メリーさんの恩返し?
メリーさんの縦ロール化製作を開始した私は、黙々とカーラーに髪を巻き付けた。なんだか懐かしい。小さい頃、こんな感じで人形遊びをしていた気がする。
「天野って本当器用だよな」
「そうかな?」
自分は普通だと思うけれど、誉められれば嬉しい。しかも好きな人ならなおさらだ。
興味津々な様子で私の手元を見る柳田君を見ていると、メリーさんの相談に乗って良かったと思う。今でもメリーさんは怖いけれど、その恐怖を無視してもおつりが出るレベルで幸せだ。まさか柳田君とこんな近くで話したりできる日が来るとは思わなかった。普段は住む世界が違いすぎて会話なんてないけれど、こんなに仲良くなれたのはメリーさんのおかげだ。
「はい。できた」
全てを巻き終え、私はメリーさんから手を離した。上手く癖がつくかは分からないけれど、メリーさんの夢には近づいたはず。人形だけどどことなくメリーさんも嬉しそうだ。彼女の微笑みが、まるで光輝いているように見え――見えるよ! メリーさん物理で発光してるよ!
「えっ。何、どういう事?!」
私が狼狽えると、スマホが鳴った。
メリー【天野、ありがとう】
メリー【縦ロールは長年の夢だったの】
メリー【とても幸せ(*´∀`*)】
何、この状況。ま、まさか このまま成仏しちゃうの?!
顔文字が使われているので、ラインの内容は緩く見えるけれど、メリーさんが本気で喜んでいるのが分かる。……メリーさん、ずっと縦ロールになりたがっていたもんね。
メリーさんの外側は市松人形だ。市松人形と言えば、小さな子が持ち歩いて遊ぶ玩具。きっと、こうやって持ち主が髪をいじったりもしていたのだろう。しかし子供はいずれ大人となる。
もしかしたらメリーさんは持ち主が大人になったことで忘れ去られ、棄てられた存在なのかもしれない。……どこかの映画でそんな玩具の話しを見たことがある。
その映画の玩具には少なくとも仲間がいた。でもメリーさんは独りだ。きっと寂しかったに違いない。
「メリーさん……」
よかった。メリーさんの最期に関われて。
メリー【天野、貴方はスマホを持ってないの?】
「あ、うん。高校の入学祝いに買ってもらう予定だったんだけど、中々お母さんも忙しいみたいでまだなの」
とうとつな質問だなと思いつつ答える。
実をいうと、最近のお母さんは家にいないことが多くてまだ買えていない。私も中学生の時はすっごく憧れた。でもいざ高校生になって友達が全然いない生活をしていると、まあいいかという気分になってしまってそのままだ。
メリー【机の中に手を入れなさい】
メリー【天野には世話になったわ】
メリー【私からのプレゼントよ】
恐る恐る手を入れれば、コツリと硬いものが手に触れた。それをどうするべきか迷っていると、机の中で音が鳴る。その音に驚きつつ、私は意を決して取り出した。
恐々見れば、私の手のひらの中には、四角の物体――スマホがあった。
「えっ。スマホ?」
画面には『メリーから通知』と書いてある。……えっ。
メリー【通信費ゼロ】
メリー【電話料金ゼロ】
メリー【充電もいらない優れもの】
メリー【さあ貴方も、今日からメリ友デビュー】
凄く万能だけれど充電もいらない時点で、猫型ロボ系の道具ではなく、怪談系の道具だ。
そしてどうやら私もメリーさんにとりつかれてしまったらしい。