天野さんのメリ友
メリーさんにメリ友にならないかとスマホを差し出されたけれど、正直受け取りたくない案件だ。世の中未知の生き物の契約して、何も問題なくすむとは限らない。むしろ契約しちゃ駄目案件の方が多いのではないだろうか。魔法少女とか、魔法少女とか、魔法少女とか……。
メリーさんが魔法少女を勧めてくることはないけれど。
「えっと。私、特にスマホがなくて困ることもないし……」
悲しいがそれもまた事実。友達がいないからライン相手もいないし、親だっていきなり子供がスマホ貰ったなんて言い出したら驚き、解約しろと言ってくるだろう。しかも貰った相手がメリーさんとか、病院に連れていかれるか、お祓いしに寺に連れていかれるかの二択だ。もらえて良かったねという親がいるとは思えない。そうなれば親とも連絡は取ることがないので、まったく意味がない四角い塊となる。
「天野、スマホ始めるんだ。だったら俺と、ライン友達になってよ」
「分かった。ありがとう、メリーさん」
現金だなということなかれ。
柳田君とライン友達になれるチャンスなのだ。こんな幸運、今を逃したら、二度と訪れないだろう。例え怪しさしかないメリフォンだとでも、メリフォンのライン友達第一号がメリーさんだとしても、私はその恐怖を乗り越えてみせる。
「あっ。でも、ライン友達ってどうなるの?」
「貸して」
柳田君は私から呪いのスマホを受け取ると、ささっと設定してしまう。
メリーさんの能力に、人をスマホに閉じ込めるとか、そういう設定がないことを祈ろう。あっても、装備から外せないよ程度だといいなぁ。一応、これからもメリーさんの髪を可愛くしていこうと思っているし。
「はい、できた。一度送ってみるな」
画面には、『柳田零』と書かれて、桜の写真のアイコンがツインテールの市松人形の写真と一緒に並んでいた。
ピロンという音と共に数字が『柳田零』の隣につく。そこをタッチすれば、よろしくのスタンプがあった。猫がペコペコしてるのがものすごく可愛い。
「天野って猫飼ってるって言ってたし好きなんだろ?」
「うん……。うん。そうなの。ありがとう」
柳田君が私の好きなものをちゃんと覚えていてくれた。更に、わざわざ猫のスタンプを選んでくれた。
嬉しすぎてそれを上手く言葉にできない。すると今度は柳田君のスマホが鳴った。
メリー【メリ友になれば素敵な特典が】
メリー【なんとメリ友仲間の現在地が確実に分かる】
メリー【カーナビにも負けない】
まあ、メリーさんだしね。
普通にラインしているから忘れがちだけど、彼女は『私、メリー。今、○○にいるの』と言って近づいてくるのが定番の怪異だ。
ただ、メリーさんの能力を活用する場面が思い浮かばない。できてストーカーぐらいしか……いや、駄目よ。いくら好きでも盗撮、ストーカーは禁止だ。
そんな事を思っているとピロンと私のスマホが鳴った。
メリー【柳田情報も横流しできるわよ】
「メリーさん、これからよろしくお願いします」
私はストーカーではないけれど、恋する乙女として、欲望に負けたのだった。