メリーさんの小物
柳田君の怖いものは謎。そしてメリーさんがいなくなるには、強い感情が必要と……。心のメモに書き足しておくけれど、このままだと、永遠に柳田君に飼われることになりそうで怖い。柳田君はいつだってマイペースだ。
「そうだ。さっそくメリーさんの小物とか服とか見てあげてよ」
「柳田君……うん。まあ、そういう約束だけどね」
メリーさんの怒りラインを読まずに、柳田君は注文する。まあ、柳田君にとってメリーさんを飼うのはまったく問題ないみたいだし。困ってるのはメリーさんだけなのかもしれない。頑張れメリーさん。私もメリーさんが柳田君から離れられる事を心の底から応援している。
メリー【……天野の机の中に手を入れなさい】
メリー【異空間に繋げたから】
メリー【柳田、とりあえず異空間に繋げる気になる程度に机の中を片付けなさい】
柳田君は鞄の中だけでなく、机の中も雑らしい。
「はーい」
「いや、待って。勝手に私の机の中を四次元にしないで」
さも当たり前のようにされてるけどやめて。繋げる気にならない柳田君の机の中も気になるけど、私はホラーが得意ではないのだ。机の中からこんにちはとか、机がバイブみたいに震えるとか、無理。
メリー【柳田の為よ】
メリー【ちゃんと普段は空にしておくから】
メリー【天野だけが頼りなの】
一番最後に頭を下げる市松人形のスタンプが張られた……って、このスタンプ、もしかしてメリーさんの手作り? 今どきのメリーさんはそんなことまでできるんだ。時代に合わせて進化するメリーさんに感心する。
「……そこまで言われたら、仕方ないか」
チョロいと言われようとも、柳田君の為ならばたとえ火の中、水の中、四次元空間の中だとしても飛び込みましょう。
「天野、ありがとう」
「どういたしまして。その代わり、柳田君は自分の机の中を今から片付けてね」
「……がんばる」
しょんぼりする柳田君を見るのは辛いけど、隣から異臭騒動が起こったり、黒光りする虫が出てきたりしたら百年の恋も冷めてしまいかねないので、ここは心を鬼にする。
ありのままの君が好きと言い切れなくてごめんね。
隣で柳田君が机の中を片付け始めたので、私もメリーさんの小物を確認する。隣から見てはいけないものが出てきそうなので、自分の机の上だけ注目だ。
「あ、可愛い」
メリーさんの小物は和風なものから洋風なものまであった。種類が豊富で見ているだけでちょっと楽しくなってくる。
メリー【私の自慢のコレクションよ】
メリー【このリボンなんて、縦ロールに似合いそうじゃない?】
「個人的には三つ編みでこっちのリボン使いたいかも。あっ、袴とかもあるの?」
メリー【勿論】
メリー【ドレスも和服も取り揃えてるわよ】
メリー【三つ編みも悪くないわね】
メリー【柳田、見てないで片付ける!】
童心に返ったみたいで楽しいなぁ。そして、メリーさん柳田君に厳しいね。
そんなやり取りをしながら小物の確認をしていると、突然教室のドアが開いた。いきなりだったためどきりとする。
「なんだ、柳田。まだいたのか?」
「机の片付け中でーす」
教室を覗いたのは担任の先生だった。しれっと柳田君は答えたが、私は内心慌てる。メリーさんを見られたら、学校に勉強に関係ないものを持ち込んだと怒られるかもしれない。それどころか、取り上げられるかも。
呪いの人形って他者に無理にわたった場合どうなるんだろう。
「ちゃんとやる気になったのはいいが、ほどほどにして帰れよ」
「はーい」
先生言うだけ言うと立ち去っていった。
あれ? メリーさんに対して何か言わなくてもいいの? と思ったけれど、気がつけばメリーさん消えていた。ついでに沢山小物たちも。
「えっ。嘘。……忍者みたい」
私が呟くと机の中からガタンと音がなり、私はひぃと小さく悲鳴あげた。