天野さんの友達
柳田君は特に私の恋心に触れるような話題を出さなかった。おかげで和やかな雰囲気のまま保健室へたどり着く。……本当に私の気持ちに気が付いていないのだろうか。うーん。そんな気もするし、そうではない気もして、さっぱり分からない。柳田君の天然加減が、余計にどっちか分かりにくくする。
「あっ。先生いないんだ。……どうする?」
保健室には鍵がかけられ、ドアに『不在です。休みたい方は職員室の先生から鍵を借りて下さい』と書かれていた。
職員室か。流石に仮病だとバレそうな気がする。
「仕方がないし、教室に戻ろうか」
「いいの? あれなら、鍵は俺が貰ってくるから。でも俺の近くには居て欲しいけど」
近くにいて欲しいという言葉にドキリとするが、恋愛的な意味はないことを知っているので、怪異関係故の言葉だろう。
「近くにいて欲しいって、妙な気配がするから?」
「そうなんだよ。妙にざわざわするというか、どうにも落ち着かなくて。天野が近くにいないと不安なんだ」
言い方!!
ものすごく特別扱いされている気分になるので、表現方法は気を付けて欲しい。でも下手にそういう注意をすると藪蛇になりかねない。引導を渡されてしまいたいけれど、忍ぶ恋を続けたいジレンマ。
「天野は怪異に、不用意に近づかないで欲しいんだ」
「不用意にと言われても、いつだって向こうから突然現れるからなぁ。さっきも、花子さんから声をかけてきたし」
メリーさんも、昭和の小学生も、骸骨も現れる時は突然だ。私の心の準備なんか待ってはくれない。
「えっ。あそこが、花子さんが居るトイレだったのか……」
そういえば、柳田君は花子さんに会ったことがないんだっけ。
花子さんと言えば女子トイレ限定の怪異だ。男子である柳田君が立ち入るにはハードルが高過ぎる。
「花子さん、凄くいい怪異でね、色々話を聞いてもらったんだよ。しかもイメージとちょっと違って、男前の王子様みたいな話し方だったんだ」
花子さんと言えば、私の中では小さな女の子のイメージが強かった。でも話した感じは、宝塚系の王子様だ。ここは高校だから、一般的なイメージとは違ってくるのだろう。
「姿を見る事はできなかったけれど、あんな王子様みたいな人が本当にいたら、女子は皆恋しちゃうかもしれない感じだったなぁ」
「……仲良くなったところ悪いけど、あまり怪異と親密にならない方がいいと思う。できれば、あのトイレは使わないで欲しい」
怪異だけど新しい友達ができたみたいで少し嬉しかった話をすると、柳田君が少しムッとしたような表情で花子さんと仲良くなるのを反対してきた。
「使うなって……柳田君だって、メリーさんを私に紹介して来たよね? メリーさんだって怪異じゃないの?」
何だか納得がいかず、私は柳田君に言い返した。声も少し低くなってしまったかもしれない。でも何故咎められなければいけないのか全然理解できない。
「メリーさんは……その。安全だし。俺も一緒だから――」
「花子さんだって、とってもいい怪異だったんだって」
メリーさんは、まあ色々怖いけど、でも私に何か酷いことをするとは思えない。恋も応援してくれているのだから、私だって悪い怪異ではないと思っている。でもそれなら、花子さんだって同じだ。
「怪異は、嘘をつくんだ。だから絶対安全だということはあり得ない」
「メリーさんだって、花子さんは大人しいって言ってたよね?」
いじめや犯罪が嫌いな怪異。何かするとしても転ばせる程度だ。
それに私の恋を肯定してくれた。
私は学校でも家でもボッチだから、誰にも相談できない。だから、花子さんが泣いていいと言ってくれて嬉しかったのだ。
私はずっと泣けなかったから――。
「私は柳田君みたいに、話を聞いてくれる友達がいないんだよ?! 花子さんとは仲良くなれそうなの! 会うなとか言わないで」
言ってしまってから、私はハッと口を押えた。
恥ずかしい。
自分がボッチだと宣言して八つ当たりするなんで。それにこんな言い方をしたら、柳田君が友達ではないと言っているようだ。
柳田君は、ただ私を心配してくれているだけなのに。こんな自分だから、友達の一人もできないのだと思い知る。
「あ……あの。ごめんね!!」
私は居たたまれなくて、その場から逃げだした。




