柳田君とメリーさんの出会い3
いつでもラインはメリーさんのターン。そんな感じでメリーさんのマシンガントークが続いていたが、しばらくしてようやく柳田君のコメントが入った。
柳田【はやい】
メリー【遅いわよ。早くしなさいよ】
メリー【私メリー、今貴方の鞄にいるのよ。早くしなさいよ】
メリー【とにかく、体操服出しなさい。親にも言われてるでしょ】
メリー【ちょっと。お弁当箱も入れっぱなしじゃない。ふざけるんじゃないわよ】
メリー【鞄、開けなさいよ】
柳田【ゆっくり】
メリーさん早いよ。早すぎるよ。柳田君、変換も押せてないよ。いや、柳田君が遅すぎるかもだけど。
後、体操服とお弁当箱は帰ったらすぐ出した方がいいと思う。メリーさんがお母さんの味方になってる。
「とりあえずメリーさんを出してあげなかったの?」
打つの遅くても鞄は開けられる。この時柳田君はどうしていたのだろう。
「いや。状況がよく分からなかったし、カップラーメンのびたら嫌だったし」
「あー。片手だったんだ」
そりゃ間に合わない。
ただでさえメリーさんのコメントは女子高生並に早いのだ。でもカップ麺のびたら辛いよね。気持ちは分かる。美味しいものは美味しく食べたい。
柳田【はやい】
柳田【まって】
柳田【食べ中】
メリー【のんきに何、食べてるのよ。この状況で普通食べる? というか、何時だと思ってるのよ】
柳田【ウルトラカップ、豚骨】
メリー【商品名聞きたいんじゃないわよ】
柳田【お湯を注げば3分でできる、インスタントカップラーメン】
メリー【カップ麺ぐらい知ってるわ! そういうこと言ってるんじゃないの!】
柳田【?】
柳田【21時】
メリー【違う!! そこでもない!!】
もはや二人の会話がコントだ。しかも柳田君、途中スタンプを使って【?】を表現してる。メリーさん相手に緩い。この時点で、鞄の中の市松人形と目があっているはずなのに。
状況がわからないにしてもマイペースだ。
メリー【食べ終わったら出して】
柳田【了解!】
……メリーさんが折れた。心も折れてないだろうか。
その後も一方的に【まだ?】 や【急いで食べて】などの言葉がきている。普通なら、一方的に大量のラインがきたら恐怖を誘いそうなものだけど、どうにもメリーさんの方が可哀想な気がしてくる。子どもが親に「まだ?」と足元でずっと言ってるかのような構図だ。
「それで食べ終わった後、鞄を開けて体操服と弁当箱を片付けてから市松人形を取り出したんだ」
「あー……、メリーさんも気にしてたもんね。でも文句言われなかった?」
「いや。とくに?」
諦めたのか。
そういうの、大事だよね。
「で、市松人形を取り出したらまた通知がきてさ」
メリー【私、メリー。今、貴方の目の前にいるの】
柳田【俺、柳田零。いm】
柳田【ごめん。誤送信】
柳田【俺、柳田零。今、市松人形の前にいる】
メリー【普通にしゃべって。遅いから】
「ラインで送ったんだ」
「だって、ラインで通知が来るからさ。こっちの方がいいのかなって」
無事メリーさんは柳田君と出会えたようだが、彼はメリーさんをも振り回すマイペースな人だったようだ。