メリーさんの条件
メリーさんは意外にツインテールが似合うことが判明。
これならば縦ロールもありかもしれないと思ったある日のこと。
「ぎゃあっ!!」
「天野どうした?!」
放課後になり、さて、最近日課のメリーさん談議と、新しい髪型挑戦をしようとして机の中に手を入れた時だ。私自身が入れてはいないものが手に触れた――というより、何か小さくて硬いものに手を引っ張られるような感じがした。
なんだろうと机の中を覗いた瞬間。暗闇に潜むそれと、目が合った。
私の悲鳴に隣の席の柳田君は、一緒になって机の中を覗いてくれ、そしてズボッと手を突っこむ。
「こら、メリーさん。天野をあんまり脅かすなっていったろ? 天野は俺と違って繊細な女の子だから」
柳田君に女の子扱いされてときめくけれど、柳田君の手に握られた市松人形なメリーさんを見て、違う動悸がする。うううう。ホラー案件の相談を引き受けてしまったけれど、正直私にあるのは恋心のみで、ホラー耐性はないのよ。
メリー【私だってときめきが欲しいのよ】
メリー【ドキドキ心躍る、大きな叫び声とか】
メリー【血がたぎるような、引きつった叫び声とか】
「メリーさん、心臓も血もないじゃん」
柳田君がいう言葉はごもっともだけど、たぶんその発言はまたメリーさんを逆なでする発言だ。
またメリーさんが柳田君めがけてとびかかってくるのではないかとドキドキしたけれど、幸いにもメリーさんはピクリとも動かず、ラインが届く通知音が鳴るだけだった。
ああ、よかった――いや、いいのか? メリーさんからラインがくるのは普通な現象だと思い始めている自分が時折怖い。
メリー【チッ】
メリー【だから柳田は使えない】
メリー【天野の爪の垢でものんで、少しは私を畏れなさいよ】
メリー【あなたが畏れたら、ちゃんと次の持ち主のところに行ってあげるから】
「えっ。メリーさん、どこかに行くの?」
他にも被害者が――と思ったけれど、そもそも、メリーさんとはどういう怪異なんだろう。
私が知るメリーさんの怖い話は、貴方の後ろにいるという話で終わるのが基本だ。つまりメリーさんを飼うというのが、そもそも怪談をぶち壊している案件であって普通ではない状態……。
メリー【私の存在意義は、人を驚かせ、畏れさせることよ】
メリー【強い感情を貰えれば用はないわ】
メリー【だから畏れろ】
「ええ。そう言われても、メリーさん可愛いしなぁ。もう少し頑張って」
柳田君……。
確かに、喋らない市松人形は可愛らしい顔立ちだけど。でも状況的に呪いの市松人形なので、可愛いで合っているのか分からない。私は現に怖がってるわけだし。
それにしても、メリーさんにもメリーさんなりの条件があったのか。正直、とりつく相手を間違えてしまったのではと思う。
メリー【キリキリキリキリ】
メリー【髪をのばしても、鞄の中から出てきても、ラインで脅しても駄目なのに、後はどうしろっていうのよ】
メリー【柳田は怖いものはないの?】
うん。確かに、今の状態だと何をやっても柳田君が驚きそうな気がしない。
「怖いもの……えーと。うーん。饅頭?」
「それ、落語だよね」
柳田君の怖いものはとりあえず、不明のようだ。恋する乙女としては、聞きたいような、そうでもない情報のような……。とりあえず、今日も怒りのライン通知がピコンピコン鳴り響いた。