恋する乙女とメリーさん
私が好きな柳田君はマイペースな人のようだ。とりあえず、メリーさんとの出会いは分かったけど、その後は大丈夫だったのだろうか。今大丈夫だから、大丈夫だとは思うけれど。メリーさんって会ったらどうなるんだろう。
「その後、どうなったの?」
「えっと。タックルしてきたから受け止めて、頭を撫でたかな。でも、メリーさん、子どもやペット扱いは嫌みたいでさ」
ほら、と見せられたスマホの画面にはメリーさんだけの会話が並んでいた。……柳田君が口頭なので、そうなるのは当たり前だけど、なんだか違和感ありまくるライン画面だ。まるで、独り言というか……無視られた寂しい子みたいというか、ストーカーみたいというか、うーん。あ、でも間違いなくメリーさんはストーカーだ。私だってまだ、柳田君の家がどこなのかも知らないのに彼女は鞄に入ってついていったのだから。しかもちゃっかり柳田君の部屋にまで入ってるってズルい。
そう思うとメリーさんへの同情心が目減りした。
メリー【ちょっと。髪の毛がぐちゃぐちゃになるから触らないで】
メリー【子ども扱いしてるんじゃないわよ】
メリー【お前はム◯ゴロウさんか。やめなさい。猛獣じゃないわよ。放しなさい!】
メリー【分かった。分かったから、鞄はもうやめて!】
何が起こったのか分かりにくいラインだ。ただ、やめての後に、ペコペコ謝るスタンプが押されているのが、シュールというか。メリーさん、自撮り写真でも思ったけれど、使いこなしている。
「柳田君、メリーさんに何やったの?」
「えーと。最初は頭をぐしゃぐしゃして、その後、優しく撫でて。ムツゴ◯ウ……あっ。あんまり暴れるから、よーし、よしよしって言いながらポンポン背中を撫でたりしてたんだ」
暴れる市松人形と一対一で部屋にいるという状況だけで、私なら半狂乱になりそうだ。でも柳田君は猛獣というか、癇癪をおこした子どもをなだめるようにナデナデしていたのか……。
勝手に部屋まで入ってきて、私服まで見た羨ましすぎるストーカー相手に柳田君は優しいな。
「だけど俺も宿題やらないとだから、最終的に宿題終わるまで鞄に入れるって言ったら、動かなくなったんだよな。メリーさんがわかってくれて嬉しいかったなぁ。たとえ言葉が通じなくても、動物とはわかり合うこともできるんだなって」
「言葉は通じてると思うよ。話せないだけで」
通じてないのは言葉ではなく常識的な部分な気がしたけれど、私は黙った。沈黙は金だ。
「そっか。犬とか猫もわかってるって言うもんな」
「……そうなのかな?」
メリーさんの分類が犬猫くくりでいいのかわからない。でも、確実にしつけられてるのは分かる。相当、体操服やお弁当箱と一緒の鞄に閉じ込められたのがこたえたようだ。その後、しばらくラインも止まってる。メリーさんも宿題を優先させたようだ。
「なら、この後は宿題をやってたの?」
「うん。で、終わったら風呂入って、メリーさんと寝た」
「えっ。同じベットで寝たの?」
「また暴れるからさ。トントンってお腹の辺り叩いて寝かしつけたんだ」
今まで同情的な気持ちがあったけれど、恋する乙女な私はメリーさんを同情するのをやめた。
くっ。怪異とはいえ、柳田君の添い寝とか羨ましすぎる。許すまじ、メリーさん。