柳田君と恐竜
ツインテールにかなりの好反応を貰えた日から、私はたまに放課後だけツインテールにしている。名目はメリーさんと一緒にお洒落をしているということにした。……正直苦しい気もしなくもないけれど、相手は柳田君だ。多分私が柳田君の気を引こうとしているなんて思ってもいないだろう。
「そういえば柳田君は、恐竜が好きなの?」
「あー。まあ、それなりに?」
恐竜の幽霊を探しているような感じだったので、恐竜が好きなのだろうかと思ったけれど、反応は芳しくない。うーん。そんなに好きというわけではないのだろうか。
「恐竜の幽霊を探しているみたい事をメリーさんが言ってたんだけど、そうでもない感じ?」
「まあ、ものすごく好きかと言われたら微妙だけど、好きか嫌いかでいけば好きな方かな。ほら、フタバスズキリュウとか可愛いし」
「ああ。猫型ロボットの映画で出ていた子だね」
フタバスズキリュウは日本近海に住んでいたとされる首長竜の名前だ。白亜紀後期に生息していた恐竜で、この化石が出るまでは日本には大型の恐竜の化石は見つかることはないとされており、この発見により化石発掘が活性化したというムネアツな竜である。
「そっか。無難に、ティラノサウルスとかトリケラトプスとか、有名どころを探しているのかと思ったんだけど違ったね」
恐竜と言えば、肉食恐竜の王様と、植物食恐竜の中でも大型の角竜の彼が有名だと思う。スーパーサウルスみたいな大きいものがいいという人もいるだろうし、プテラノドンみたいな翼竜が好きな人もいるだろう。もしくは鳥の祖先とも言われる羽毛恐竜とか、鎧竜のアンキロサウルスもアツい。
「まあそれも好きだけど、でもその辺りは日本にはいないだろ? だったら、幽霊もいないだろうし」
「確かに。大昔は陸続きだけど、発掘された北アメリカ大陸は遠いもんね。恐竜の幽霊も死んだところから大陸越えてまで移動する理由もなさそうだし」
「……天野って、本当に恐竜に詳しいよな」
柳田君に指摘されて、私は目をぱちくりさせた。
言われてみれば、私、結構恐竜について知っているみたいだ。私自身恐竜は嫌いではないけど……こんなに知ってたんだと改めて思う。
「えっと。おかしいかな? 女子で恐竜に詳しいって珍しいよね」
「全然。おかしくないし、俺は話が合うから嬉しいけど?」
「良かった」
柳田君なら偏見の目で見ることはないと思ったけれど、かなりマニアックに恐竜について知っていそうな自分に、私自身がドン引き気味だ。女子高生が嬉々としてひけらかす知識ではない。いつ勉強したんだっけかなぁ。
「昔さ。俺が幽霊が見えるって話した子に、恐竜の幽霊もいるのって聞かれて。それから探してるんだ」
「へぇ。そういえば、柳田君は幽霊が見えるのは、クラスの友達とかには話してあるの?」
懐かしそうな目をする柳田君を見て、ちょっとだけ胸がチクリとする。恐竜の幽霊がいるかを聞いた子は、柳田君にとって重要なポジションにいる子な気がしたからだ。幼馴染という奴だろうか?
「いいや。言ってないよ。普通は見えないし、信じないから。だから俺が幽霊が見えるということは、俺と天野だけの秘密な?」
ニッと笑って、人差し指を口の前に持ってきた柳田君を見て、ドキリとする。そっか、柳田君との二人だけの秘密かぁ。
我が家に猫が居て、かつ、メリーさんが柳田君にとりついてくれてよかった。
別にどうってことはない話だけれど、二人だけの秘密という言葉に、特別な存在になれた気がして、少しだけ嬉しくなった。しかしちょっとだけ舞い上がってると、ピロンとスマホが音を立てた。
メリー【私を忘れないで】
うん。大丈夫。忘れてないよ……えへ。




