メリーさんの髪型
先生に注意されたので、一度切り上げ、後日またメリーさんの髪をセットすることになった。そして今日は、とうとうメリーさんの髪を縦ロールにする予定だ。
「メリーさん、色々用意したね」
机の中を探れば、カーラーや、コテ、ヘアスプレーやドライヤーと色々出てきた。逆にどうやってこれらのものを手に入れているのか気になる。もしかして葉っぱのお金で買ったりとか違法な事をしていないだろうか。
メリー【天野、失礼なことを考えていないかしら?】
メリー【怪異には怪異の世界があるのよ】
メリー【人間をばかして手に入れたものではないから、安心しなさい。それに、私は柳田に養われなければいけない安い女じゃないよ】
メリー【柳田に借りはこれ以上作らない】
メリーさん、何か柳田君に借りを作っちゃっているんだ。
よく分からないけれど、まあ、彼女のプライドが許さないというのならば、メリーさんが用意したもので何とかするべきだろう。それに柳田君のお小遣いもメリーさんの物をいっぱい買えるほど潤沢ではないだろうし。学生は総じて貧乏なのだ。
「メリーさん、天野のことは信じているんだな。俺には、全然髪をいじらせてくれないんだ」
「うーん。それは仕方がない様な……」
ある意味自業自得というか。
丸刈り、輪ゴム、ツインテールすら失敗するとくれば、メリーさんが柳田君の技術を信じないのも仕方がない。失敗は成功の母かも知れないけれど、失敗される方はそんな毒母ごめんだろう。
メリー【縦ロール】
メリー【縦ロール】
メリー【縦ロール】
メリーさんの期待が痛いほど伝わるラインだ。しかもチョココロネの絵文字が貼られてる。けっこう浮かれてるみたいだ。
「このコテとか使うんだっけ」
「柳田君、凶器は置こうか」
「えー。流石にちゃんばらとかしないって」
そうではなく、柳田君だとうっかりミスでホットアイロンでメリーさんをジュっとかしそうなんだもの。いくら形状記憶機能があっても、女の子の顔に火傷を作ってはいけない。メリーさんが責任をとってと言いだして、柳田君が責任をとると決意されても嫌だし。
「今日は無難にいこう? まず、カーラーで巻いて放置して、明日固定のスプレーする感じで」
市松人形の髪が耐熱仕様になっているか分からないので、無難にいこうと思う。チリチリパーマだけはこれで回避だ。
メリー【そんなに時間がかかるの?】
「女の子のおめかしは時間がかかるのが普通だよ」
メリー【そうね】
メリー【仕方がないわね】
メリー【縦ロールになるんですもの】
良かった。メリーさんも納得してくれたみたいだ。
カーラーをつけたまま移動させるのは申し訳ないけれど、急がば回れだ。手酷い失敗をするよりは徐々に修正を効かす方がいい。
「スプレーは俺が明日家でやろうか?」
メリー【触るな】
メリー【呪うわよ】
「メリーさん厳しいなぁ」
髪に関する信頼関係がマイナスだから仕方がない。でもメリーさん、すでに柳田君を呪ってるんじゃ……。
そう思ったが、私はお口をチャックして、くるくると髪の毛を巻いた。