天を仰いだ。




