柳田君の心配
忍ぶ恋をしてみようと思ったけれど、ここまで柳田君が迎えに来てくれたということは、やっぱり私が柳田君の事が好きだから顔を会わせにくかったとバレていそうだよね。本気で体調不良を心配してトイレまで来たわけではないだろうし。もしも体調を本気で心配したなら外から声をかけるだろう。
柳田君から恋の引導を渡されるのも時間の問題かもしてない。それでも、それも覚悟の上の忍ぶ恋だ。柳田君の負担にならない範囲と、引き際の見極めは忘れない。
終わりを迎える日が、例え今日、今この瞬間になったとしても。
「……柳田君は、どうしてわざわざ迎えに来てくれたの?」
保健室に向かう途中、できるだけさりげなく聞く。柳田君は結構スパッと物事を言ってしまうタイプな気がするので、こんな質問をすれば本気で引導を渡されそうだ。でもやる時は、一思いにやって欲しい。
「最近、何だか妙な気配を感じるから、心配になったんだよ」
「……ん? 妙な気配?」
「そうなんだ。上手く俺に感づかせないように動いているみたいで、上手く見る事ができないんだよ。逆にそれが怖いというか。多分、かなり力の強い怪異じゃないかって思ってる」
まさかの妖怪アンテナ系の関係で心配されていた。
とうとうバレたと思ったのに。柳田君は柳田君らしい。でも心配されていたというのは素直に嬉しい。花子さんが言うように、恋人ではなくても、彼の大切の人の一人にはなっているのだ。
「妙な気配を気にするって、柳田君は幽霊とか妖怪を退治する系の人なの?」
「まさか。天野さんが危ない目に合わないように気にしているだけで、そんな正義の味方みたいな事しないよ。自分の身に降りかかる火の粉は払っても、わざわざ殴りに行くって、バイオレンスすぎない? 怪異にも色々いるんだし」
「あー。確かに」
お金をもらって依頼を受けるなら、怪異を退治もありだけれど、相手が何もしてなくても積極的に殴りに行くとか、色々怖い。
「って、私の為なの?」
「うん。天野さんは、怪異にはとても魅力的に見える可能性が高いから」
そんなに美味しそうに見えるタイプだろうか。
……あー、でも。確かに私は、人よりも怖がりだ。怖いという感情をメリーさんは食べるのだと言っていたのだから、私は極上のご飯を用意できるタイプなのかもしれない。
「そっか。ありがとう。柳田君が霊感少年で良かったよ」
私は霊感がないので、柳田君が居なければ、勝手においしいご飯となっていたはずだ。今まで無事だったから、よっぽど大丈夫だろうけど、必要以上に怖がり続けるというのも結構疲れるのだ。
「柳田君?」
私がお礼を言うと、柳田君は虚を突かれたような顔をして固まっていた。そんなに変わったことを言っただろうか?
そういえば柳田君は、霊感少年である事を内緒にしているんだった。もしかしたら、霊感少年であることで嫌な事を言われたこともあるのかもしれない。この世の中のほとんどの人は、私と同じで怪異なんて見る事ができないのだ。そして見えないということはいないと同じ。いないものをいるという柳田君の事を異常扱いするかもしれない。
「あ、霊感少年扱いされるの、もしかして嫌だった?」
「……ううん。この力も悪くないなって、久々に思っただけ。天野はやっぱり天野なんだよな」
「えっ。それ、褒めてるの?」
「褒めてる。サイコーって事」
私が単純って意味では? と思ったけれど、柳田君にとっては褒め言葉だったらしい。まあ、喜んでくれるならいいかと単純な私は納得するのだった。




