柳田君とメリーさんの出会い1
現在私が恋をしている柳田君からのペット相談に見せかけたホラー相談。神からのご褒美かと思ったが、どうやら神からの試練だったようだ。
彼は本気だろうか。……冗談であってほしいが、冗談ぽく聞こえない。だとすると、精神的に何か苦しんでいて、妄想をーー。
「天野さんしか頼れそうな相手がいないんだけどダメかな?」
「ダメじゃない。全然ダメじゃないよ。私で良ければ力になるよ」
色々問題ありなご相談だったけど、ヤバイ案件<柳田君への恋心。愛が恐怖と困惑に勝った。これから生まれるだろう狂気は、あえて見ないふりをする。
大丈夫。冗談でも、精神病んでるでも、大穴で本物の怪談話だとしても受け止めよう。せっかく柳田君から話しかけてくれたのだ。ええ。全身全霊をかけて相談にのろう。
「それで……その市松人形のメリーさんはしゃべるのかな? なんて……」
「えっ? どうだろう。声帯はないみたいだし喋ったところは見たことないけど」
おっしゃぁぁぁぁ。メリーさんはしゃべりません。
大事なことなのでもう一度言おう。メリーさんは声帯がないのでしゃべれません。
その一言でものすごくほっとした。
もしかしたら、すごく大事にされていた人形で、生きているように扱われていたかなにかで、柳田君も生きているかのような表現をしたのかもしれない。なるほど、なるほど?……微妙にしっくりこないところもあるけど、そういうことにしておこう。その方が精神的に優しい。
「なら、名前はどうやって知ったの? 服に書かれていたとか?」
その場合、人形でではなく 持ち主がメリーさんな可能性が高い。……あれだ。外国人が日本に旅行にきて子供の人形がわりに買ったのかもしれない。それなら、市松人形に名前が書かれていても変ではないはず。
「服に名前は書いてなかったかな。子ども扱いすると、メリーさん怒るんだ。和服には名前を書かないで欲しいんだってさ。結構いい生地使ってるらしくて。一回書いたら、ぶちギレられて」
「へ……へぇ」
ぶちギレた市松人形……どんな状態なのだろう。ホラーな光景が目に浮かぶけれど、柳田君は普通だ。その普通さが逆に怖い。
「あっ。それで名前なんだけどラインで教えてもらったんだ」
市松人形のメリーさんはラインをしている。
新しいトンでもキーワードに固まった。リピートアフタミー、メリーさんの連絡手段はラインです。今時だ。今時過ぎて、逆にメリーさんの適応力の高さにビビる。たぶん驚かなければいけないのはそこじゃないけれど、私の知ってるメリーさんは電話だった。でも、そうだね。知らない人にいきなり電話するって、コミュ障には辛いよね。ラインの方がやりやすいよね。
「ほら、これ」
柳田君がスマホ画面見せてくれるけど、微妙に怖い。呪いの手紙みたいなものだろうか。少し迷ったが、柳田君の為と思い借りる。
メリー【私メリー。今、✕◯駅にいるの】
メリー【私メリー。今、✕◯公園前にいるの】
メリー【私メリー。今、✕◯学校の前にいるの】
メリー【私メリー。今、昇降口にいるの】
メリー【私メリー。今、階段前にいるの】
メリー【私メリー。今、教室の前にいるの】
メリー【私メリー。今、貴方の後ろにいるの】
メリー【私メリー。いい加減既読してよ】
メリー【私メリー。ちょ。帰っちゃうの? 気がつかず帰っちゃうの? 今鞄の中ーーちょ。まってめっちゃ臭い。やめて、何の臭いなの?!】
メリー【私メリー。ちゃんと帰ったら、鞄の中片付けなさいよ。ねえ。まだ既読つかないんだけど?!】
メリーさんのアイコンは市松人形だ。自撮りだろうか。上の方からのアングルで撮られている。やるな、メリーさん。現役JKな私より自撮りが上手い。
……いやいや、違う。ツッコむのはそこじゃない。なら、どこかと言われると、わからなくなるぐらいツッコミ待ちな部分が多いけれど。
「えっと、この日、柳田君のスマホって……」
「家に忘れた上に充電も忘れててさ」
……現代人なのにスマホがなくても気にしないぐらい、依存症がない柳田君は素敵だ。うん。メリーさんに悪いけど、混乱の極みにいる私は恋する乙女の眼鏡をかける事にした。