柳田君のクラスメイト
まさか、メリーさんに合掌する日がくるとは。人生、何が起こるかわからないものだ。
私は自分の鞄の中から、髪ゴムを取り出した。薄い黒色の半透明のゴムはさほど大きなサイズではないので、メリーさんにも使えそうだ。
「あ、それ、それ。昔見たのと同じだけど、やっぱり輪ゴムとはちがうのか。俺も前髪、輪ゴムで結んだ時痛かったし。なあ、それって何処に売ってるんだ?」
「これは100均で買ったよ。あー、柳田君はヘアアイテムが置いてある辺りは行かないよねぇ。使い捨てではあるけれど、一袋で100個ぐら入っていたりもするから、使い勝手がいいよ」
本来はこれで纏めた後にシュシュとかつけるのだけれど、生憎と市松人形サイズのものは持っていない。昔買った和柄の端切れとかで作れないだろうか?
「とりあえず、私のを使おうか。メリーさんも寝てることだし」
私に髪を何とかしてもらいたくて、学校までついて来たのなら、子守唄で寝かしつけられただけというのは可哀想だ。
「えっ。いいのか?」
「うん。使い捨てので悪いけど」
シュシュやリボンもないのなら、本当はもっと可愛い飾りがついたものを使ってあげたいけれど、今持っているのは、一袋に何本も入っているタイプのもだけだ。
そもそも、飾りつきだと人間サイズでは大きすぎるので、手作りするか、人形用を買わないといけないだろう。私の持っているもので何か代用できないかなぁ。
学生の小遣いは世知辛い。
「あっ。歯ブラシは新品を持ってきたから」
柳田君はそう言って、鞄から歯ブラシを取り出した。
……そうなんだよね。メリーさんは激おこしているけれど、柳田君に悪意は全くないのだ。髪ゴムは知らなかっただけだし、髪を切ったり結んだりで失敗するのは、不器用なだけ。調べればこうやって歯ブラシも用意してくれるいい人である。なのにどうしてこう、メリーさんの神経を逆なでしてしまうのか。
「ありがとう。人間用だと、やっぱり大きすぎるから、助かる」
私はメリーさん起き上がらせると、まずは歯ブラシで毛をとぐ。メリーさんの髪はサラサラのストレートだ。これにパーマをかけるとか勿体ないけれど、メリーさんは縦ロールが夢なのだから仕方がない。
ただし今は道具がないので、ツインテールだ。個人的には三つ編みとかもいいなと思ったので、今度やらせてもらおう。メリーさん、袴とか持っていないかな? 女学生風とかもなんだか似合いそう。
「流石天野。手先が器用だな」
「そうかな?」
ただ二つにわけて、上の方で結んだだけだけど。
それでも出来上がったメリーさんを前に、柳田君は喜んでくれた。うんうん。柳田君の眩しい笑顔が見れただけで、私には十分のご褒美だ。頑張った甲斐があった。
「そうだって。ほら。中学校の時だって、天野、美術で賞とかとってたじゃん」
「あー……よく知ってるね」
まさか知られているとは。ちょと照れてしまう。個人的には嬉しい記憶だけど、まさか柳田君が知っていたとは思わなかった。
「そりゃ、同じクラスだし、知っていて当然だろ?」
「うん。そっか」
当然なんだ。
自分で言うのもなんだが、私は影が薄い。多分、私の名前をちゃんと覚えていないクラスメイトもいたと思うし、今なんて特に多いだろう。だから当たり前のように、柳田君にクラスメイトの一人だと思ってもらえているのは、凄く嬉しかった。
メリーさんの髪の毛も綺麗に結べたので、泣きたくなるぐらい温かいものを胸に抱いて、私は柳田君と別れ、家へと帰った。
そして、翌日。
メリー【縦ロールじゃないじゃない】
メリー【まあ、柳田よりはマシだけど。でも飾りが全くないってどういうこと?】
メリー【今度髪飾りも出すから、それ付けなさいよ】
柳田君のラインにはメリーさんの小言が並んでいた。
でもそんなメリーさんの自撮りのアイコンは、ツインテールに変わっている。気に入ってもらえたんだと思うと、ちょっと嬉しかった。