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天野さんと恋心2

 自分にないものを見て、自分の存在が歪んだものだと気が付いた。

 果たして、柳田君達は気が付いていたのだろうか。……気が付いていたんだろうな。思えば、色々意味深な事を言われていた気がする。

 私は死んでしまったのだろうか?

 記憶の欠損の所為で、どうしてこんな状態になっているのかも分からない。ただ、分かることは、ここで悪意に食べられて、柳田君に会えなくなるのは嫌だなという想いだけだ。

 かといって、万事休す。

 怪異との距離と、気が付いてしまった現実を前に、逃げきれるイメージが湧かない。それに私は、花子さんが拾った恋心に同情してしまっている。


『オネガイ』

『タベサセテ』

『キレイニナリタイ』

『コンナオモイ、イヤ』

『コンナジブン、イヤ』

『キライ、キライ、ジブンガキライ』


 なんと伝えればいいのか分からなかった。

 ただとにかく、慰めたくて声を出そうとした瞬間だった。ピロン、ピロン、ピロンとけたたましく私の携帯が鳴る。

 あまりに鳴り続けるので、迷ったけれどポケットから取り出し、確認した。人との会話時のスマホ確認はマナー違反だけれど、ちょっと五月蠅過ぎる。


メリー【私、メリー。今、教室にいるの】

メリー【私、メリー。今、廊下にいるの】

メリー【私、メリー。今、昇降口にいるの】

メリー【私、メリー。今、校庭にいるの】

メリー【私、メリー。今、校門前にいるの】


「メ、メリーさん?」

 ラインにはコメントがどんどん書かれていた。早い。あまりに早すぎて、まさに神業。タップのスピードが音速になっている。絶対柳田君では追い付けず、途中であきらめてしまうレベルだ。

 勿論私も、音速タップの前には敗北の二文字しかない。

 現役女子高校生(仮)だけれど、友達がいないので、こんな神打ちできる技術は獲得できていない。


メリー【見たわね】

メリー【既読】

メリー【既読】

メリー【既読】


「ひ、ひいっ!」

 スマホを落としそうになるほどの熱烈な既読確認。私は引きつった悲鳴を上げた。流石はメリーさん。安定して今日も怖い。

 

メリー【私、メリー。今、自動販売機前にいるの】

メリー【私、メリー。今、信号前にいるの】

メリー【メリ友なら、こんなところで消えないでよ】

メリー【私、メリー。今、横断歩道橋にいるの】

メリー【すぐ行くから】


 メリーさんの言葉に励まされ、私はティラノサウルスもどきを見据えた。そうだ。私はまだ消えられない。だって、私は柳田君に何も伝えていない。

 私はどうして怪異になってしまっているのかは分からない。記憶も曖昧な部分があって、本当に【私】なのか、存在自体も不安だ。でもこの恋だけは嘘じゃない。

 私は間違いなく、柳田君に恋する乙女なのだ。ならきっと、私がここに存在する理由はこの恋を昇華させてやることに違いない。間違っても、食べられて消滅させられるためではないはず。

 

 私がティラノザウルスもどきを睨みつけている間も、スマホはピロンピロンと鳴り続ける。スマホは大切にポケットにしまったので言葉を受け取る事はできない。でも確実にメリーさんは助けに来てくれているのだと思えば心強い。

「私は、貴方にあげられないよ」

 私は先ほどよりはおぞましさを感じない花子さんを見る。

 アレもまた恋心なのだと思えば、ただ否定し、拒絶するのはためらわれた。それでも、私はアレになるわけにはいかない。


『ヒドイ……』

『ヒドイ……』

『ヒドイ……』


「うん。そうだよね」

 恋の中でも幸せな感情が中心で出来ている私。どちらも欠けては恋ではないのに。

 あの恋だって、決してああなりたいわけではなかったはずなのだ。


「お前ら、天野に近づくなっ!!」

 私が同意した瞬間だった。巨大なティラノザウルスもどきの体がぐらりと傾き倒れた。

 グシャッとわずかに飛び散る肉片なのか良くわからないソレに、私はひっと小さく悲鳴を上げて後ずさる。

 そして私の前には、肩て息をしながら凶悪な表情をする柳田君と、使い魔のように空を飛ぶ市松人形――メリーさんが現れた。だがこちらも、間違いなく正義の味方な表情ではないし、メリーさんにいたっては悪魔的だ。


 あれ? 柳田君ってこういう人だっけ?


 恋する乙女フィルターで覗いても、ちょっと怖い姿に、私は首を傾げた。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] メリーさんと柳田くん登場! 天野さんの危機に颯爽と登場するも、凶悪な表情と空飛ぶメリーさんが恐怖感をあおりますね。 怪異にとってはおそろしいだろうなあ。 大抵のことはスルーしそうな天野さん…
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