メリーさんの縦ロール信仰
登校したけれど、中々切り出せないまま放課後になってしまった。……ああああ、どうして昨日逃げてしまったんだろう。折角 柳田君が相談してくれたのに。
「天野、昨日はごめんな。まさかあんなに驚かれるとは思わなくて」
ぐるぐる悩んでいると、柳田君がパンっと両手を合わせて頭を少し下げた。大袈裟な動作に私の方が狼狽える。
「わ、私こそ勝手に先に帰ってしまってごめんね」
「天野は悪くないって。もしもメリーさんのせいで、学校に来なくなっちゃったらどうしようかって焦ったよ。本当にごめんな」
柳田君はなんて優しいんだろう。キュンキュンしてしまう。
「天野にとっては散々だっただろうけど、メリーさん的にはいい反応だったみたいだぞ。あの後、スッゴい喜ばれた上で、柳田は駄目だってディスられた」
「あはははは」
確かにメリーさん的には柳田君の反応は不満だろうなぁ。ホラー的なオチをコメディに変えてしまうし。そもそも、メリーさんの目的はなんだろう。まあ、怪異にそんなものを求めるのが間違っているのかもだけど。
ピコン。
スマホが鳴ったので、柳田君が取り出した。
「メリーさんからだ。えっと。あっ。これは天野にだな。ほら」
「えっ。私?」
メリーさんがなんのご用だろう。ちょっと怖いんだけど。でも、もしかして謝罪とか?
メリー【ツインテールにしなかったの?】
メリー【行動と言葉でしめさないと、永遠に伝わらないわよ】
メリー【ツインテールよりも縦ロールがオススメだけど】
「余計なお世話だし、縦ロールな女子高生なんていないわよ」
メリーさんは謝る気ゼロだ。それどころか余計な事を……。柳田君をチラっと見たけれど、どうやらメリーさんの言葉の意味は伝わってなさそうだ。それはそれで少し残念な気がしてしまうのが、乙女の恋心。気が付かれたら恥ずかしいけれど、まったく気が付かれていないのも悲しい。
「なんかテニス漫画で縦ロール女子高生っていなかったっけ?」
「あれは漫画だからだよ。実際にこの高校でやったら、校則でアウトだから」
ある程度の髪型は許されているけれど、進学校な為基本髪を染めるのも駄目だし、パーマも駄目だ。縦ロールなんかやった日には、確実に指導室に呼び出されるだろう。
そもそも、あの髪型で制服が似合う女子高校生は少ない気がする。
メリー【遅れているわね】
メリー【時代は縦ロールよ】
「縦ロールが流行ったのって、百年ぐらい前じゃないの?」
メリーさんの時間はどうなっているのだろう。いや。外見が市松人形なだけなので、もしかしたら、ものすごくおばあちゃんな可能性もある。
メリー【失礼ね! 名古屋巻きを馬鹿にしないでちょうだい】
メリー【少なくとも、2000年代には流行ったの】
メリー【縦ロールは何度でも蘇るのよ】
メリー【気が付けばあなたも――】
「怖い。いちいち、ホラーに結び付けてくる」
「メリーさんって、本当に怪談が好きだよな」
存在自体怪談だからね。
ただし話題が怖いような怖くないような、微妙なチョイス過ぎる気も……。でも、クラスの女子がみんな縦ロールになってたらやっぱり怖いか。呪いというより、何かの儀式が始まりそう。
「ツインテールで縦ロールならあり……か?」
「だから校則で禁止されてるって」
柳田君も無理にメリーさんを肯定しなくていいからね。例え好きな人に誘われても、縦ロール信仰に、私は入団しません。