三不思議の体育館の妖精さん
柳田君に暴言を吐いて、私はその場を逃げ出してしまった。
でも友達の多い柳田君には、相手が怪異である花子さんだとしても仲良くしたい、私の気持ちなど分からないだろう。あんな風に声をかけられたのは初めてなのだ。
「あああああ。やってしまった」
校舎を出て、体育館の渡り廊下まできて、私は足を止めた。何やってるんだろう。柳田君は私を心配してくれたのに。
深くため息をつきながら、しゃがみこんだ。
柳田君は好きだし、心配してもらえて嬉しいけれど、ボッチの辛さを分かっていない。学校でも家でも話し相手がいないのだ。家ではシロが聞き役をしてくれるけれど、シロは話してはくれない。メリーさんとは仲良くなったけれど柳田君と繋がっているし。それに時折無性に人の声が聞きたくなる。
「そんなに駄目かなぁ」
体操座り状態で、私は落ち込んだ。
今までの感覚なら、駄目だと思っただろうけれど、メリーさんも昭和の小学生も骸骨も花子さんも、怖いけれど、怖くないというか……とにかく、ただ怖いだけの存在ではなかったのだ。そんなに彼らと深く付き合うのは駄目だろうか。
勿論人間の友達を作れればそれが一番だろうけれど、今の私は無視されることが多い。
「あー、友達が欲しい」
そうすれば、別に花子さんにこだわることもないのだ。
友達さえいれば、柳田君との事だって相談できるし、寂しくないし。
『分かるわぁ。一人で生きていくって思っても、人って誰かと繋がりたいのよねぇ』
突然野太い声で、同意を得られた為、私はビクッと肩を揺らした。……えっ。誰?
不審者の三文字が頭に浮かび、慌てて顔をあげた。
「ぎゃっ。化け物っ?!」
『失礼しちゃうわ。怪異ではあるけれど、私は化け物ではないわよ』
顔をあげた瞬間、目に飛び込んできたのは、ひげ面の男だった。ただし、服はセーラー服を着ている。胸筋が発達しているので、胸もあるように見えるが、明らかに筋肉のなせる業だ。
足のすね毛はちゃんと処理してあるけれど、かなり筋肉量が多い上にミニスカなので、色んな意味で視界の暴力を感じる。
うーん。でも、服の趣味は、本人の自由だしなぁ。周りの為に、私だって制服を着ているわけではないし。そう思えば、服に関してどうこう言うのはマナー違反だ。
男がスカートを履いてはいけないという法律はない。
「ごめんなさい。えっと、怪異……なんですか?」
『ええ。体育館に住んでいる幽霊よ。体育館の妖精とも呼ばれているわ』
私が化け物といった事を謝れば、あっさりと目の前の女装した怪異は許してくれた。
それにしても妖精って……駄目だ。私の知ってる妖精じゃない。
「よ、妖精。えっと、妖怪的な存在なんですか? あれ? でも幽霊って。そもそも怪異なのに、何で姿も声も分かるの?」
『正体は幽霊よ。でも、掃除をこっそりするから学生には妖精って呼ばれてるの。普段は見えないし、声も届かないから。きっと貴女とは波長が似てるのね』
そうか。波長が、似てるんだ……。
差別は良くないと分かっていても、あまりにインパクトがある外見の所為で、似てると言われても喜べない。……というか、幽霊なんだ。
不審者情報に載りそうなセーラ服おじさんなので、また誰かの妄想の産物かと思った。ジェイソン君でBLできるつわものが、この学校にはいるのだし。
「あの。幽霊ということは、その姿は生前のものなんですか?」
『まさかぁ。これは死んでからの趣味よ。生前は、これでもちゃんとサラリーマンをしていたの』
「……はぁ。えっと。サラリーマンなのに、セーラー服なんですね」
美少女戦士に憧れたのだろうか?……コスプレ。そう。コスプレだと思えば、不審者度が下がる気がする。
ここはコスプレ会場じゃないけどね。
『私、女になりたかったのよね。高校生ぐらいの時が一番悩んでたわ。でも生前はセーラー服なんて着れなかった。だから、死んでから母校でセーラー服を着て漂っているのよ』
「卒業生だったんですね」
幽霊だと言ったので、ジェイソン君や花子さんとはまた別だとは思ったけれど、どうやら彼は私の先輩だったらしい。サラリーマンをやっていたというのだから、そこそこ年上の可能性が高い。
『ええ。今の貴方と同じ、人間関係に悩むオトメンだったわ』
オトメンかぁ。
男の娘というには育ち過ぎているからねぇ。
私はツッコミを放棄して、曖昧に笑い誤魔化すのだった。




